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スカウト

 そうして試験の初日が終わった。

 やったことは測定と三分の演舞だけだ。


 けれど得た知識は多い、というかそれが初日の目的だろう。

 他人の能力を可視化して見えるようにしたのも、こうして他人の演舞が見えやすい闘技場で観客席に座らせたのも、現状の自分がどの位置にいるかと認識させるための初日、だと僕は考えることにした。


 今は用意された施設に滞在している。この三日間は、ここで生活することになる。

 内装は今まで質素に暮らしてきた僕には眩しい物ばかりで彩られており、全く落ち着かない。


 部屋は一人一部屋で与えられている。そちらも先に見ておこう。

 与えられた鍵に書かれている部屋番を見て、三階に移動する。途中の案内板を見るに、ホテルのような巨大な建物は六階まであるようだ。


 そうして鍵を開けて部屋に踏み入れると、真っ先に目に入ったのはベッドという柔らかい寝具だった。それと机、椅子。

 布地で派手な柄が使われているのは少し気になるが、部屋の中は鏡と証明以外機能性を重視した形状をしていた。


 僕は剣をラックに立てかけて、試しにベッドに座ってみる。少し柔らかい。

 横たわってみる、柔らかすぎる。これでは寝付けない可能性が高い。…………ふむ。


 僕は掛布団を床に敷いて横たわってみる。丁度いい。


 そんなところだろうか。僕は剣を置いたまま部屋を出た。取り合えず、食堂に行ってみようと思う。


 食堂には数百の席が設けられており、左手側に調理場が見える。

 調理場は僕がよく行っていた大衆食堂なんかより機材が多く取り揃えられていた。そして白で統一されており、如何に清潔かが分かりやすいようになっていた。大衆食堂は油汚れが酷かったから、これは嬉しいところだ。


 確か、受験生も生徒と同等、ここでの注文は無料だと言っていた。試しに一品頼んでみるか。僕は束ねられた絵の本からステーキを見つける。


「すみません、ステーキを一つ」

「あいよっ 何グラムだい?」

「そうですね、千グラムでお願いします」


 千、と聞いて食堂のおばちゃんは少し嬉しそうにした。


「お兄ちゃん分かってるわねぇ! 若いうちは沢山食べて育たないと!」


 沢山食べて身体を鍛えろ、師匠も言っていたし実践していたことだ。………師匠は食べすぎな気もするけど。


 そうして分厚いステーキがしっかりと焼き上がるまで待って受け取ると、僕は端の方の人のいない席へと移動した。


 食べ方のマナーは心得ている。リコン兄さんにグレイラット学園に行くと言ったら、まず最初にこのマナーについて叩き込まれた。

 とはいえ一品料理なのでそこまで複雑なマナーもないのだが。音を立てずに食べるだけの簡単なマナーだ。


 そうして落ち着いて食べていると、僕の対面に人が座ってきた。


「初めまして。私はクレティア=ローズ、グレイ王国出身よ。貴方は?」


 対面に座ってきたのは、輝かしい金色の長髪を持つ、引き締まった身体を持っている女性だった。師匠とは違う次元のかっこよさ、凛々しさが感じ取れる女性だった。

 苗字はローズか、確か花の名前を与えられる家は伯爵だったか。


「初めまして、シオンと申します。同じくグレイ王国出身です」


 僕は食指を止め、クレティアに頭を下げる。

 すると彼女は、少し背を伸ばして僕を観察し始めた。


「同じ出身なのね。ところで、貴方普段何をして鍛えているのかしら」

「筋トレですか? でしたら素振りを千、腕立てを二百、十メートル走を百往復…… 日ごとに内容は違いますが共通するのはこのぐらいでしょうか、勉強もあるので週四ぐらいでやってます」

「確かにそのぐらいやってそうね。勉強ってしっかり作法とかもやってるんでしょ? 今の食事、中々堂に入ってたわ」


 彼女は少しも表情が揺らぐことなく、しっかりと僕を褒める。普段から褒め慣れていることが分かる。この場合は、評価し慣れている、か?

 僕は彼女のことをしっかりと分析しようとしながらも、褒められたことに頬が緩んでしまう。


「ところで話は変わるけど、三日目の受験の内容は知っているかしら?」

「確か用意された場所で、皆で戦うのですよね。確か持ちうるもの全部を駆使して戦ってくれと言ってましたね」

「そうね。それで誘いなんだけど、貴方私の陣営に───」


 彼女がそう言いかけた瞬間、彼女の背中を二人の女子が叩いた。

 目の前で会話していた彼女は、僅かに額の眉を寄せて振り返った。


「クレティア、あんた何やってんのよ」

「あら、彼を三日目のチームに引き入れようとしてたの。礼節も弁えているし、実力もある。私達のチームに相応しい人材だわ」

「相応しい? こんな身分も何もない平民が? 馬鹿言ってんじゃないわよ」


 僕の前で三人の女が言い争いを始めた。


「馬鹿はあんた達よ! たかだか受験だから大丈夫とか若いから甘えても許されるとか言って何もしてないじゃないの!」

「何を怒ってるのかしら? 別に私はあんたの為を思って言ってるのよ」

「そうよ、いちいち熱くならなくったって、ねぇ?」

「ねー」


 クレティアは目の前のテーブルに拳を強く叩きつけた。


「いいから黙って私の言うこと聞きなさいよ! 上を目指してるんじゃないの!?」

「………何よその言い方は! まるで私達がサボってるって言いたいのかしら!」

「そうよ! あんた達口がでかいだけじゃない、全部私がやってるのよ! 勧誘だってこれまで何度もしたのにあんた達が追い出してるんじゃないの!」


 ………目の前で言い争いされてしまうと、非常に居心地が悪い。というか僕、あんまり関係ないのになんで目の前でされてるんだろうか。

 僕は言い争いしている彼女たちを横目に、こっそり席を四つ分ずらした。


 やはり、人生が関わるといわれてるこの受験ではピリピリとした空気が張り詰めているようだ。彼女たちから目を逸らして周りを見てみる。

 そこには彼女たち程ではないにしろ口論している人たちや、張り付いた笑顔で何か牽制し合っているような人たちが見られた。


 今更だけど、グレイラット学園はとんでもないところなのではないだろうか。

 僕は静かに熱いステーキを口に入れ、さっさと完食して食器を返して、逃げるように部屋へと戻った。

 敷いていた掛布団へと倒れ込み、そのまま眠りに落ちた。

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