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入学

時は経ち、厳しい寒風を耐えて生暖かい風が吹く季節になる。

そろそろ四月、グレイラット学園に正式に入学する日がやってきた。


私もクレティア様も学園指定の制服をきっちりと着込み、私の髪の毛は整髪剤も用いてオールバックになるようキッチリとセットされている。

騎士の家系が正装と合わせて使う髪型らしい。


「───入寮するとこが同じ場所だというのはクレティア様も読んでいましたが、まさか試験の結果まで同じだとは思いませんでした」

「ちゃんと考えれば予測出来る話だったわね、お互い筆記も実技も優秀、けれど最終試験だけ即脱落したって終わり方だったもの」


上位30%。それが私達の入試における結果であった。クレティア様の方が僅か0.2%ほど成績が良くて勝ち誇っていたが、誤差の範疇だろう。


「早速だけど私達の目標は?」

「特進クラス────飢狼ヴォルガ寮の上位16名に入ることです」

「そして加えて貴方は血を克服することね」


結局ローズ家にお世話になってる間で克服は出来なかった。

血を見る、という行為は大丈夫になったが、実剣で人と打ち合うとなるとどうしても手が震えてしまう。


「克服出来なきゃ当然上位16名なんて無理よ、そして私だけが入れるってなったら当然置いていくから」


その言葉にどう返答してよいのか分からず言い淀む。

自身でも分かる深刻な症状が関連するようなことだ、無責任なことは言えない。


そんな私の足をクレティア様は剣の鞘で叩いた。


「私が先に入るぐらい言いなさいよ!」

「すみません……」

「執事長から言われたんでしょ、私の真似をしなさいって。私ならどう言うか考えて断言しちゃえばそんなの直ぐよ!」


クレティア様は元気いっぱいな笑顔を携えて励ましてくれる。

入学のテンションでやや興奮していた。普段より力が入っており、叩かれた箇所がじわりと痛んだ。


「お嬢様、シオン様。馬車の準備が整いました」


執事長が目を細めて静かに頭を下げる。


「そんじゃ帰るまでは生きてるのよ!」

「えぇ、楽しみにしています」


クレティアが跳ね足で段差をすっ飛ばして馬車に飛び込んだ。


「それではお世話になりました」

「───学園では色々ありましょうが、何が正しいか決めるのは常に自分か信じた者のどちらかです。赤の他人の妄言に惑わされぬよう、心に留めておいてください」


互いに両手を使って握手を交わすと、執事長は私の手を強く握って忠告を寄せてくれた。

私を憂うその瞳に対し、私は強く握り返すことで返事とした。


「さぁ行くぞ!」


御者台には騎士長アリスと副団長。

二匹の馬を同時にいななかせ、馬車が動き出した。そして同時に周囲で鎮座していた二十数台の馬車も動き出す。


「凄い護送ですね」

「まぁ学園に家名を顕示する意味合いもあるからな、シオン殿とクレティア様に護衛は不要でしょうが」


クレティア様と私の実力は拮抗しており、共にローズ家の中で3番目の実力者として見られている。


「いやぁたった4ヶ月だったが充実した時間だったな。魔力無しに負けてたまるかって部下共も張り切って────褒められた動機ではないが私も楽が出来そうだ」


アリス騎士長の顔は見えないがきっと悪い顔をしていることだろう。彼女は率先して人を率いることこそすれど人より働くことが嫌いなのだから。


「あとアスティア様からも伝言預かってきましたよ。家名に恥じぬ行動をしなさい、と」


その言葉にクレティア様は無言で大きく舌を出した。御者台とはガラスとカーテンで隔たれているので、馬車内で向かい合っている私にしか見えていない。


「さてグレイラット学園までは馬車で四日かかる。あまり緊張せずゴロゴロ転がってるといい」

「四日かかるなら髪セットした意味は───」

「アスティア様へのパフォーマンスだな!」


大きな笑い声が御者台から響き渡る。

ならば髪の毛を崩さないよう姿勢をいちいち正す必要もない。私は馬車の前側の座席に寝そべった───


◇◆◇◆◇◆◇


ローズ家の屋敷を出てから四日が経過した。

馬車での移動は非常に退屈だ。

馬車からの景色というものは貴族とその付き人という立場上見飽きたものだし、それに加えて森林の景色は変わり映えしないものだから退屈で死にそうだった。

ローズ家に向かう途中はアスティアと対面していたせいだ酷く緊張していたが、それが有難く感じるほどの退屈であった。


「移動中も運動出来たらいいですね……」

「そうね───」


御者台で馬を繰っている人が羨ましい。

せめて仕事があるなら退屈も凌げるというものなのだが。

アリス騎士長と副騎士長の笑い声がこちらにも聞こえてくる。


「おっとそこで倒れているクレティア様にシオン殿。そろそろ人に会う支度をするといい」

「やっとね!」


クレティアがガバリと立ち上がり馬車の低い天井に勢いよく頭をぶつけた。


再び床に倒れ込むクレティア様に笑いを堪えながら私はゆっくりと起き上がる。座面の端に寄せていたカバンから整髪剤と櫛を取り出し丁寧に髪を整えていく。


「私の髪も頼むわね」

「頬に付いている跡も直しますよ」


この四日間非常に退屈だったために、どんな体勢で暇を潰そうともお互い咎めることはなかった。

お陰でクレティア様の頬にはカーペットの跡が付いているし、髪の毛は左半分に全て寄るほどの暴れ具合を見せていた。


「痛っ」


櫛を通すのにさえ一苦労。

オシャレの為だとはいえ、よくこんな面倒くさい髪の毛を残せるものだと感心さえ覚える。


そして到着までの一時間。悪戦苦闘しながらもクレティアを出立時と同じ髪型にまで戻したのであった。


カラン、カラン、と車輪の音が遅くなる。


「到着しましたよ。ここから先、私達は入れませんのでご自身の足でお願いします」


馬車が止まるやいなやクレティア様は真っ先に飛び降りた。

本来であれば従者として一時的に雇われている私がエスコートしなければ行けないのだが、その過程をすっ飛ばされる。


「降りるときにも私の仕事とかあるのですが───」

「窮屈な馬車から1秒でも早く降りれるなら補助なんていらないわよ!」

「……今回だけですからね」


正直気待ちは分からないでもない。

普段ならば私も執事長のように口酸っぱく言うつもりではあるが、正直私もエスコートとかする前に外で深呼吸していたい。


「……懐かしいですねぇ」


グレイラット学園の広大な敷地を囲う城塞のような壁。実に四ヶ月ぶりの光景だ。


「それでは私達はこれにて。ご武運をお祈りします」


アリス騎士長、及び50余りの団員に見送られ、私達は二度目のグレイラット学園へと足を踏み入れる。

最後にもう一度だけ彼女らの顔を焼き付ける。次に出られるのは夏季休暇。つまり四ヶ月後のことである。

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