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フィレイとの模擬戦

 心なしか楽しそうなフィレイに腕を掴まれ、王城を案内される。案内自体は特に変哲もないもので、王様の部屋近く、王子の部屋、私に用意された部屋、その他重要施設。禁書庫など立ち入り禁止とされているところには案内されなかった。


 大体は興味ない施設ばかり案内されてばかりで欠伸が出る程退屈だった。今ようやっと最上階の塔、五階の案内が終わり、四階の案内に差し掛かったところだ。下に行けば行くほど施設が多くなると考えると退屈だ。


「ふわ~ぁ」

「あ、やっぱり興味ない?」

「興味ありませんよ、というか分かってるならやめてくれます?」

「そっか」


 私が退屈しているのを分かっていながら案内していたフィレイは、何故か嬉しそうな顔をした。


「やっぱ戦うのが好きなの?」

「好き、ですか。最近はそうとも言い切れない気がしていますね」

「ふぅん、なんで?」

「満たされないんです、賞金首を殺しても」


 少なくとも、久しぶりに会った人に相談してしまう程には危機感を抱いていた。昔はただ殺しまわっていれば満たされた。上でふんぞり返ってるつもりの連中を殺して快楽を得ていた。

 けれど三十路超えた辺りから私が頂点だということを証明出来てしまった。


「いくら殺しても力が有り余ってしまうんです」

「………分かるかもしれない、その気持ち」

「分かる?」


 分かる筈はない、と否定しそうになったが確かフィレイは私程ではないにしろ莫大な魔力を有していた。となれば同年代どころがそこらの兵士長では相手にならない可能性がある。


 だとしたら分かるかもしれない、とフィレイの方を見る。フィレイは人差し指で外を指していた。


「一回近くの練兵場で戦ってみない? もちろん殺しはなしで」

「手加減しますね」


 そう答えるとフィレイは歩く速度を速めた。複雑な城の構造の中、離れた階段に迷うことなく一直線に降りる。

 そうして辿りついた練兵場では兵士達が多種多様な訓練をしていた。兵士の質自体は前いたドゥラッタよりマシだが、それでもフィレイと比べると乏しい能力しかない。


「やぁ、皆頑張ってるね」

「第三王子様、本日はどういったご用件で?」

「今日は別に遊びに来た訳じゃないよ。この子と戦ってみたくてね、ちょっと木剣持ってきて」

「えっ……。た、只今お持ちします。少々お待ちください」


 兵士は私に対し哀れむような目を見せる。


「ここにはちょくちょく遊びに来てるんだけどね。王室付きの近衛兵より何故か僕の方が強いんだ。でも、僕なんかより君の方が格段に強いんだよね?」


 フィレイは言葉に似合わない優しい笑みを浮かべ私に言い放つ。疑問形ではあったが、問いかけるという表現は似合わなかった。


 兵士の二人が私とフィレイにそれぞれ、体長に合った長さの木剣を手渡してきた。

 フィレイのは十歳の身体にピッタリの長さの剣だった。私の身体に合わせた程短い剣はなかったのか、渡されたのは少しだけ長く感じられた。それでも、よくここまで短い剣を早急に用意出来たなという感想ではあるが。


「じゃ、ルールは簡単。相手に一度攻撃を直撃させるか相手の剣を壊せたら勝ち。魔法もありでいい?」

「魔法ってあの短い詠唱ですか? 構いませんよ」


 そういえばなんだかんだで短い詠唱で使える魔法を習得出来ていない。魔法に関する本はなかったし、ミリに頼んでも何故か専門外だと断られたからだ。


「じゃ、僕達戦うから皆離れて~」


 そう言ってフィレイは周囲で訓練していた兵士を遠慮なしに端に退けた。訓練の邪魔をしていいものか、と思ったが退けられた兵士は合法的に休める、と喜んでいるのが多数だった。

 練兵場の一角から兵士が消え、消えた兵士達は遠くから私達の戦いが始まるのを待っていた。


 私とフィレイ王子は十分な距離を取り、互いに剣を構えていた。

 普段ならば有無を言わさず襲い掛かるのだが、フィレイ王子の魔法には興味があった。本物と見間違う程の幻影を生み出せるのは過去に出会ったことがなかった。


 全力を出させてから負けさせよう、そう思いながら剣を僅かに下に向けた。


「ファイッ!」


 近くにいた兵士長とやらが戦いの合図をする。瞬間、フィレイ王子は詠唱を始めた。ただ無防備に詠唱するのではなく、私が襲いかかるのを警戒しながらの詠唱だ。

 現代の魔法は相変わらず詠唱が短く、それは一瞬で終わった。


「具現せよ、【光神ルー相反鏡ミラージュ】」


 やや早口で唱えられた詠唱が終わると共に、フィレイの身体の輪郭が突如ぼやける。ぼやけた輪郭はすぐに複数体の幻影が重なった見慣れない形になり、フィレイは六体に分離した。

 分離した幻影らはそれぞれ違った動きをしながら横へとばらけた。


「凄いですね、幻影なんて本体と同じ動きしてるのしか見た事ありません」


 素直に感心した。この数の幻影を出すこと自体中々だし、それぞれが独立した動きを持つ幻影というのは初めてだ。

 私は幻影に関する魔法を使ったことはないが、並々ならぬ努力では片付けられない程の才能を有していたのだろう。莫大な魔力だけでなく、才能も。


「ね、でしょ? でもこんなのレイならどうってことないんだって、僕分かってるよ」


 それは同情なのか、哀れみなのか、諦めなのか。どれかはよくわからないが、六体の幻影は私に寄り添うような言動をする。けれど言葉とは裏腹に六体の幻影は容赦なく私に向かって襲い掛かってくる。


 私はその幻影に目もくれず、身体を左に向けた。正面にいる六体に対し、わざわざ受けにくい体勢を取る。

 そして何もない空間に対し、手元の木剣をなぎ払った。


 一見空を切った筈の木剣から鈍い音が響く。硬い木と硬い木がぶつかり合う音だ。そして私は、見えない何かを吹っ飛ばした。

 直後になぎ払った箇所からフィレイが姿を現した。フィレイの持っていた木剣はへし折られていた。


 そう、フィレイは六体の幻影を出すと同時に自身の姿を消していた。六体の幻影を生み出す技術は目を見張るものがあったが、フィレイはそれを囮として使っていた。


「うん、素晴らしいですね。分かるかもしれないと言ったのも納得です」


 戦闘センス、類稀なる魔法技術、莫大な魔力。どれを取っても素晴らしい。これでは私と同等に敵がいなかったことだろう。


「一体いつから見抜いてたんだい?」

「最初からですよ、私は生まれつき魔力の流れが見えましてね。上手く自身の魔力を隠していたようですが、一部の空間だけ違和感があったんですよ。今後はそれも意識してやるといいでしょう、少しは手間取ると思いますから」


 例えば、私が空間に感じた違和感をあえて意図的に、数箇所に生み出してみるとか。


「騙せても手間取るだけなんだね」

「元英雄ですから」


 元英雄。その称号は強すぎた者に与えられる証だ。フィレイは目を背けて言う。


「うん、やっぱり分かるよレイの気持ち」


 フィレイはどこか悲しげだ。多分、私を自分に重ねて言っているのだろう。これは同情だ。強すぎて退屈だということをこれまでにない程理解されている。


「大丈夫ですよ。諦めてますから」


 フィレイは一瞬顔を歪める。気まずそうな顔をさせてしまったところ悪いが、特にこれといった感情は抱いていない。

 ただそういうもので、そうなんだろうなと。再確認しただけだ。


「ま、そういうことです。ところで真面目に勉強する気にはなりましたか?」

「んー、負けちゃったし外に出れなくなるのは嫌だしね。勉強は真面目にやることにするよ」


 フィレイはおちゃらけた雰囲気でそう言う。

 私の問題は未解決のまま放り出すことにしたが、フィレイと王様の問題は割りと勝手に解決されそうな感じだった。

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