第101話 魔法学園の特別授業
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「留学生活、めちゃくちゃ楽しい!」
あたし達はフルト学園でも非常に充実した生活を送っていた。
留学生が滞在する間、フルト学園では通常授業の合間に特別授業が開かれるのだ。
お題は共通して『秋の大陸の特色について』。今まで二つの大陸を見てきて色んな経験をしてきたが、秋の大陸の魅力も負けてはいなかった。
1日目が果樹園の散策、そして2日目は虫の魔物の鳴き声検定だった。
魔物の鳴き声と聞いて合唱魚を思い出し、あたしとリサは耳を押さえながら挑んだ。実際はリンリンコロコロと静かに鳴く虫ばかりで、その怯えっぷりをクラスメイト達に笑われてしまったけれど。
君達だって毛虫にはビクビクしてたでしょう! その後は優しく教えてくれたから、嫌な感じは無かったけどね。
特に美しい音色を奏でる虫はリラックス効果があるとされ、秋の大陸では飼っている家も少なくないらしい。
鳴き声は特徴的なものからほとんど違いが分からないものまで様々で、記憶に絶対の自信の無さがあるあたしは検定に惨敗。イントロクイズもよっぽど聞き続けたものしか分からないのに、こんなの無茶だよ。
更に伝統的な料理も教わった。果物と一緒に煮詰めたものらしい。
拒否権は与えられなかったので食べてみたが、何というか……可もなく不可も無い味だった。
3日目はプールに放たれた魚の魔物とのバトル。
学生の間は戦闘禁止だったよね? ルール形骸化してない? ここにもワキュリー先生みたいな人がいるのか、と色々不安になったがちゃんと理由はあった。
フルトの街は海に面していて、少なくはない頻度で海の魔物が打ち上がってくる。そのまま街に侵入して暴れることもあるので撃退方法を身に付けよう、というのが目標だ。
対戦相手は秋刀魚のような細長い魚で、その身は実際に刃物レベルの切れ味があった。
直接触るのは非常に危険だ。なので、飛び掛かってきたやつから順番に急速冷凍していった。
ハルヒは両腕を竜化させ、防御力を上げて魚に掴みかかった。一匹目はそのまま握りつぶしてしまったが、次から加減を覚えて優しくつまんでいた。身動きが取れなくなった魚の頭はリールが美味しく頂きました。……口の中切ってないかな?
あたし達の派手な動きの陰で、リサもプールの側に生えていた木々の枝を魔法で伸ばしてしならせ、危なげなく撃退していた。
というか魔物を倒してしまってはダメなので、一番褒められたのはリサだった。
その隣で、パッチが足を滑らせてプールに落下する事故もあったが、魔物に切り裂かれる前に無事に救出した。ドジっ子極まりすぎてヒヤヒヤしたよ。
ちなみにリサは、フェアユング先生に報告する義務もバッチリ果たしていた。スマホの使い方にももう慣れたようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして4日目の今日。今度はどんなことをやるのかとワクワクしながら、オーバスト先生に引率されて外に出できた。
しかし、到着したのは特に変わった様子のないただの運動場。しかも「ここで待っていなさい」と言い残し、オーバスト先生は姿を消してしまった。
取り残されて手持無沙汰に待機するあたし達。それとは対照的に、クラスメイト達はここ一番の盛り上がりを見せていた。
「本当に見られるんだね!」
「早くいらっしゃらないかなあ」
誰かがサプライズで登場してくるようだ。ヘラビス……ってことは無いけど、相当人気のある人物らしい。
「パフォーマンスでもするのかなあ。パッチは何か知ってる? ……あれ、パッチは?」
クラスメイト達ともだいぶ打ち解けては来たが、一番話しやすいのはフライングで出会ったパッチだ。
そんな彼女に話を聞こうとしたのだが、近くに姿が見当たらない。あのドジっ子、今度は迷子になったりしてない?
「ねえハルヒ、パッチが居ないんだけど?」
「あれ? ……いや、向こうにいるよ」
よくよく周囲を見渡してみると、パッチは校舎の影から顔を覗かせていた。
こちらに近づこうとはせず、いつもの元気もなく怯えているような雰囲気さえある。かといって、ここから立ち去ろうとはしていない。
様子はおかしいけど、声を掛けるのはなんだか憚られた。
「とりあえず見える場所にいるし、そっとしておこう」
「うん、そうだね……」
ハルヒも心配そうにしていたが同意見のようだ。
直後、クラスメイト達から歓声が上がった。
こちらに戻ってくるオーバスト先生と共に、もう一人男性がやってきた。
すらりとした長身で、赤い髪の毛と対照的に青いマントを羽織っている。腰には細身の剣をさしていた。
「勇者様!」
「マルティオ様だ!」
マルティオと呼ばれた男は手を上げて歓声に応える。笑顔が爽やかなイケメンだ。
勇者様、か。確かにそんな雰囲気を纏っている。
あたしと目が合ったマルティオは、一際目を細めて微笑んできた。
おっと、面識合ったっけ……覚えてないけど笑顔で返そう。
観衆に一通り手を振り終わると、マルティオは腰に下げていた剣を抜き、真っすぐ天に掲げた。
剣の鍔にはめられた魔法の種が、白い光を放つ。上空に舞い上がった光が弾けると、無数の小さな光がゆっくりと降ってきた。
スノードームを彷彿とさせる幻想的な光景の中で、マルティオは踊り始めた。
剣舞、というやつだろうか。覇気のある掛け声や思い切り剣を振りぬいたりすることは無く、むしろ音を立てずに優雅に剣を躍らせている。体の動きも、それに合わせてたなびくマントも、光と静寂の中に溶け込んで消えてしまうのではないかと錯覚する。
クラスメイト達(特に女子)は、神様でも崇めているのかといった雰囲気で手を組んで舞いに見惚れていた。
ただ一人、パッチだけは静かに視線を落としていた。
マルティオがふっと剣を下ろし、宙に漂っていた光が消える。拍手喝采の中剣を仕舞ったところで、オーバスト先生がマルティオに近づいた。
「マルティオ様、ありがとうございました」
「いえいえ。フルト学園の学生へ、そしてこの時期やってくる春の大陸の留学生へ贈り物をするのは、僕も楽しみでしたから」
マルティオはこちらへ向き直ると会釈をした。
「皆さん初めまして、マルティオ・ラピスです。ギルド『プラウゼン』のフルト支部に所属する『二つ花』です」
勇者様で冒険者、ならハフトリープさん並のランクかと予想していたのだが、それよりだいぶ低かった。
「マルティオ様はこのフルト魔法学園を卒業して一年で『二つ花』になるという最速記録を成し遂げています。主なご活躍としては幽霊霧の群れを退治された事が有名ですが──」
というのは浅はかな考えで、卒後一年で到達するランクとしては十分高かったらしい。
オーバスト先生から武勇伝が語られ始めたが、あたしの意識はそちらには向かずマルティオが持っている魔法の種に吸い込まれていた。
あの剣にはめられた魔法の種、凄く綺麗に透き通っている。そう、あたしの魔法の種といい勝負なのだ。
もしかすると、そういうことなのか?勇者様と呼ばれているくらいだし──
「こんにちは。君が氷の特級に選ばれたナカガワさんかな?」




