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欠点

 筆記テストが終わった。

 内容は勉強してれば全部解けるぐらいの簡単な内容だった、という感じだった。


 と、感じていたのは僕を含めたほんの一部だけのようで、実際のところ難しかったらしい。

 僕の場合、貴族社会に適応する為と猛勉強していたから簡単に感じただけだろう。


 そういえば、昨日知り合ったフィレイ殿下とクレティアは大丈夫だったのだろうか。そうして探していると何食わぬ顔で会話している姿が見つかった。

 殿下の方はカイル殿下もエウィンも涼しい顔をしていた。


 クレティアは、昨日の女性二人と会話していた。あの様子から察するに、仲直り出来たようだ。まだ僅かに距離を取っている気はするが時間の問題だろう。


 そうして昼食の時間になった。



 昼食が終わり、次は実戦の試験だ。

 また大きな建物の施設に案内される。見知らぬ五十人と共に入ったのは、昨日とは違う場所の闘技場だ。グレイラット学園はいくつ闘技場を立てているのだろうか。


 この闘技場は昨日の闘技場とは意匠が違う。

 観客席が周囲にあって中央が戦う場所、というのは変わらない。ただ昨日は戦う場所が円形だったのに対し、ここは楕円形だ。

 天井も吹き抜けになっており、観客席上部にだけ屋根が設けられている。


 楕円形の先端には入場口がそれぞれ設けられて、右手の向こう側には一際豪華な観客席があった。あの箇所だけ天蓋がついている。


 そうしてじっくり見ていると、引率していた教員が振り返って、僕たちへと大きく手を振った。


「はいはーい! 皆さん今日はここでやりますよー!」


 彼女は僅かに年老いていた見た目をしており、明るく振舞っている姿がどこか空回りしているように思えた。

 そんな彼女の数歩後ろで、一人の女性が左手で軽く頭を抑えていた。


 取り合えずそんなこんなで、戦う段取りが進む。今回も一度に四人で、一回五分を計三回ずつやるらしい。


「えっと確か三タイプありまして、近接型、中距離型、魔法型の三種類ですね。段々強くなるので、頑張って生き延びてください」


 彼女がそうやって満足気に説明を終えると、後ろの女性が彼女に紙を差し出した。紙には何かが書かれているようで、彼女はそれを凝視して感情のこもってない棒読みでそれを読み上げた。


「あ、それと闘技場について説明させてもらいます。

 闘技場の中の空間は魔術によって生み出された仮想空間なんです。えーっと、つまるとこ、闘技場の中で怪我したり死んだりしても、終わった頃には何もなかったことになってます」


 そうして彼女が読み終えようとすると、後ろの女性が束ねられた一枚目の紙を捲った。


「そして仮想空間ですからある程度ルールを設けることも出来まして。今回の場合、致命傷と思わしき傷を負いそうになったらその瞬間死亡扱いとして闘技場の入り口辺りに転送させて頂きます。教員が集まってるところです。

 ですので胴が両断されるとか、全身焼き尽くされるなんて事態は起きません。安心して望んでください」


 入り口辺りを見ると、格子の向こう側に教員が集まって何やら話し合っている姿が見えた。

 今の説明を簡潔に纏めると、現実じゃないから思う存分戦って怪我して貰って構わない、ということになる。


「じゃ、最初はその四人で!」


 説明を聞いてじっくり考えていると、早速四人のうち一人として呼び出された。


「一回目は近距離ですよー。はい皆さん準備しますから所定の位置に移動してくださーい」


 僕は鞘に剣が収まってる当然のことを確認して、右側へと歩を進めた。

 そして指示の通り少し待機していると、目の前に蜃気楼が発生した。霧はやがて収束し、人の身長ぐらいに圧縮されたかと思えばそれは徐々に人型を成していき、二十秒後には人間にしか見えない仮想敵が作り出された。


 現われ方からして本物の人間ではないことは確かだし、そもそもここで死んだとしてもなかったことになる、という説明を受けた。


「…………ハハッ」


 僕は誰が気にするわけでもないのに誤魔化し笑いを浮かべて、手元が震えていることを確認した。

 あれは偽物、人じゃない。人じゃなければ、今の自分でも殺せる筈だ。今まで散々魔物を切った筈だろう。


 自己暗示に中々終わりが見えず、それが終わる前に試合開始の合図が飛んだ。


「スタートです!」


 恐る恐る剣を抜く僕に、ターゲットが襲い掛かってくる。けれどその動きは緩慢で、わざわざ避けなくても少し走れば余裕で逃げ切れるほどだった。

 僕は剣を鞘ごと取り出し、それぞれの手で柄と鞘を掴むことで敵の攻撃を凌ぐことにした。


 体内時計で一分が経過した。ターゲットが魔法を使いだした。


「隆起せよ、【突起イア】」


 使われる魔法は昨日試験で見たものと比べて非常に地味だったが、その魔法は的確に僕の足元の地面を操ってきた。

 一応地面を操らせない方法はあるのだが、魔力のない僕には実行出来ない。僕は動く足場を計算に入れ、動きを変える。


 相手の剣のキレも上がっている気がする。これは、徐々に強くなると考えて間違いないだろうか。


 二分が経過した。これまで何事もなく捌けていた剣がより一層厳しくなる。僕は一度無理に距離を取り、奇跡を唱える。


「【神纏カヴァー軍神アレス】」


 アレス様から授かっている唯一の奇跡。身体能力が二倍に跳ね上がる。

 今は優位を保てているから防ぐだけでも十分に戦えているが、三分、四分と経過した時どうなるのだろうか。


 負ける直前に剣を抜ければいいのだが、と考えていると三分が経過した。詠唱の速度も剣の精度も上がり、魔法による直接攻撃も織り交ぜられるようになる。

 防ぐだけではかなり厳しいものがあり、土魔法による攻撃が避けられない事態が何度か起きる。それでも剣は重く、中々鞘から抜けなかった。


 人型じゃなかったら良かったのに。


 そうして四分目。結局最後まで剣を抜くことが出来ず、そのまま急所に剣を喰らってしまった。斬られる感覚が襲ってくる前に、僕は入り口へと転送された。


 ………ダメだな。

 人に対して真剣を向けようとすると、あの時の光景がフラッシュバックしてしまう。

 獣なら、木剣なら大丈夫だというのにこの違いはなんだろうか。理性で違うと理解しようとしても、身体が拒絶しているようだ。


 そうして残った一人を見ていると、案内していた女性が僕へと話しかけてきた。


「ねぇ、君はなんで剣を抜かなかったの?」

「人を斬ることに抵抗がありまして」

「そうね……。それが正常なんだとは思うけれど、ここは戦闘学科の試験会場よ」


 そう、ここは戦闘学科。この時代で兵士になるのであれば、人を斬れなきゃ話にならない。人を相手に出来るのは大前提だ。


「いつかは克服します」


 その後彼女は特に何も言うことなく、次の業務へと向かった。


 その後中距離型、魔法型とも戦いを行ったが、序盤相手が隙だらけにも関わらず剣を抜けず、防戦しかしない戦いでどちらも四分経過したころにやられてしまった。

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