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合同訓練

「───シオン殿はこの記事に信憑性はあると思うか?」


アリス騎士長の目は険しい。


「理由は違うでしょうが……王族殺しぐらいはやってもおかしくないでしょうね」

「ならどういう理由が?」

「下につかないと親しい人間を殺すとか言われたとかその辺かと。少なくとも敵意を向けられてないのに剣を抜く方ではないです」


……今は。

アレスに見せられた幻覚では率先して戦火を放っていたが、少なくとも僕が見た限りのレイミルロットはそうだ。


「つまり逆鱗に触れなければ安全と?」

「ですね。今のとこ逆鱗はフィレイ殿下とミリさんぐらいでしょうか、あと本人もそうですね」


アリス騎士長は例の記事を再び手に取り、添付された写真を凝視する。


「……なるほど、恩に着る」


アリス騎士長は少しだけ天井を見上げながら、その記事を卓上の山に放り投げた。


◇◆◇◆◇◆◇


それから1週間と数日後。

アリス騎士長と───クレティアも駄々をこねて一緒にやることになったが────先週誘われていた魔獣戦を想定した訓練に参加する日だ。


「わぁ───」


馬車を降りた私。

先日クレティアと模擬戦をした場所で訓練を行うということだったが、そこには七千人余りの兵隊が揃っていた。


「凄い人数ですね」

「緊急事態ということもあってな、隣接した伯爵家三家からもそれぞれ500人余りの兵隊を寄越させた」


そしてアリス騎士長は私とクレティアぐらいにしか聞こえない声でポツリと呟いた。


「……というのはあいつらの建前で、恐らくは私らの手の内を知るために押し付けたのだろうが」


アリス騎士長は深くため息を吐いた。

後で少し詳しく聞いてみたところ、クレティア家は伯爵家の中でも力のある家系らしく、またこの合同訓練の主催として費用の大半を支払う羽目になったという。


「真面目にやってくれる兵隊なら良いのだがな」


肩を落とし露骨に落胆するアリス騎士長。

だが騎士長としてそんな姿は長く見せられないのか、即座に姿勢を正し、普段の堂々とした姿に戻る。


「さて、そこで待っていてくれ」


特設の小さな舞台。高さ2メートルほどの台で全体を見渡せる位置に置かれたものにアリス騎士長は登る。

そして彼女は軽く息を吸い、広場全体に響き渡るような声を。普段より少しだけ胸を張っただけの姿で放った。


「貴様ら、今日はよくぞ集まってくれた。既に通達はしているが改めてこの場で説明させてもらう!」


間近で聞いている私はうっかり耳を押さえそうになる。


「原因不明の魔獣の出没、それも現代では観測出来ないような巨大な魔獣が出没している。そこで貴様らには対抗する術を習得するべくここに集ってもらった。

今回は緊急事態ということもあり我らの主人にもお越いただいている!」


アリス騎士長が右腕で僕らとは反対側の場所を指し示す。そこにはクレティア家の家紋が刻まれた馬車が鎮座しており、その中から小さく手を振る陰が映っていた。

クレティアが馬車から私が盾になるような位置に小さく動いた。


「今回は主人に件の魔獣を再現していただき、基本50人組で当たってもらうものとするが────その前に今から指名する五人に倒し方を見せてもらおう」


アリス騎士長は鎧の中から1枚の羊皮紙を取り出した。


「ローズ家騎士長アリス=ローティカ。隣家からはマイク騎士長とガルフ騎士長。そして本家よりクレティア=ローズ殿、その客人であるシオン殿にもご協力頂きたい」


シオン。その名前が上がった瞬間困惑の声が上がった。だがその声を最中にアリス騎士長と目が合う。

ここに来い。そう目で指示された僕は舞台に登る。


「皆様初めまして。グレイラット学園の学友として招かれております、シオンと申します」

「シオン殿は私と共に件の魔獣と遭遇した際、討伐の手助けとなってくれた存在だ。少なくとも団員以上に強く、魔獣との戦闘経験もあることを考えて協力していただく形となった」


団員以上に強い。その言葉に本家以外から集ってきた団員達が反応する。


「さて詳しい形式については準備しながら説明するとしよう」


アリス騎士長の演説中であったが、多くの団員の視線───主に隣家の騎士達の視線が私に集まっていた。


演説は終わり、この後の打ち合わせのために先程指名された五名が集まっていた。

隣家の騎士長は両方とも男性のようだ。


「どはてさて、シオン君と言ったかね」

「シオン殿だ。ローズ家のお客人だ、無礼は許さぬぞ」

「はは、これは失礼。私はマイク騎士長というんだ、是非覚えて帰りたまえ」


舐められている。

平民出身───貴族として有り得ない魔力の無さを見抜いているのだろう。そんな人間を客人として招く。なるほどローズ家の弱点として映りそうだ。


「それでシオン殿、クレティア様とはどのような関係で?」

「学友ですよ。グレイラット学園の」

「ほう、ローズ家の推薦でですか」

「いえミランダ教授の推薦です」


初対面だというのに随分と踏み込んだ質問をしてくる。それもこの場に関係の無い質問を。

少しは隠せ、とも思うが子供ということもあり舐められているのだろう。


後ろで腕組みしているガルフ騎士長と目が合う。こちらは話す隙がないほどに警戒されていた。


「そういう話は後にしろ、団員の時間が無くなる」


アリス騎士長が少し怒気の孕んだ声でマイク騎士長を諌める。


「今回の形式だが目撃された魔獣の特徴を分析して再現したものをアスティア様に用意していただく形となった」

「といいますと?」

「魔獣と私達五人の実践形式というわけだ」

「なるほど───」


マイク騎士長のニヤけた視線が僕に向かう。


「と言いたいところなのですが、こちらとしては実力も分からぬ人と手は組めないのだよ」

「実力は私が保証しよう」

「とは言われましてもなぁ……」


アリス騎士長が僅かに怒りを見せる。魔獣の特徴がまとめられた羊皮紙を握る手に力が篭っていた。

そして相手方は何を言おうと素直に聞き入れるつもりはないようだった。

私はアリス騎士長を制止するように間に割って入った。


「どうしても信用出来ないようでしたら最初は僕一人で実演しましょうか」

「おお、それは実に良い。それなら不安も解消されるというものだ」


とは返事されたものの、実の所無様な所を叩いてローズ家の品格を下げてやろうという魂胆が見え見えだった。

アリス騎士長も同じくそう読み取っていたようで、私に小さく耳打ちしてきた。


「大丈夫か、アスティア様は事情があるからと特定の個人だけに手加減してくださる方ではないぞ」

「大丈夫ですよ。前に遭遇した魔獣通りの強さでしたら問題ありません」


それに、と一言付け加える。


「それに僕も少し腹が立ってきたので、一人でやらせてください」


怒りを誤魔化すために笑顔を作ったが、後々思えばあれほど攻撃的なものは中々無かっただろう。

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