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VS巨躯猿

一話が終わる度に挟む鬼人グレイラットとしての過去。

 柔らかな大木で覆われた湿地帯。重苦しい湿気が生物の体に纏わりつき、常に体力を蝕むために、適応出来ない生物は存在すら許されない環境だ。


 しかし鬼人と謳われるグレイラットは、その地でも虐殺の限りを尽くしていた。

 鬼人グレイラットは最強だ。星が織りなす環境ですら、全てにおいて適応出来る適応性を有している。


 しかし最強はそれだけに留まらない。最強が故に、星が織りなす環境ですらグレイラットは上回る。

 グレイラットは炎を纏い、焼けつくような熱気を周囲に放っていた。周囲の木々は勿論、熱気に触れた生物達はたちまち炭化し、蒸発する。


(悶え苦しむ弱者は無視だ。何もせずとも死ぬ。逃げ惑う獲物は全て殺す。歯向かう獲物も殺す)


 グレイラットの踏んだ地には何も残されていなかった。

 金属を固めただけの剣で粉砕された死体。その辺で拾われた枝で心臓を貫かれた死体。グレイラットの放つ熱気に炙られた死体。

 それらは全て、塵も残さず消失していた。


 適応出来ない弱者は死ぬ。適応出来た強者は殺される。

 この地に住まうていたほぼ全ての生物からすれば、グレイラットは災害以上の何かでしかなかった。


 しかし、中にはグレイラットが敵と見做せる程の実力を兼ね備える者がいた。


 グレイラットは立ち止まり、右へと進路を変えた。


 進路の先には、五メートル超のゴリラの群れが存在していた。巨躯猿マウンテンゴリラだ。

 二十体にも及ぶゴリラから成す群れはグレイラットが放つ熱気を物ともせず、ただ歩んで、グレイラットを取り囲むように展開していた。


 唯一、歩まずに待機していたボスゴリラがグレイラットを、見下す。ボスゴリラは銀色の毛皮を纏い、厳かな雰囲気を醸し出していた。


「鬼人グレイラット、世界の敵よ。貴殿は何故に尊い命を消し去る?」

「戦いは快楽だ、殺しは快楽だ。そして俺は最強として生まれ落ちた。ならば、殺さずにいるのは勿体ないだろう?」


 ボスゴリラは表情を一切変えずに、グレイラットを上方から見下す。


「許されることではない」


「俺が許す」


「世界が許さない」


「俺は世界より強い」


 ボスゴリラは拳を右へ振り上げる。


「貴殿には、我らが直々に罰を与えよう」


 鬼人グレイラットは嘲笑う。


「やはり世界は学習しないな」


「何が言いたい」


「結局お前も、自身が最強だと自惚れている。私に歯向かう奴は、そういう奴しかいねぇって話だ」


「確かに私一人の力では貴殿には敵わない。故に我らは仲間がいるのだ」


「たったそれだけの数で最強気取りか? 話にならねぇな」


 鬼人グレイラットはボスゴリラに向かって足を踏み出した。ボスゴリラが右腕を振り下ろす。ゴリラの群れがグレイラットへと飛び込んだ。



 三十秒後、そこにはゴリラ達の死体が転がっていた。炎に耐性があるために、それらは死体となってもグレイラットの足元に転がっていた。

 グレイラットはボスゴリラの頭を踏み潰し、高らかに笑った。


「ハハッ! やはり殺しは快楽だ! 口うるせぇ者共が静かになる瞬間は最高に気持ちいい!」


 鬼人の笑い声が、焼失した雨林に響き渡る。それを聞くものはもはやこの地に存在しない。

 それでもグレイラットは笑い続けた。その笑い声を己に聞かせるため。


「アッハハハハハハ! ハハハハハッ! ハーッハッハッハハ! アハハハハ!」


 笑い声は、段々と大きくなってゆく。

 しかし、それは喜びを噛みしめている訳ではなかった。


 グレイラットが笑う理由。それは。

 己の虚しさをかき消す為だった。


 世界は学習しない。

 グレイラットという驚異は世界中に広まっている。あの程度の数を揃えただけでは、グレイラットに敵わない。似通った例なら既に数えきれない程出ている。


 だというのに、同じことの繰り返しだ。


 適当な頭数揃えて、敵う気になって。グレイラットに挑んで、殺される。

 誰も彼もが、自分なら出来ると信じてやまないのだ。


 なんせ、相手はたった一人なのだから。


「なぁ! 世界! お前は弱いんだよ!」


 そう、だから弱い。

 グレイラットという目の前の脅威があるのに、誰も彼もが自分という概念に囚われ、自分以外の協力を拒む。


「アッハハハハハハ!」


 故に、グレイラットは飽いていた。同じことの繰り返しに嫌気が指していた。


 しかしグレイラットは殺し以外で快楽を得る手段を持たなかった。

 それが惰性であろうと、続ける以外の道がなかった。

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