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模擬線 VSクレティア=ローズ

 自宅に戻るやいなや、クレティアがすぐ見える教室へと飛び込んだ。


「へぇ、庶民の家ってこんな感じなのね! エントランスの広さは中々だけれど、何も置かないのね」

「あの…… そこは玄関ではなく教室です。以前父さんが道場を経営していまして、その名残ですね」


 玄関はここだけです、と入り口前の大きな下駄箱前で立つと、クレティアはとても驚いていた。


「それにしても良かったのですか。リコン義兄さんと話したかったのでは?」

「お母様の説教がとても長引きそうだったから逃げ出してきたわ。あれは一時間以上続くコースね」

「かなり厳しい家庭なんですね」


 クレティアは眉を潜め、奥歯を噛みしめた。


「厳しいなんてもんじゃないわよ。お母様の厳格さは社交界の中でも随一だと有名なの。娘相手にだって、然るべきところで正しい所作を振舞えなきゃ一から勉強し直させるような母様よ」

「私の元師匠みたいな人ですね……」

「えっ? リコンさんってそんなに厳しいの」


 そうか、師匠と言ったら普通はリコンを想像するか。

 確かにリコンも厳しいといえば厳しいのだけれど、レイ様には遠く及ばない。


「いえ、もう一人別に師匠がいまして。こと剣術に関しては、一切の妥協を許さない人でしたね」

「ふぅん…… そういえば、ここは教室。つまり戦うところなのよね?」

「そうですね。基本は鍛錬する場所ですが」

「木剣とかはあるのかしら。魔法はなしで試しに一戦交えてみない?」


 確か一時間以上は説教するとか言っていた。準備自体はあと5分もあれば終わりそうなものだし、時間は有り余っている筈だ。


「いいですね。よければ倉庫も見ていきますか?」

「見れるものはなるべく見たいわね」


 そうして僕も久々に入る倉庫は、蜘蛛の巣だらけで埃被っていた。僕自身はこういう汚い場所には慣れているが、綺麗好きの貴族は嫌な顔をしそうだ。

 横目でクレティアの様子を覗いてみたら、特に嫌悪感を示している様子はなかった。


「汚いところですみません、なんせ道場を閉鎖してからは使っていないものでして」

「使用人も雇えないのでは仕方ないことだと思うわ。それより、倉庫ってこんな雑に物を置くものなの?」

「私の知る限りではそうですね……… っと、ちょっと奥にあるみたいなので取ってきます」


 物資をかき分けて奥に進むと、虫の死骸がいくつか転がっていた。気持ち悪い物を見たな、と目を逸らし、小さな門下生達が使っていた、訓練用の木剣が詰め込まれた樽を引っ張り出した。


「腐ってはいませんね。お好きなものをお取りください」


 樽を差し出すと、クレティアは樽から木剣を取り出し、すぐ戻す動作を矢継ぎ早に繰り返した。

 僅か数分で、三十本はあるであろう木剣から四本の剣まで絞り込んだ。厳選した四本の剣を並べ、吟味している。剣は四本とも細身で軽量なものだった。

 二本の剣を戻し、残りの二本を手に取り、クレティアは速足で倉庫を出た。


「さ、ルールの確認ね。まず一つに魔法は使わない。顔や首などの急所は狙わない、寸止めを心掛ける。あと最初から本気出さない、いいわね?」

「なるほど、様子見の戦いということですか」

「開始の合図は…… えっと、銀貨とか持ってる?」


 硬貨を投げて地面に落ちた時に試合を始める。戦時前の時代から続いている伝統的な合図でやるようだ。


「分かりました、私が投げますね」


 クレティアは剣を構えた。僕はポケットに一枚忍ばせていた買い食い用の銅貨を取り出し親指の爪の上に乗せる。そしてコインを天井すれすれの高さまで弾き、いつでも反応出来る構えを取る。


 僕はいつも通りバスタードソード一本、両手でも片手でも使える剣だ。対するクレティアはバスタードソードよりも細身で軽く、やや短い長さの剣を順手で構えていた、二本は同じ長さの剣だ。つまるところ非常に攻撃的な戦法を取ってくる可能性が高い。


 とはいえ最初は手加減、一気に決めるような真似はご法度だ。


 コインが地に落ちる。


 クレティアが比較的ゆっくりと飛び出し、二本の剣を揃えて右から横薙いできた。それを落ち着いて上に弾くが、相手は大してよろけることなく、次の攻撃を繰り出してきた。剣を交差させて左上から振り下ろしてくる。


 僕は一歩下がり受け止め、攻撃へと転じる。右上から振り下ろしたバスタードソードだが、交差した剣で受け止められた。

 すると、クレティアが大きく後ろへと飛びのいた。


「ふぅん、しっかり全部見えているのね」

「そうですね。この程度でしたら次の動作も大体予測出来ますね」

「これなら本気出しても大丈夫そうね。いくわよ?」


 クレティアが軽く飛び跳ね、僕は重心を下に落とし、剣をやや斜めに構えた。


 先ほどとは比にならない程の速さで迫ってくるクレティア。同じように右からの横薙ぎの攻撃を放ってくる。ほぼ同じ動きではあったが、左手に比べて右手の振りかぶる速度が若干遅くなっていた。

 僕は一歩前に踏み出し、力づくで同時に受け止める。


 しかし受け止めた時に僅かな違和感を僕は感じ取った。右の剣の方が当たった時の手ごたえが想定以上に軽かった。

 理由はすぐに分かった、左の剣はしっかり僕の剣に当たったのに対し、右は穂先しか当たっていなかった。左右それぞれで繰っていた攻撃範囲の長さが違っていた。


 大して弾かれなかった右の剣はそのまま上段へと構えられる。それを受け止めれば、打ち落とした左の剣が脇腹へと向かって振り上げられるが、これは違和感に気づいた時から読み取っていた。

 冷静に剣を返して受け止める。


 これが比較的軽い攻撃で次の攻撃はすぐ来ないと読み取っていた僕は、その剣を力押しで振り切って彼女の胴を下から切り上げる。

 クレティアは剣ごと上に弾かれながらも、その勢いを利用し後ろへと飛びのいた。


 そして、両手の剣を下げた。


「これ以上は汗をかいてしまうわ、終わりにしましょう」


 気が付けば、こめかみに一滴だけ汗をかいていた。クレティアは剣二本を左手で掴み、こちらへと寄ってきた。


「貴方は致命傷になる攻撃とそうでないのをしっかり見抜いて攻撃の隙で攻めてきた。正直期待以上よ」

「クレティアさんも凄かったです。二刀流を使いこなしているのもですが、左右で力加減や速度、長さを調整出来るんですね。非常にやりづらい相手でした」


 お互いの実力を認め合う言葉を交わして、僕たちは握手をした。


「ところで師匠の名前を聞いてもいいかしら?」

「えーと、レイ=ミルロットと名乗っていました。曰く、騎士上がりの男爵だとか」

「………聞いたことのない名前ね」

「僕たちより年下ですから、おそらく二年後には学園に入学してくるでしょう。今の僕達なんか比にはならない程───」

「ちょっと待ちなさい」


 クレティアに言葉を遮られた。


「………師匠って子供?」


 凄く自然に受け入れてたが年下、しかも十歳の子を師匠に据えるなんて異常な話だ。

 どこから説明したものか…… 師匠がグレイラットの転生体だということは、明かしたらダメ。しかし明かさないと師匠と呼んでいる説明がつかない…… 無理だ。


「えっと、まぁ、二年後に分かります。とにかく強いので」


 師匠があの入試に出たら、学園中が騒然とすることだろう。と考えて僕は説明を放棄した。

 当然ながら彼女は納得出来ていないようだったが、僕は支度があるからと自室に逃げた。

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