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奇跡を授かる者達

 そうして実技試験が始まった。

 内容は「各々が出せる技を駆使して三分間的を攻撃する」といったもの。

 特に威力があればオーケーという訳ではないらしい。


 三分で、自分はこれが出来ます、どのぐらい出来ますとアピールすることが重要な試験のようだ。


 ただここは戦闘学科の受験生が集まるところなので、基本的に攻撃がメインだ。

 他人を癒すとか、作物の成長を促進するとかそういう魔法が特殊系統にあるらしいがそういう魔法を使う人は戦闘学科に来ない。


「よし、次はシオンと───」


 そうして待っていると、僕を含めた四人の名前が呼び出される。


 僕は他の三人と共に、中央へ続く階段を下りる。先ほどは二百人ぐらい下にいたから感じなかったが、この闘技場らしき空間は、かなり広いようだ。

 向こう側の壁が遠く、観客席に座っている二百人強の人間の様子が見える。


 僕は目の前の、人型の的に視線を落とす。

 ターゲットは傷一つない、新品のような見た目をしていた。これまで僕が見ただけでも二十人の全力を受けているというのに。一体何で出来ているのだろうか。


 僕は剣を構え、目の前の的を見据え、集中する。戦闘以外のことを忘れ、全身に神経を走らせる。すると自分に視線が集まっていることを感じ取ってしまい、身体が震えた。


 いや、そんなのは関係ない。この半年で連日鍛えた通りにやればいいだけだ、鍛えた通りに………


「ファイッ!」

「【神纏カヴァー軍神アレス】!」


 試験官の合図と共に、僕はアレク様から授かった加護を発動させる。

 今唱えたのは神様から力を授かり、自分の身に纏う、奇跡というものだ。魔法ではない。

 この奇跡は授かっている力によって効果が変わり、今回の場合、身体能力が二倍に強化されるだけだ。

 普通の人を二倍にしても運動神経が良い人にしかなれないが、僕は四歳から今まで約八年、身体を鍛えてきた。それを二倍すれば、魔法に匹敵する程の力は手に入れられる。


 僕は素早く足を繰り出し、ターゲットの下に潜り込むと剣を右上へと振り上げた。剣はスライムを切り裂くような感触と共にターゲットの身体をすり抜け、振り抜けた。


 ターゲットは何事もなかったかのようにそこに立っていた。


 成程、傷一つない理由が分かった。多分、このターゲットは柔軟性に長けており、なんというか、元の形に戻ろうとする力があるのだろう。

 思う存分やれ、と言っているターゲットだった。


 ならば五分間、全力で切り刻んでやろう。僕は師匠から習っていた戦いの為の剣舞を繰り広げた。


 そうして、五分が経過した。

 普段通りやれたが故に手ごたえがなく、いつもの練習をしている気分だった。終わってみてこれで良かったのだろうか、と不安になり試験官を観察してみるが、試験官は他の皆の時と同じように、淡々と自分のことについて記録しているだけだった。


 ふと、教官が数人の試験官を引き連れて話しかけてきた。


「あの魔法は何分続く?」

「えっと、今のところ五分が限界ですね」


 それだけ聞いて記録に記すと、僕は上の観客席へと戻された。再び他の受験生を観察する時間へと戻った。


 そうして訪れた、最後の三人。フィレイ殿下、カイル殿下、エウィンだ。

 貴族の反応を伺うに、どの三人も無視できない存在っぽいが、特に注目を集めていたのはフィレイ殿下だった。


 他二人も魔法に適正があったがフィレイ殿下は、ずば抜けていた。


 そんなエウィン殿下の演舞が今、始まる。僕はこっそりフィレイ殿下に近い、反対側の観客席に移動した。


「ファイッ!」

「【全身強化ビルドアップ】【神速ソニック】【豪腕ストロング】【ブラッ………───【光神ルー転偽鏡ミライガ】」


 唱えられる、大量の強化魔法。そして、最後に聞こえたのは…… 奇跡の詠唱、か?


 フィレイ殿下が唱えると、彼の輪郭が一瞬ぼやけ発生した蜃気楼から、十二体のフィレイ殿下が発生した。それらは各々独立した動きを見せ、正面のターゲットへと連携して襲い掛かった。


 そして、うち三体が同時に魔術を唱えているのが目に留まった。


「【岩弾バレスト】」

「【隆壁ガウォー】」

「【蔦絡スネア】」


 詠唱は三種類同時に行われる。今度は操作魔法だ。

 地面から発生した手の平サイズの尖った岩がターゲットへと突き刺さり、隆起した地面がターゲットの背中を塞ぎ、足元から伸びた蔦がターゲットの足を縛り付けた。


 十二体に分離していることで誤魔化されがちだが、元々は彼一人。つまりこれは一人で三個同時に詠唱していることになる。

 そんなの師匠でも不可能…… いや、やれば出来るのか? 一応、そんな師匠は見たことない。


 当然というか、会場の視線は彼一人に集まった。

 そうして魅入っていると、アレス様の声が脳内に響き渡った。


『神の気配がしたから来たが。あいつか?』

(うん、多分フィレイ殿下だよ)

『………ルーか』


 僕は眼球を右上に動かした。


(ルーって神様の名前だよね。つまり、殿下も僕とアレスみたいに?)

『そういうことになる。加護はともかく、直接干渉するなんて俺ぐらいだと思ったが…… 認識を改める必要があるな』

(にしてもどうして殿下が?)

『恐らくはグレイラット絡みだろうな。この世界の特異点なんてそれぐらいしかねぇ』


 僕は徐々に派手な技を見せ始めるフィレイ殿下に再び視線を落とした。


『ルーも干渉している以上、恐らく他の神も干渉している可能性が高い』

(………つまり?)

『この時代、思ったより厄介なことになるぞ』


 ククク、とアレス様の笑い声が響いた。神様にとって、厄介ごとは娯楽、歓迎すべきものらしい。


『予定が変わった。クハッ、こりゃ大変だなぁ』

(つまるとこ、私はどうすればいいのでしょうか)

『お前は最初の目標だけ目指してればいい。帳尻合わせは全部俺の仕事だ』

(分かりました)


 そう返すと、脳内のもやもやした感覚が消えた。アレス様はまたどこかに消えたようだ。


 フィレイ殿下の演舞を見下ろす。確かに、主席を取るのは自分と言ったのも納得だ。

 彼を追い抜かすことが当面の目標になるだろう、僕は膝でリズムを取り、彼との闘いを脳内でシミュレーションした。

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