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王城生活(2)

 私は城塞都市を離れ、相手側への城塞へと歩み寄る。国境を横断する道には敵兵以外誰もいない。敵兵士達は向こうの城塞から四方へと出て、平地に横一線の陣を展開している。

 生憎私は現代の兵法に詳しくない。戦いに関する知識ではあるのだが、常に一人で戦う私にとって兵法など何の意味もなさないからだ。

 それに学んだところで、前世から戦いは正面戦闘と決まっている。隠れてこそこそ倒すのも出来はするが、敵と戦ってる気がしないのでしない。やられる側なら楽しいんだけどね。


「正面は目視三千ってところですかね?」


 多いのか少ないのかは分からない。フィレイもよくある話だと言っていたし、この星の総人口およそ十二億から考えると……… 分からない。まぁ一度に相手する人数にしては多い方だろう。盗賊だと最高でも四十人だったし。

 私は敵兵に警戒されるべく、足元の土を固めて敵軍へと投げ込んだ。手加減して。


 土の弾丸は先陣を切っている一人の兵士に命中する。頭が吹っ飛び、彼は死んだ。突然の死者に近くの兵士達がパニックを起こすと、最寄りの指揮官らしき人が怒鳴って彼らを鎮めた。


 私に困惑の視線が集まる。


「初めまして、敵方さん! 今日は皆さんを殺しに参りました、どうぞよろしくお願いします!」


 宣戦布告をしてみるが、今の私の思考は昔の私と比べかなり大人しくなったらしい。昔のような狂暴な宣戦布告が出来なくなってしまっていた。

 少し悲しいかな、と思いながらも私は軽く地を蹴った。申し訳程度に走ろうとする程度に。


 軍の手前から魔力の流れを感じる。非常に微々たる、才なき者達の集まりが織りなす小さな球状の魔法。火、水、雷などなど属性の違いはあるが、特に気に留める必要もない弱小な魔法だ。


 次に弓矢が降り注いでくる。弓矢と言っても魔法が使えない人が使うただの弓矢だ。魔法が乗ってるならいざ知らず、これもどうでもいい攻撃だ。


 私が軍の目前まで辿り着いたら今度は白兵戦。………シオンとは比べ物にならない程弱い。それに先週フィレイと戦った時の方が、驚きがあって刺激的だった。


 そうして千人程殺すと敵兵は散り散りになって逃げていった。追う理由は、特にない。大して手ごたえはなかったが、久々に多人数相手に出来たという実感だけはあったので、満足した私はそのまま帰ることにした。



 昼少し前、戻ってきた王城。魔力の位置的にフィレイは歴史の授業を受けているのだろうか。授業用の部屋の扉を蹴り開ける。


「どうも、終わりましたよ」

「はやいねー、さっすがレイ」


 フィレイはそんな予感がしてたらしく、驚くような様子は見せず素直に私を褒めた。その後は夕方まで授業を受け、私は国王の執務室へ呼び出された。



 執務室では国王が椅子の柔らかい背もたれに寄りかかって脱力していた。国民の前では国王の姿、フィレイの前では父親の姿を見せるが、どうにも最近私に対する扱いが適当になっている気がする。


「なぁお前。フィレイが入学したら軍で働かないか?」

「あ、私も後で入学するので。それに誰かの言いなりとか性に合いません」

「まぁ別に断られる気がしてたからいいけどな、お前そんな強くて何をしてるんだ?」

「特に何も、今は暇つぶしばかりですね」


 本当、退屈凌ぎにやっていることが退屈になるぐらいに暇つぶしばかりだ。


「ああ、そうです。一つ参考までに聞かせてください。もし貴方が暇人で、私ほど強い力を持っていたら何をやりますか?」

「まぁ国王としては国を一つに纏め上げると答えるべきだろうが。結局やりたいことやるしかないんじゃないか。そうだな、お前ほど強くて自由なら、新しく国作ってみるとかか?」

「それって国王では」

「………現状に満足してるってこったな。で、お前は満足出来てるのか?」

「出来るわけないですよ。国王なんですから私より強い相手探してくださいよ、そいつと戦うのが私のやりたいことです」

「無理だな」

「知ってます」


 笑うようなポイントではないのだが、国王は気味悪く笑った。


「ま、お前はもうフィレイの友人で俺の友人だ」

「一週間しか経ってませんが」

「気に入ったら友人なんだよ」


 国王は笑いを漏らしながら言う。私はドライな目で見下ろす。


「友人の俺からアドバイスだ。戦いたいのが今の欲で、それを満たせないのなら何故戦いたいのか考えて、その理由に別の方法で辿り着けばいい。もしお前がスリルを得たいなら、変わりの手段で満たせばいい」

「アドバイス、受け取っておきます」


 もう話すことはないだろう。私は身を翻し、執務室の扉に手をかける。


「ああ、そうだ。今の話でお前に一つ提案が出来た」

「………なんでしょうか」

「俺と一緒に世界を纏め上げないか?」

「根っからの国王なんですね、お断りします」


 私は執務室の扉を勢いよく開き、閉めずにそのまま執務室を出た。国王…… えっと、名前は知らないがあいつは国王で、立ち向かう現状に満足出来ている。

 羨ましい。




 そうして一年弱が経過した。フィレイがグレイラット学園の試験を受ける時期だ。当然ながら私を超えることはなかったが、フィレイはここ一年で見違えるほど強くなった。


 今日の朝、フィレイは試験会場行きの馬車へと乗った。私と国王夫妻、その他使用人達が見送りに来ていた。

 フィレイは馬車から身を乗り出し私へと話しかけてきた。


「じゃ、行ってくるよ」

「ということは契約終了ですね。お世話になりました」

「え、ずっと王城に居てもいいんだけど」

「私も二年後学園に入りますので、それまで世界を見て回ろうかと」

「あ、来るんだ。もしかして戦闘学科? 僕もそれ受けるんだ」

「そうですか、では二年後にまた」

「じゃあまたね!」


 そう言ってフィレイは頭をひっこめた。


 フィレイは今から国王の息子として受験をしに行くのだが、心配しているような素振りは一切見せなかった。実際かなり強いから戦闘学科であれば余裕で上位になれるだろう。

 私は馬車が城門を通り過ぎるまで見送ると、見送った庭からそのまま部屋へと、王城を出る支度を整えに向かった。さて、出た後は何をしようか。


 最悪なことに、今後の予定はまだ決まっていなかった。

次から三話。

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