試験の説明をされました
随分と迂闊なことをした。
そう気づいたのは、そろそろ入試が始まるからとフィレイ王子がどこかに行った時だった。
相変わらず聞こえるひそひそ話から察するに、どうやら僕は王子様と仲良くしすぎたらしい。ぽっと出の人間の癖に、とのこと。
地べたに座ったりと、元々周囲の貴族からの印象が悪かった僕が王子と話してることを疎み、全員で阻害する流れが出来ていた。
アレス様曰く、貴族も平民も集団行動が大好きだと言っていた。一度出来た流れは余程強い人間でなければ変えられないと言っていた。
余程、とは王子とか、グレイラットとかその域の人間のことだ。
そして大体の人間は変えようとしない、とも言っていた。
本当にやらかした。
(この状況を変えると考えてる人は、私しかいない可能性が高いですね)
となると僕が打てる手は実力を示す、ぐらいしかない。
この入試で好成績を収めて、一部の人間にでも認めて貰うしかないだろう。
いや、元々そのつもりかと自分の考えを笑っていると突如広間に甲高い音が響いた。どこから聞こえてきたか、発生源の分からない音だった。
不思議に思って周囲を見渡してみると、他の人たちも皆同じことをしていた。
そして間もなくして、同じように発生源の分からない声が脳内に響いた。
「あーあー。ミランダー、これ皆に聞こえてるかな?」
「至極極々当然のことなの。私の魔法陣は世界一なの」
「えー、皆さん聞こえますかー? 聞こえるなら手を振ってくださーい!」
よく分からない状況のまま、その場にそぐわない会話が繰り広げられる。
取り合えず、手だけでも小さく振ってみることにした。
「あれれー? 皆元気がないねぇ。ま、いいや。皆さん初めまして! 校長のゼル=トパーズです!」
リコンでも、初対面の人達にこんな気楽な態度は取らない。随分と気さくな校長だなという印象を抱いた。
「えー、戦闘学科を受けるこの会場の皆さんには本日から三日間。この栄えあるグレイラット学園の入試に挑んで頂きます! あ、でも入試って言っても皆の実力を見て階級分けするだけだからね? 入学した後でも階級は上がったり下がったりするし、リラックスして挑みましょー。いえー!」
その気さくな言葉を聞いて安心する人は殆どいない。
ここで悪い成績を納めてしまい、将来有望だと期待されてた子が落ちぶれたなんてのは、よく聞いた話だ。
校長の言う通り、ここでの成績が全てではないらしいが、それでもこれが今後に大きく関わってくることだろう。
「あれ皆さんいえーい!」
「おい、そのマイクとやらを貸せ」
渋い男性の声が響き、脳内に何やら聞きなれない雑音が入る。紙が擦れたのとは違う、なんか不快な音だ。
「脳みそあっぱーな校長に変わって俺が入試の説明をする」
その声は、緊張感を煽る重厚な声だった。
「初日は能力測定だ。魔法や剣の腕、魔力の総量や身体能力をそれぞれ測らせて貰う。魔術と剣術は多種多様故に審査員の基準になってしまうが、そこは運だと思ってくれ」
「二日目は筆記テストと実践だ。筆記テストは貴族としての現段階での知識を測らせて貰う、魔術や剣術についても聞くが、そっちは実戦がメインだ。実践はミランダ教授が用意した敵と戦ってもらう。敵は三種類ある、それぞれと戦って貰う」
「三日目は実際にお前達同士で戦って貰う。これもミランダ教授が用意したフィールドでだ。それぞれの戦術眼、戦略、人脈を駆使して、得点を稼いでくれ」
「三日間お前らが止まる宿についてだが、一人一部屋用意してある。休む時間もかなり設けている。全力を出せるよう、各々のコンディションは各自管理しろ。ああ、それと事前に通知した筈だが、試験中はちゃんと戦闘用の服装でやれよ? 着替え忘れたって奴は後で教員にこっそり言え」
そうして言い終えると、重厚な声の男性は校長にマイクを返した。
「と、いうわけです! いやー、実は僕、この学園に必要ないんじゃないかな! 皆優秀だし!」
変わらず緊張が削がれる喋りだ。
「冗談はさておいてね! 皆さん、三日間頑張ってください! 校長、応援してますよ! フレーフレ」
ブツリ、と聞きなれない音がして校長の声が途切れた。
「あの校長を真面目な場面に出したらダメなの」
そして聞こえる若い女性の声…… と、いうより小さい子供の声? さっきも聞こえてたけど、子供?
「私の声聞いて幼女連想した奴は即刻不合格なの。荷物纏めて帰るの。冗談なの」
冗談、と最後に付け加えてきたが、許されるなら本気で帰らせそうな本気の声色をしていた。
「早速皆には移動して貰うの。移動は勿論馬車なの。一台に平均三人を想定して、一つの会場につき三百台用意したの。さっさと乗り込むの」
僕は周囲を見回した。一台に平均三人を想定しているとは言っていたが、僕と一緒に乗るような人は───
などと考えていると、三人組が僕の方に手を振って近づいてきているのが見えた。中の一人に、先ほどのフィレイ王子がいた。
「やぁシオン君、話し足りなかったし馬車一緒に乗らない?」
「えぇ、構いません。ところでそちらの方は?」
右手の先を水色の服を着た男性に向ける。
「初めまして、カイル=Q=アクアだよ」
「あぁ、彼も王子だよ。アクア王国の」
「あっはい、初めまして。シオンと申します」
ペコリ、と頭を下げる。王子は王子としてしっかりと頭を下げず、優し気な笑顔で頷いていた。
………王子二人と相乗り、か。実感は出来ないけどあり得ないくらい名誉なことだということは流石に分かる。他の人からの妬みがこれ以上ないぐらい強まってきている気がする。
王子の後ろで控えているエウィンが、断ってくださいというオーラを醸し出して僕を見ている。
正直なところ僕もこれ以上目立つのは避けたいところだ。けれど王子の頼みを断る訳にはいかない。
平民如きに断られた王子と、平民如きに関わってくれる王子。うん、後者の方がイメージがいい。
「さ、乗って乗って」
僕は王子に腕を引っ張られ、一番先頭の馬車に乗り込んだ。




