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VS古代龍

 鬼人グレイラットは飽いていた。

 幾度も繰り返す行う虐殺に。


 求めていた戦いなどはない。

 ただ至極当然に、殺すだけの作業を鬼人グレイラットは繰り返していた。


 生命体の半数を殺した頃から、繰り返すことに疑問を覚えていた。

 彼女はこの行為が、無駄だということを悟っていた。


 それでも彼女は殺し続けた。

 殺す、という手段以外で快楽を得る方法を、彼女は持たなかった。


 ただ殺すという行為が、彼女にとって苦痛になろうと、鬼人グレイラットはそれを自覚しなかった。


(残るは……… 古代龍だけか)


 鬼人グレイラットの当初の目標は、この星に住まう生物全てを全滅させることだった。

 現在、この星には古代龍ではない矮小な存在がまた多数存命していた。


 だというのに、目の前を横切る小動物すら彼女は気にも留めていない。

 常に垂れ流していた炎も今は行使していない。


(古代龍を殺せば、やっと終わる)


 彼女は目標を忘れていた。隠す肉もなかった牙はどこへやら、すっかり抜け落ちてしまっていた。

 殺していた理由はなんだったのか、今の彼女にはそれすら思い出せない。


 古代龍の巣窟に辿り着く。

 古代龍は龍にしては珍しく、一つの山に集って暮らす種族だ。にも拘わらず、グレイラットを出迎えたのは最も老齢の、力の弱まった古代龍だった。


「………ふむ、漸く来たか。てっきり我らの強さに臆しているのかと勘違いしてしまうところじゃったぞ」

「メインは最後に取っとくタイプなんでね。さっさと殺し合おうか」


 この山には古代龍が五十近く生息している。女子供問わず全ての古代龍が戦え、一体一体が常識外れの力を有している。


「まぁそう急くでない。貴殿は何故、そこまで殺しに拘るのかね?」

「殺せるから殺す。それだけのことだ」


 最も年月を重ねた、九千歳の古代龍は皺だらけの瞼を降ろす。


「何と哀れなことか。どうじゃ、今すぐその爪を降ろし、我らの元で過ごさぬかのぅ?」

「哀れ? 何様のつもりだ、貴様らは俺より強いのか」

「弱いつもりじゃよ。グレイラットめや、どうか哀れな古代龍をお見逃しください」


 グレイラットの目つきが険しくなる。古代龍でなければ、たちまち卒倒していただろう。


「冗談じゃよ、お主が引き返せるなどと微塵も思っておらん。せめて───」


 古代龍が地面に手を掛けた瞬間、周囲の山々から、古代龍が住まう筈のこの山へと、無数の閃光が放たれた。


「儂と一緒に死のうや」


 老齢の古代龍は長年を共にしてきたこの山と共に、閃光に焼かれ、消滅した。


 山々から閃光を放ったのは、この山から逃げた四十九体の古代龍、老齢の古代龍の子供、孫にあたる存在だった。

 鬼人グレイラットの人生に終止符を打つべく、老齢は自ら犠牲に、その子孫らは自らの手で老齢ごとグレイラットを屠ることにした。


「…………この程度で、俺を哀れんだのか?」


 あの古代龍が手段を選ばず戦ったとしても、鬼人グレイラットの内臓と四肢を幾つか壊すことしか出来なかった。

 彼女は少しの時間さえあれば、壊れた肉体など元に戻すことが出来た。


 五体満足の身体に戻った彼女は、灰と化した古代龍を無意識に踏みつける。


「まぁいい、これで最後だ。全部殺して、これで終われ───」


 周囲の山々から各方面へと、全力で散会する古代龍。逃げ出す姿を見て、グレイラットは歯ぎしりをした。


 それが老齢最後の命令だった。

 自分を囮にして、鬼人グレイラットに総攻撃を仕掛けろ。もしそれで倒せないのであれば、全力で逃げて生き延びろ。


 古代龍はそれを忠実に実行した。


「はぁ、やっと終われると思ったんだがな………」


 グレイラットは長年使い続けてきた硬い金属棒を地面に突き刺し、溜め息を吐いた。


 その後彼女は四十八体の古代龍を屠り、殺しの剣を置いた。一体だけ生き残ったのは、グレイラットの珍しいミス故のことだったが、それを殺しに行くような気力はグレイラットにはなかった。


 種の存続という点では不可能になってしまったが、鬼人グレイラットを前に古代龍は生き延びることに成功したのだった。


 唯一生き延びた古代龍の名はグラファニー。

 彼は再びグレイラットと出会うことになるが、それは二十年後のお話。

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