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なんでフィレイ殿下と馬車に…

 試験会場へと向かう馬車の中、王子は窓のカーテンを閉めて、僕に微笑みかけてきた。


「ところで、なんで君はこの学園に来たのかな?」

「師匠に恩返しをする為です。神託で下ったのですが、ここでなら師匠と並ぶ為の仲間に出会える、と」


 フィレイ王子は成程、と頷くと王子の名に恥じない厳しい顔を僕へと向けた。


「君一人で並ぶつもりはなかったのかい?」

「………師匠は強すぎます。それこそ世界を敵に回しても勝利してしまうのではないかと思えるぐらいには」


 実際に世界を敵に回して勝つような化け物達に圧勝したグレイラットという過去が師匠にはある。


「先ほど話し合っている時は人目を気にして伏せていましたが、フィレイ殿下も師匠の過去を知っていますよね?」

「そりゃね、どうやら彼女は過去を隠すつもりもないみたいだし。彼女が転生者で、この学園の名前にもなった、グレイラットということだって知っている」

「「えっ」」


 僕とフィレイ王子の会話を、隣で聞いていた二人が反応を示した。


「フィレイ殿下、私はそのような話を聞いていないのですが」

「ちょっと待ってフィレイ、転生って大罪じゃなかったっけ?」


 エウィンが不貞腐れた様子で、カイル殿下がフィレイ殿下を心配する様子で横から口を挟んできた。


「まー、わざわざ言うようなことじゃなかったからね。友人が罪人だなんて言うもんじゃないでしょ」

「話が逸れそうなので戻させて頂きますが師匠は転生したグレイラットです」


 ………これも言ってしまっていいか。相手は仮にも王子様だ、僕から聞いた話をむやみに言いふらす真似はしないだろう。


「少し自分の話になりますが、よければ聞いてください」

「うんうん」

「僕は半年前、アレス様と知り合いました。神託と表現したのは、それのことですね」


 アレス様と知り合った。その言葉を発するとフィレイ殿下は目を細める。隣のカイル殿下とその対面に座っているエウィンは僕の発言を飲み込めていないようだった。

 肝心のフィレイ殿下には伝わっていると判断した僕は、話を続ける。


「そして、僕は師匠の、グレイラットとしての過去を見せていただきました。その過去とは───」


 僕はあの時見せて貰った光景を思い浮かべ、台詞を一字一句間違えないよう必死になぞらえながら再現した。

 フィレイ殿下は、それを真剣に聞いてくれた。他の二人は、師匠の異常性を聞かされ、フィレイ殿下とは別の意味で顔が険しくなっていた。


「と、いうことなんです。アレス様は言いました、世界が一丸になっていればグレイラットを楽しませられたと」


 神妙な顔つきで頷くフィレイ殿下の肩をカイル殿下が揺すった。


「ちょっと待って、そんな危険な人と関わってたの?」

「危険とか言わないで貰えるかな、僕の友人だよ?」

「私からも言わせて貰います、レイとやらの交友関係は切るべきかと」


 心配されていることを分かっていながらも友人を悪く言われ、怒るに怒れないフィレイ殿下。

 確かに危険なのは事実ではあるのだが、これ以上悪く言われるのは嫌だったので、僕は口を挟んで強制的に話を続けた。


「僕の願いは師匠を喜ばせること。ですからその第一段階として、この学園の主席を狙いに来ました」

「第一段階か、それが最終目標だって人もいるんだけどね。で、それで仮に主席を取れたとして、君はその後戦争でも起こすつもりかい?」

「…………」


 そういうことになる、だろう。けれど………


「分かりません。それに関しては、ここで上を目指してるうちに見つかればいいのですが。現段階ではなんとも言えません」


 グレイラットは戦いで英雄になった存在だ。今お世話になっているアレス様は戦争を司る神様だ。

 おそらく戦争のなくなるであろう現代で、僕は一番戦争に近いところにいるだろう。

 そして僕の願いを叶えるのであれば、戦争と似た状況に陥ることは必須だろう。


「…………」


 そうして黙りこくっていると、フィレイ殿下が意地悪な笑みを浮かべた。


「アハハ、ごめんごめん。意地悪な質問しちゃって。多分だけど、レイは絶対何らかの形で戦いを巻き起こすよ」


 なんとフィレイ殿下も、同じ結論に行き着いていたようだ。


「王子としては反対なんだけど。でもレイの友人としては楽しんでる彼女を見たいってのもあるんだよね。だから僕も戦争ではない何かで彼女を満たす方法を探しているんだ。君もそうなんだろう?」

「………どうなんでしょうね」


 確かに、進むとしたらその道が一番平和的だろう。無論、僕だって一番平和な道が良い。

 けれどそれを選んだ僕を僕が認めるかと言われると怪しい。


「私は罪人すら殺せない甘い人間ですが、師匠の望みはなるべく妥協することなく叶えたいのです」

「ってことは、まだ悩んでる最中なんだね」

「そうですね」


 フィレイ殿下は少し嬉しそうな顔をしながら、考え込む様子を見せた。


「うん、そうだね。先ずは君が第一段階を乗り越えれるか見させて貰うよ。あー、でもそうだね。主席は僕のものだしー」


 よし! と膝を平手で大きく叩きつけた。


「君が英雄学科に入れるかどうかってことにしよう! 英雄学科は勿論知ってるよね」

「確か、各学年各学科の上位五十名が入れるクラスですね」


 英雄学科に入ると、色々好待遇されるらしい。

 どんな特典だったか全部は思い出せないが、一つ印象的な特典があった。それは授業への出席を免除する、という待遇だ。

 毎学期最後のテストで上位五十名に入れないと英雄学科から追い出されるから勉強しなくていいという訳ではないが先ほど挙げた待遇含め、この学園でかなりの自由を許されるらしい。


 因みに来年の戦闘学科一年は四十万人。上位五十人だから凄まじい倍率だ。全員狙う訳ではないから実際は一、二百倍ぐらいだろうか。


「そこに入れたらまた改めて同じ質問をするよ」

「入れた時に答えが出ていればいいのですが………」

「その心配はないよ。いくら神様から強い加護を授かっていたとしても、理念もなしに入れるほどこの学園は甘くないからね」


 例外はいるけど、と付け加えて笑う。


「それまで友達になるのは保留しよう」

「分かりました」

「ま、それはそうと会場に到着するまで時間があるからレイについて語り合おっか」

「それは構いませんが、二人の友人はどうするのですか?」


 隣と斜め前の二人に視線を配る。

 エウィンは僕が殿下と話していることに少し嫌な顔をしていて、カイル殿下は話に入れなくてなんだか居心地悪そうにしていた。

 フィレイ殿下もそんな二人を見て申し訳なさそうに小さく笑うと、エウィンと肩を組んだ。


「そうだね、二人にもレイについて深く知って貰おっか」


 嬉しそうに二人を巻き込むフィレイ殿下、巻き込まれた二人は少しげんなりとした。エウィンが僕を睨んできたけれど、僕は巻き込むつもりで言った訳ではない。

 試験会場に到着するまで僕はフィレイ殿下に質問攻めされた。


 僕も少しげんなりした。

 言わないことにしたが、フィレイ殿下と一緒にいる二人は事ある度に振り回されてそうな気がした。

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