試験の始まり
試験会場に到着した。試験会場は建物の中。
旅行先で見た伝統ある闘技場に似た外装をした建物だ。僕たちは一階の端に設けられた、個室だらけの更衣室を通して、試験会場に案内された。
内部はしっかりと固められた土の地面にそれなりに広い空間が設けられていた。柱などはなく天井の骨組みで建物が支えられているようだ。そして広い中央を囲うように席が設けられていた。
僕はこの風景に見覚えがあった。アレス様に勧められて行った北の闘技場がこんな感じだった。北の闘技場は天井がなかったがそれ以外は大体同じだ。
会場には八種類の大きな水晶クラスターと複数の身体を鍛える為の器具が、二ケ所に設置されていた。
一日目は魔法や剣の威力、身体能力と保有魔力を計測する日だ。
会場は更に細かく分けられ、この会場はフィレイ殿下や僕を含め子供は二百人ぐらいになっていた。そんな子供達が試験官の手によって更に細かく、二個の組に分けされる。
僕は王子とは意図的に距離を取っていたので、王子とは別の組に分けられた。
「よーし、お前ら。この組の試験官は俺が務める。名前なんていちいち覚えず教官と呼べ」
僕たちの担当となった教官は身体を鍛え上げていた三十代半ばの男性だった。
この地域では秋は肌寒くなってくるというのに、教官はタンクトップを着て筋肉隆々の腕を露出させていた。
その教官の後ろにも五人程の試験官が控えていた。
「さて、測定する前にこの水晶について説明させて貰う」
教官は後ろに設置されている、六芒星の魔法陣を親指で指す。上向きの三角形と下向きの三角形を重ねたような文様が描かれた、円形の魔法陣だ。黒い線で引かれている。
六芒星のそれぞれの頂点に、水晶クラスターが設置されている。
「その前に一つ聞くが。お前ら、魔法の特徴については事前に学習してあるな?」
その言葉に周りの人たちが頷く。僕たちは今年で十二歳、貴族なら魔法について勉強しているのが当たり前の年齢だそうだ。
「そうだな………」
きょろきょろと僕たちを見回した教官と目がある。そして腰の剣で指され、
「お前、ちょっと魔法の系統について説明してみろ」
と言われた。周りの人たちの視線が僕に集まる。
「えっと、魔法は大きく分けて六つの系統に分けられます」
僕は指を折り、一つ一つ思い出しながら答える。
「自身に魔力を巡らせ能力などを強化する、強化魔法。
魔力を体外で操り炎や雷などを生成する、属性魔法。
物質や生物を一時的に生み出す召喚魔法に、既に存在している物質などを操る。操作魔法。
相手に直接魔力を注ぎ込み、弱体化させたり体内から攻撃したりする、干渉魔法。
そのどれにも属さないと言われている、特殊系統…… でした、か?」
しっかり答えられたか表情の変化を観察していると、教官は僅かに口に力を入れて頷いた。
「そうだ。勘違いされやすいが物質を生成するのも召喚魔法に分類される、よく勉強しているな」
褒められたのが嬉しくて、頬が少し緩んでしまった。
「と、今あいつに答えて貰ったが、ちょっと付け加えさせて貰う。系統は大きく分けて六つあるが一人で全部使える、という訳ではない。
それぞれ一人一人が魔素を持っているが、それは血統によって向き不向きがある」
教官は後ろの魔法陣をもう一度、今度は顎で指した。
「この魔法陣はそれを測る為の装置だ。この中心の六角形に立つと、その者の魔法系統が分かるようになっている。
それぞれの水晶が各系統に対応してる。赤い水晶が強化、黄色が属性、緑が召喚、水色が操作、青が干渉、紫が特殊、という感じだな」
そう言いながら、教官は魔法陣の中心に足を踏み入れた。
すると教官から魔力が溢れ出すかのように、彼を中心として白い輝きが黒い線を侵食し始めた。水晶が微弱な光を放ち、それは魔法陣が侵食されるにつれ輝きを強めた。
やがて魔法陣が完全に白へ染まる。
水晶は赤と黄色が眩い光を放ち、青が僅かな光を放っていた。他の色は何事もなく沈黙していた。
「この場合、俺の魔素は強化魔法と属性魔法が得意で、操作魔法も少しだけ使えるということを示している」
教官は魔法陣から出る。魔法陣は一瞬にして輝きを失い、元の黒に戻り沈黙した。
「さて、適正検査する前に二つ、言うことがある。一つはここで出た結果は全ての国、貴族に報告される。で、二つ目だが」
彼の目つきが鋭くなった。
「個人が所有している魔素の量、性質は生涯変化することが殆どない。つまり何が言いたいかというと、ここで出た結果が全てだということだ。
そしてこの試験では、全ての魔法に適正がない、という結果が出ることもある。その場合は戦闘学科に向いていない、ということになる。その場合の為に学園は、別の学科へ変更するという道を用意してある。
結果が悪いと思った場合は真摯に受け止めて、検討してくれ」
教官が説明を終えた。会場の雰囲気が少し暗くなった。測る前にそんなことを言われれば当然だろう。けれど、言われる必要のあることだ。
「では一人ずつ測る、先ずはお前からだ」
そうして集団の右前から順番に測られていく。
先ほどあんな説明があったが、微弱な光しか放たなかった、という結果が出ることはなく、無事平穏に物事は進んでいった。
一般的に適性があるのは一つか二つ。ないけど使えるのが一つ、といった感じだ。紫の水晶、特殊系統に対応した水晶はこれまで一度たりとも光っていない。
そうして念入りに分析していると、僕の番が来た。
僕は魔法陣の中心、六角形の中に足を踏み入れ、足元の線を見つめる。
すると、ほんの僅かな光だけが目前の線を侵食した。それは非常に鈍い動作で広がり、他人の二倍の時間をかけて魔法陣全体に広がった。
けれどその光は最後まで弱弱しいものだった。
嫌な予感がしながら、赤い水晶へと視線を上げる。
やはり、と言うべきか。水晶は微弱な光しか放っていなかった。アレス様から授かった加護は、身体を強化するものなのだが………
他の水晶を見ても結果は似たようなもの…… いや、黄色い水晶、属性魔法に対応する水晶が他と比べほんの少し強く輝いていた。どっこいどっこいだった。
すると、突如頭にもやが浮かぶ感覚を覚えた。アレス様が僕と会話しようとするときに起こる現象だ。
『………あー』
(アレス様、見ていらしたんですか)
『常に干渉は出来ないけど見るだけなら問題ねぇからな』
(ところでこの結果は、どうしてでしょうか)
『普通の加護だったらお前自身に力を与えるから問題なかったんだが、今回の場合俺の力を直接貸し出してるからな。とにかくお前の体内にその力はねぇってこった。んじゃな』
そうして頭のもやもやが晴れた。
理由はどうであれ、悪い結果を出してしまったのは事実で。
ふと教官の方を見ると、厳しい目を僕に向けてきているのが分かった。




