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いざ、未知なる書物を探しに

 当初一人で抜け出す筈だった家を、ミリと一緒に抜け出すことになった私。親に着地の衝撃音が聴こえないよう、静かな跳躍で出来うる限り遠くの位置まで跳び、なるべく静かに着地する。

 ミリは屋根から飛び降り、普通に塀を飛び越えて走ってきた。おそらく全速力だというのに足音一つ立たないのだから不気味だ。


「で、お嬢様。どこに行くおつもりですか?」

「王城」

「いえ遠すぎませんか」

「まぁ距離は問題じゃないからね」


 古代龍からすれば星程度一晩で一周出来るものだ。自分も魔法さえ使えば古代龍を超える速度で走れる。


「ちなみに王城の近くまで行って何をするつもりで?」

「え、王城の図書室にでも忍び込もうかと」


 ミリを背後にしながら何食わぬ会話を繰り広げていたつもりだが、突如ミリが立ち止まる。振り返るとわざとらしい微笑みを浮かべていた。


「馬鹿ですか? 主にモラルが」

「バレなきゃ英雄だから」


 こっそり忍び込んで盗むといった行為は前世でも頻繁に行っていた。盗まれるという行為も若い頃はよくされていたし、割と身近な行為ではあるが悪いことは悪いことだ。


「ま、それに今回貰うのは知識だからね。別に減るもんじゃないでしょ」

「貰うじゃなくて盗む、ですけどね」

「どっちだって同じだよね。取りあえず少し離れて」


 ミリに対し、顎で指示をする。自分より少し後ろに下がったことを確認すると小さく呼吸を整え、目前の地に手を翳し魔術を唱え始める。


「『駆けよ駆けよ、我わが仕えしは風神ヴァーユ。これより我が名は風精霊シルフィーユ。何故に貴方は孤独に大地を駆けるのか。何故に私を孤独にするのか。私が願うは、貴方と共に駆けること。ああ風よ、愚かな私の望みを叶えてくれたまえ___』」


「【一角獣ユニコーン】」


 辺りの気流が一点へと収束する。圧縮された気圧は実体を持ち、馬の形を成した乗り物が現れた。空気自体は無色だが周囲の木の葉を少しばかり巻き込むことで馬の形を見せている。


「さ、乗って」


 気圧で押し固め、中で木の葉が荒ぶっているが見た目ほど乗り心地は悪くない。少し硬い程度、些細なことだ。

 私が馬に乗り込むのを見ると、ミリも後ろに乗ってくる。


「今のは何でしょうか? 初めて聞く感じの詠唱ですが」


 などと聞いてきながら、ミリが背後から抱きついて腹の肉を揉んでくる。どちらにせよ連れて行くにはこうしなければならないので、そのことには黙っておくが……。


「ん、知らない? ミリも時神クロノスの加護受けてるじゃん、ほら、加護を行使したりとか、しないの」

「確かに加護は受けてますが…… そんな長ったらしくゆったりとした詠唱を聞くのは初めてですね」


 どうやら、遥か未来の世界ではこのような呪文は使われていないようだ。


「ミリの知ってる魔法ってどんな感じ?」

「んー、ちょっと実践してみましょうか」


 そう言ってミリは馬から飛び発ち、それと同時にどこからともなく手中に大鎌を召喚した。両手で構える程の巨大さを誇る銀の首狩り鎌だ。

 詠唱を唱える訳でもなく、見えない空間から取り出した大鎌を、飛び降りる勢いのまま斜めに振りかざす。


「『奔れ、【亜空斬】』」


 恐ろしく短い詠唱、しかし大鎌から放たれた黒い斬撃は少し離れた大木の幹を切り落とした。

 ミリが説明がてら繰り出した技ではあったが、私は高揚した。詠唱なしで物を召喚する技、瞬間的に放たれる大技。どちらも前世ではなかったもので、私を恐れさせるに足りうるものであった。


 遥か未来の世界、やはり数知れぬ未知が潜んでいる。中には、私を殺す術があってもおかしくはないだろう。


「お嬢様、これが現代の魔法です」

「取りあえず、やっぱり戦いません?」

「いえお断りさせて戴きます」


 余計に戦いたくなったというのにお預けを喰らうというのは良い気分ではないな。と、いうかだ。


「ミリってもしかして私が転生者って分かってる?」

「そりゃそうですけど…… って、え、隠してるつもりだったんですか」

「そうだけど?」

「そうだったんですか!?」


 ……ミリの驚く顔を見るのはこれが初めてだ。実に不名誉な初めてである。


「ま、まぁご両親にバレてるかは知りませんが隠す努力しておきますね」

「ってか、どこで分かったの?」

「分からない方が不自然だと思いますよ? 出生後七ヶ月二日で歩けるようになって、一年二ヶ月十日で殆どの言葉覚えて、三年一ヶ月三日で私から逃げるようになって…… 普通不自然だと思いませんか?」

「普通そんな細かく覚えねえよ」


 一ヶ月単位ならまだしも一日単位で出来事を覚えるような奴はいない。おそらくバレたのも、ミリが私の熱狂的な信者だからであって、長らく観察しているうちに自然と分かったことなのだろう。


 幸い両親とはあまり関わっていない。ミリに養育費を出してくれる良い両親ではあるが、私に力がありすぎるが故に数ヶ月前まで触れ合うことも出来なかったからだ。

 最近は加減出来ているが、母親は私にどう触れ合えば分からないようだ。父親は骨が折れても触れ合おうとしてくる馬鹿だが、まぁ馬鹿だしバレてないだろう。


「ま、行きながらでいいからこの世界の魔法教えてよ。詳しいんでしょ?」

「了解しました~」


 ミリは蕩けた声で返事しながら、再び私の後ろに乗り込む。私は馬を大きくいななかせると、地図に記された王城目掛けて一角獣を走らせた。

 王城までの距離、ミリが遠すぎると評した距離であったが、村と村の間隔が地図通りに短く十分と経たずに到着した。

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