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王城生活(1)

 フィレイのいる王城に住んでから一週間が経過した。


 特にこれといって目立ったことはないが、賞金首を狩って生きるだけの惰性に塗れた日々よりはまともな生活を送っているなとは思っている。

 この一週間ですっかり王城の複雑な道は覚えたし、王城で偉い人の顔も覚えた。名前は未だに覚えられないが。


 一週間で変化があったことと言えば、フィレイが真面目に授業を受けてるぐらいか。授業中、事ある度に私に構おうとするところは王室教師も少し不満なようだが、授業受けるようになったところは国王も教師も純粋に喜んでいた。


 今朝も食事を終え廊下を歩いていると、ミリが王室のメイドさん達と並んでこちらへと歩いて来ているのが見えた。

 ミリは実家にいた時のような露出の多いメイド服ではなく、王城のメイドが着るような慎ましやかなロングの服を着ていた。


「あっお嬢様~、おはようごさいます~」

「おはよう。なんかいつもと服が違うね」

「はい~、最初は客として働かせて貰ってたんですけど~、服装がだらしないと侍女長に叱られてしまいまして~」


 ミリは不満そうに言う。


「短いのって駄目なんだ」


 動きやすそうだからいいのに、と不思議に思っていると、ミリの横のメイドが口を挟んできた。


「勿論ですよ! 普通どこの家も給仕服はロングって決まっているのです!」

「え、じゃあミリのあれは何?」

「私の趣味です~」

「納得」


 なんて会話を交わすと、私は今日もフィレイと歴史を学ぶべく授業の部屋へと向かうのであった。



 少し大きな扉を開け、部屋に入ると歴史の教師がだるそうに本を読んでソファの背もたれに寄りかかっていた。紺色の長いコートも脱ぎ、高い帽子も肘掛けにしている。

 この一週間で初めて見る教師の姿だった。


「どうしました?」

「レイくん、今日の授業は中止だ。何やら戦争が起きたみたいでね」

「えっ、戦争!」


 思わず弾むような口調で言ってしまう。久々に戦争という単語を聞いたのだから、喜ばない方が無理だという話なのだが。


「………やけに嬉しそうだね」

「まぁ、いえ。私賞金狩りですし」

「そうだったね。私も戦争は好きだよ、歴史として学ぶ分には面白いからね。あ、これ読むかい?」


 歴史の教師は手元の本を差し出してくる。裏表紙を表にしてるせいでタイトルは見えないが、話の流れからしておそらく戦争関連のものだろう。


「後で読ませて頂きます」


 私はそう言ってフィレイの元へと、ちゃんと廊下を通り向かうことにした。



 フィレイがいたのは王の執務室。仕事に使うとはいえ、一部の人しか入らないプライベートな部屋だった。そんな部屋に、私はノックもせずに立ち入った。

 部屋の中では漆喰色の机を挟み、椅子に構えた国王と立っているフィレイが向かい合っていた。


 私はフィレイの隣まで歩き、机の上を覗いた。机上にはこの大陸の地図が広げられていた。


「こんにちは、戦争の話ですか?」

「えっ、いつ入ってきたの」


 集中していたのか、二人は私が入ったことに気づかなかったようだ。国王はちゃんとノックしろ、とため息を吐きながらも私がここにいることを許可してくれた。


「で、戦争が始まるんですか」

「そうなるかもって話だね。うちの兵士が嫌な国に無断で立ち入っちゃってさ、向こうに大義名分与えちゃったんだよね」

「そんな理由で?」

「学園が出来たばかりの時なんて子供の喧嘩から戦争になったことあるんだから」


 国王は黙って頷いた。つまらない理由で戦争という話はよくあるようだった。


「戦争がそろそろなくなるって言ってもさ、細かい領地の取り合いは今も多いんだよね」


 フィレイがそう言うと、国王とフィレイは同時に頭を落とした。そうか、よくある話か。


「でしたら、この戦争私が貰ってもいいですか?」

「………?」


 フィレイは何を言っているか分かっていない様子だった。国王は私のお願いに困惑しながらも、落ち着いた雰囲気で私に話し出した。


「どういうことだ?」

「ちょっと纏まった敵を倒したくなりまして。ちょっと盗賊狩るだけじゃ暇でして」

「………領地の端だ、行っている間に解決してるぞ」

「私だけならすぐですので」

「成程、転移魔法の家系だったのか」


 国王は私の言葉を聞いてそう解釈した。現代では加護の他に血筋によって使える魔法もあるらしく、国王はそれだと判断したらしい。事実は違うが、似たようなものなので訂正はしない。


「いいぞ。だが、死んで息子を悲しませることはしないようにな」

「分かりました、では先に…… ああ、地図のここですよね」

「そうだ」


 私が地図を指さし確認していると、フィレイが羨ましそうに私を見ていた。そしてフィレイは机に乗り出し、国王の目を見て可愛らしく首を傾ける。


「ねぇ僕も行っていい?」

「ダメだ」


 即断だった。遊んでないで勉強しろ、ということだろう。

 程よい暇つぶしを見つけた私は盗賊切りに使っていた古い剣だけ持って戦場へと駆けた。………文字通り。



 そうして辿り着いた戦場、陸の国境だ。川や塀など、国境の境目として分かりやすい目印などはなく普遍的な開けた平原。

 この国、メージスと向こうの国、サファリアだったか。とにかく、お互いの拠点となる城塞都市が離れて存在しているだけだ。その二都市を繋ぐのは一本道。その道の途中に国境であるという、唯一の目印となる看板があるだけ。


 これではうっかり兵士が国境を越えたとしても仕方ないとしか言えない場所だった。


 見たところ、戦争はまだ起きていない。私は自国の城塞都市の兵士まで聞きに行くことにした。


「こんにちは、戦争が起きると聞いて駆けて来たのですが」

「ああ、連絡なら来てるよ。君が助っ人のレイだね?」


 適当な兵士に話しかけたのだが、連絡が行き届いてるらしく私の存在は兵士たち全員に認識されているらしい。世界一強い幼女として。


「ま、ちょっとピリピリしてるけどゆっくり───」


 兵士がそう言いかけたところで、警鐘が鳴らされた。魔法は三億年前と比べ遥かに発展しているが、私たちに危機を伝える鐘は街の中心、高い塔でただ鳴らすという原始的なものだった。

 先ほどまで親切に話してくれた兵士も慌てて消えてしまった。


 さて、一足先に出て大暴れと行こうかね。

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