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瞬殺

売り言葉に買い言葉。

マイク騎士長に喧嘩を吹っかけられた僕は一人、一本の長剣だけを構え戦場に立っていた。

本来五人で魔獣を討伐する形式だったはずなのだが───周りからは五人がそれぞれ順番に魔獣を倒す形式だったんじゃないかとの声が上がっている。


パチン、と馬車の中から扇子を閉じる音が鋭く鳴る。

その直後、地面が大きく揺れ動いた。


僕の眼前の広場が大きく隆起する。

そこから隆起した土塊を突き破って現れたのは、僕達がつい先週遭遇したばかりの魔獣そのものであった。


厳密には少し違う。肉体は骨と肉ではなく代わりに植物で構築されている。

故に色合いも茶色ではなく緑色だが、その巨躯が醸し出す覇気は正しく初遭遇時のそれである。


「『神纏カヴァー軍神アレス』」


僕が奇跡を唱えたと同時に魔獣は動き出した。先手必勝と言わんばかりの速攻である。

僕はしっかりと意識して呼吸を整え、右前方に足を踏み出した。

構えていた剣を大きく横に振りかぶる。


僕の踏み出す勢い。振りかぶる膂力。そして魔獣の殺意に満ちた猛突進。

それら全ての力は僕の刃に乗る。


「─────」


静寂が走る。

魔獣と僕。互いの立ち位置は背中合わせの形で入れ替わり、魔獣は上下に一刀両断された。


「「「うおおおおおおおおお!」」」


観客の理解が追いついたと同時に歓声が上がる。

クレティアは腕を組んで大きく頷いている。口を強く結んでいる辺り、私も派手にやろうなどと考えているのだろうか。


呼吸を整え慎重に奇跡を解く私の背中をアリス騎士長が叩く。


「ハハッ、私が見込んだ以上のことをやってくれるね」

「良いストレス発散になりました」


よし、とアリス騎士長は強く手のひらを鳴らした。


「次は私の番だ!」


そうして絶え間なく行われた魔獣戦。


アリス騎士長の相手は僕らが遭遇した熊のような魔獣ではなく、猿のようにしなやかに伸びた四肢を持つ魔獣であった。

だがアリス騎士長は素早く直線的な動きで魔獣の一挙一動を的確に封じ込め、最後の一太刀で首を完全に跳ね飛ばした。


「次は私ね!」


クレティアは────少し負けず嫌いというか手段を選ばないというか。

家系魔法の弱点が“本領発揮に時間がかかりすぎる”というものであり、それを誤魔化すために、恐らくはアリス騎士長が刃を交えている間も魔法を育てていたのだろう。


アスティアが作り出した魔獣出現と同時にそれより遥かに巨大な茨のワームを呼び出し、圧倒的質量でそれを押し潰した。

敵が何か分からないままに。


「それ後で説教コースですよお嬢様───」


アリス騎士長の不安げな声がポツリと盛れる。

場は盛り上がってるからいいものの、恐らくアスティアとしては少し卑怯な手段として映っている可能性がある。


「………」


ここまで無言のガルフ騎士長。

戦いぶりはとても堅実という他なかった。

相対する蛇の魔獣の鞭打ちのような尻尾攻撃を大剣でいなす。剣の面を盾として扱い、防御重視の動きで、最終的に一度も被弾せずに魔獣は沈黙した。


「それでは最後は私……と……」


想定外な展開であっただろうがマイク騎士長は平静を保ったまま堂々と胸を張り前に出る。

だが対戦相手を見るやいなや即座に彼は怯み、酷く怯えた様子でアリス騎士長へと振り返った。


「いやちょっと待ってくださいなんで私だけ」


マイク騎士長の対戦相手として用意されたのは四体の魔獣。猪、猿、蛇、そして先程出番も無しに潰されたであろう狼がそこに並んでいた。

アリス騎士長は僕にこっそり耳打ちした。


「……アスティア様はな、贔屓はしないが怒らせるとああなるんだ」


マイク騎士長は何とか一体は討伐したものの魔獣の連携攻撃に潰れた。

ローズ家お抱えの騎士達から哀れみと同情の視線が集まる。


「とにかくだ。私達のように一人で倒せとは言わんが、今回の騒動で確認された4種類をそれぞれ一個小隊で倒せるくらいには慣れてくれ。現時点で確認されてる行動パターンはあそこの紙に纏めてある」


アリス騎士長が雑に親指で指した方角には積み上がった羊皮紙の束と伸びたマイク騎士長を片腕で引き摺るガルフ騎士長の姿があった。


◇◆◇◆◇◆◇


すっかり空も朱色に染まり、兵士達も騎士長の前だというのに尻を着いて休むほどまでに疲れ果てていた。


「しかし凄い魔力に集中力ですね、アスティア様は」


お昼すぎから夕方の五時間。

兵士の相手として6体の魔獣を常に顕現し同時に操り続けていた。6体同時に操っているというのに魔獣の動きが単調になるようなこともなく、あくまで羊皮紙通りの動きを続けていた。


「お母様は本当化け物なのよ。あれと同時に説教も出来るというのだから驚きでしょう?」

「……お疲れ様です」


気丈に振る舞うクレティアだが頬が酷く痩せこけていた。

談笑する僕ら二人に挟まるようにアリス騎士長が肩を組んできた。


「シオン殿もな。それと貴殿の出力の出し方もかなり参考になったぞ」

「ええ僕も色んな方の戦闘スタイルを見れて満足です。特にガルフ騎士長の戦いぶりは───」

「それは本人に言うべきだな」


チラリ、とガルフ騎士長を見やる。腕を組み直立不動の姿勢でただただ立ち尽くしている。


「もう伝えましたが、反応が無さすぎて伝わったかどうか不安です」

「……分かるぞ」


そんなこんなでアリス騎士長とも少しづつ仲良くなっていった僕。


そんなこんなでグレイラット学園入学のその時まで、ローズ家やローティカ家の彼女達とは良好な関係を築いていくのであった。

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