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第100話 フルト魔法学園

祝100話!!

 新しい場所での生活が始まった。


 ハルヒと一緒のベッドに緊張したリサが寝付くまでもぞもぞと動いていたせいで、違うベッドにいたはずのあたしまで寝不足だ。

 初日から睡眠学習するのは避けたいなあ。


「今日から2週間、春の大陸からやってきた留学生と一緒に学びましょう。さあ、お入りになって」


 教室の中にいたオーバスト先生から声を掛けられ、廊下で待っていたあたし達は教室の中へ入っていく。


 フルト学園の生徒の人数は、シュプリアイゼンより若干少ない。概念の化身コンゼツォンの生徒がいないためだ。なので、姿が変わらないハルヒはともかくリールはあっという間に注目の的になった。

 リールは人に囲まれることにもすっかり慣れた。撫でまわされる時だって、羽を広げて一人でも多くの子が触れるようにしてあげている。しつこい子の手元からするりと抜け出す所作も達人の域に達していた。


 それに対して、あたしの魔法の種ケルンが特級であることについてはあまり反応が無かった。驚く様子はあったけれど、もっと騒がれるんだろうと身構えていただけに拍子抜けだ。

 なんでだろう……まさか、学園内に別の特級がいるんだろうか? 今まで会ったこと無かったけれど、その可能性はゼロではない。近くに居るのなら会ってみたいな。


「さて。皆さん交流を深めたいでしょうし、せっかく新しい仲間が増えたのに座って授業をするのは勿体ないですね。移動しましょうか」


 リールが一通り撫でられ終わったところで、唐突にオーバスト先生が教室から出ていった。生徒達もこぞってその後を追っていく。

 騒がず自然に列を作って移動していく様は優雅だ。リールの可愛さには負けてしまった様だが、基本的に礼儀正しい集団のようだ。


「え、どこに行くの?」


 眠かっただけに座学をしないのはありがたいが、何の説明も無くて困惑する。


「ほらほら、早く一緒に行きましょう!」


 赤いお団子が視界の隅でぽんと跳ねる。パッチがあたしの背中を押して誘導を始めたのだ。


「おう、分かった、普通に歩くから押さなくても……あっ」


 あたしが歩みを速めた事に反応できず、あたしの背中に体重をかけていたパッチは手をズルっと滑らせて地面に落ちた。


「えへへ……ごめんなさい、では一緒に行きましょう!」

「いや、あたしこそごめんね」


 顔面から落ちてもテンションを落とさないパッチ。つわものである。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「おおー!」


 目の前に広がる光景に、あたし達は揃って感銘を受けた。

 ぞろぞろと大勢で歩いて向かった先は、校舎の裏にそびえる果樹林だった。

 綺麗に整列した木々には、紅葉した葉に負けじと色づいた様々な果実がなっている。


「学園で育てている果樹は10種類以上。果物と言えば夏の大陸のチュンケルの森が有名かも知れませんが、秋の大陸の果物も負けていませんよ」


 そう言われてみれば、チュンケルの森で果物狩りをした場所にひけを取らないレベルの広さがある。

 果物狩りかあ……。楽しかったけれど、あの時は色々あったんだよな。


「熊とかいないよね? あと近づくとヤバい花とか」

「学園は街の端ですが、魔物の住処はまだまだ遠くなので安心してください! でも、木々の根っこが張り巡らされているので足元には……」


 あたしへの注意を言い終わらないうちに、パッチは木の根に足を取られて転んでいた。

 フラグ高速回収ご苦労様です。怪我はハルヒが秒で治しました。


「それではまずは……この果物について分かる人、留学生さんに教えてあげてください」

「はい! これはアベルです。秋の大陸で育つアベルは他の大陸より大きくなるのでたくさん食べられます! 食べごろは赤紫色なので、これはまだです」


 先生の問いかけに、一人の生徒が元気よく答えた。


 頭上に実るアベルの実は、真っ赤に染まっている。十分おいしそうだけど未熟なんだ。

 大きさは片手に収まるか怪しいくらい。もっと成長するなら、一人じゃ食べきれないかも。


「その通りです。ではあちらにあるピンク色の実は?」

「はーい、あれはネクタリンでーす。アベルよりみずみずしくておいしいでーす」

「あらあら、アベルだって美味しいのですけれど」


 先程とは別の生徒が答えた回答に、先生は頬に手を当て困った反応をした。

 ネクタリンは、少し小さな桃だ。りんごより桃の方が甘いから、子供受けが良いのは仕方ない。


「ああ、生き生きとした植物がこんなに沢山……ネクタリンの葉のエキスは肌に良いのですよ。少しだけでいいので貰う事は出来ないでしょうか?」


 リサは果物の美味しさよりも、植物の薬効に心をときめかせていた。


「そうですね。ネクタリンは食べごろまで成長していますから、別々の枝から一枚ずつなら採取しても大丈夫でしょう」

「いいのですか!? 有難くいただくのです!」


 まさか許可が出るとは思わなかった。

 リサもそう思っていたようで、大喜びでネクタリンの葉を採取し始めた。


 その頃リールは少し遠くの木へ飛んでいき、幹を訝し気に見つめていた。


「これって悪い虫?」

「あ、木をかじって駄目にしちゃうやつだ! と、取らなきゃ!」


 駆除しようと言いつつ、生徒達は離れた所で震えている。毛虫を抵抗なく触れる子は近くにいないようだ。


「なら任せて! とりゃっ」


 消していいものだと確認してから、『藍玉あいだま』を発動して木へと向かわせる。

 瞬時に害虫駆除をこなしたリールは拍手喝采を受けていた。


「あら、なんだか趣旨がずれてきましたが……楽しそうですから良いでしょう」


 自由に動き回る留学生とそれを囲う生徒達を見て、オーバスト先生は微笑んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「と、こんな感じですぐに馴染めました」

「はしゃぐ気持ちも分かるが、もう少し行儀よくしなさい。特にお主と上崎は年上なんじゃぞ」


 あっという間に一日が終わり、あたしは寮のベッドでごろごろしながらスマホで通話をしていた。相手はフェアユング先生だ。


 使用しているのはあたしが元々持っていたスマホではなく、ヘンディーが作ってくれたフィルゼイト専用機である。


 概念の化身コンゼツォンとしての力の使い方に慣れてきたことに加え、他の世界で携帯電話の技術が進歩して更に概念が広がったことで、電波環境の無い世界でも使えるスマホを生み出せるようになったとか。

 あたし達の留学に間に合ったのは今使っているものとフェアユング先生が持っている2台のみだが、ゆくゆくはこの世界にも携帯電話を普及させて更なる力を得るつもりのようだ。


 ヘンディーの野望はどうでもいいけど、こうしてまた通話が楽しめるようになったのは嬉しい。あわよくば地球の電波を拾えるようになって、こっちでもソシャゲが出来るようになると最高だな。


「虚無くんが馴染めるかが心配じゃったが、何ごとも無かったようで安心したよ」

「むしろ一番乗りでしたね。まあ、あの可愛さに負けない子なんていないでしょう」

「相変わらずのデレっぷりじゃのう……」


 この通話の名目は「留学中の出来事をフェアユング先生に伝える」ことなので、事細かにリールの雄姿を伝えていたのだが、「もっと簡潔に」「普段の授業もこれくらい暗記してくれれば」と怒られてしまった。後半についてはあたしもそう思います。


「しかしこれは便利じゃのう。魔法を使わず遠くの人と会話が出来るとは。ヘンディーくんには頑張って増産して欲しいものだ……おっと、あまり長話をすると明日に響くな。また明日、報告を楽しみにしておるよ」

「分かりました、おやすみなさい」


 一呼吸おいて、通話を切る。固まっていた体を伸ばす様に大きく両手を上げた。

 もう一つのベッドに目をやると、既にハルヒとリサが潜り込んでいた。


「本当にそんな板で通信が出来るのですね。物を見ただけでは信じられませんでしたが、興味が湧いてきました」

「お、じゃあ明日はリサが報告の電話してくれる?」

「ま、任せるのです。立派に役目をこなしてみせます」


 スマホを手渡してやると、リサは恐る恐る画面をスライドした。

 あたしも初めて触ったときはこんな感じだったのかな。操作の確認をしているけれど、いちいち指を画面から離す動きがなんだか面白い。


 あたしが笑っているのに気が付いたリサは、恥ずかしくなったのか布団に潜り込んで出てこなくなってしまった。


「ムウ寝よー」


 あたしも眠ろうと乱れた布団を直した所で、リールが飛びついてきた。どうやらここの籠もお気に召さなかったようだ。

 リールを抱きかかえるいつもの体勢になり、眠りについた。

やっと大台に乗ることができました。ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

今年の更新はこれで最後とします。来年も変わらずのんびり更新だと思いますので、たまに覗きに来てください。……これ書くのも三回目なんだな。

ともあれ、今年は大変でしたから、来年は良い一年になるよう祈っています。メリークリスマス、良いお年を!

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