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古代人グレイラットと博物館

 という訳でやってきた博物館。時刻はお昼過ぎ、博物館の中に人はあまりおらず、数分歩けば貴族達が織り成す集団とすれ違う程度だ。

 個人で来ている客は私ぐらいしかいないようで、平民で来ている客も私しかいないようだった。


 博物館に平民がいない理由としては、やはり入館料だろう。

 入館料なんと九十万リル、平民三ヶ月分の給料だ。私や貴族であれば易々払える金額なのだろうが、シオンとかその辺の人々が払うとなると、やはり無理があるだろう。


 まぁ私も払える金額とはいえただの美術品に九十万リルも払いたくはない。なら何故来ているかというとここに目的の物があるからだ。


 ここには三億年前、大幅な地殻変動が起きて絶滅したとされている生物の骨が保存されているとの話だからだ。確か化石といったか、ここには巨大な生物の骨も展示されているらしい。


 普通に回れば数日はかかる、と言われている程広いらしく、ある程度計画性を立てて見るものを絞る必要性がありそうだ。早速壁に張り付けられている、紙の地図を見る。


 ………地図には、三億年前には聞いたことない名前ばかり載っていた。

 流石に石版に記載するような有名所の魔物、古代龍とか。この地図にも載っている古代龍とかは確かに三億年前に付いてた名前だが。


 とりあえず有名所だけ回って、後は適当に流し見するか。


 などと考えていると地図の中に『現存する、世界最古の武器』とやらの展示名を発見した。よし、そこに向かうついでに近くのを見るか。


 最初に通ったのは、エルフ達の化石が展示されているところだった。………ただでさえ人口の少ない希少な種族で専門の技術を持っていたことで有名だったが、そうか絶滅していたのか。

 道理でエルフの話をめっきり聞かない訳だ。まぁ、前世の日常生活でも滅多に聞く名前ではないが。


 隣にはドワーフ。同じく希少な種族で、エルフと共に行動をすることが多かった種だ。何故か近くに立てられている看板には【エルフと仲が悪かった】と記してある。


 まぁ、石版に種族間の仲がどーたらこーたらとか記述しないからね。考古学なんてヒントの殆どないところから推測されているらしいし、間違っていても不思議ではない。


 そんな感じで絶滅した種族達に思いを馳せながら、考察の間違いを見つけて遊びながら進んでいると、古代龍の化石への案内札を発見した。

 もしかしてグラファニーの化石もあるのだろうか。少し道は逸れるが寄り道する価値はある。


 そうして寄り道しようと足を運ぶとふと、全く同じ服装をしている集団を見かけた。道場でも中では指定された服に着替えるが、こういった外で統一した服を着た集団を見るのは初めてだ。

 基本は白をベースにしており男は一律でズボン、女はスカートだ。そろそろ冬になるというのに、随分と寒そうな格好をしていた。


 あまりにも珍しい集団なので、展示物そっちのけで会話の内容に耳を傾ける。


「───ファニーとグレイラットの関係について復習するの。先々週、授業でやったこと、覚えてるの?」


 どうやらこの軍団を率いてるのは、身体より一回り大きい白衣を着た偉く小柄な女性だった。二年して私が十歳になれば丁度追いつけるかぐらいの身長だが、気配からして彼女は子供ではなさそうだ。

 そんな子供のような大人の問いに、一人の青年は答える。


「はい。二人は主従関係にあり、かの古代龍グラファニーはグレイラットが死すその時まで傍で仕えたとされています」


 後世の的外れな解釈に、私はついコケてしまった。グラファニーとそれなりに関わったのは間違いないが主従関係の片鱗もなかった気がする。

 約束をした後も、月一度グラファニーが研究の経過を聞きに来ただけでそれ以上の関わりはなかったはずだ。

 多分転生する時も近くにはいなかった。


「ちゃんと覚えてて偉いの。じゃグレイラット亡き後、グラファニーは何をしていたの?」

「えっと………」


 子供達は分からないのだろうか、小さく視線を動かしてお互いがお互いに向けて視線を泳がせていた。そんな様子を見て、彼女は両手を上げて怒り出した。


「ちゃんと予習するよう注意忠告警告しておいたの! 罰として合宿から戻って出すレポートの提出枚数増やすの」


 れぽーと、と聞いて子供達は嫌な顔をした。聞きなれない単語だが、子供の反応を見るに面倒くさいものなのだろう。


「今回は教えとくの。ちゃんと予習する癖は付けとかないと後で苦労するの」


 彼女は子供達からそっぽを向き、腕を組みながら語り出した。


「グラファニーは英雄に代わり国を治め、人間やエルフの協力の下、主人最期の研究、転生の魔法陣を完成させたの。魔法陣科の授業では触れないけれど、現在の魔法陣の原型の原型であるという説もあるから研究会としてしっかり勉強して欲しかったの」


 ………グラファニーが、魔法陣を完成させた? 私はその話を聞いて、ふと疑問が思い浮かんだ。 何故グラファニーが魔法陣を完成させる必要があったのか。理由によっては── そう考えると、間違いだらけの考古学の解釈でも知りたくなってしまった。


「あ、でも今は転生の魔法陣は禁忌として処分されたから勉強するな、なの」


 そう振り向いて、子供達に指を差す彼女へと、私は声をかけた。


「あのすみません、そのグラファニーはなんで転生の魔法陣を完成させたのでしょうか?」


 声をかけてくる私へ彼女は不思議そうに振り向き、子供達は困ったように私を見つめた。集団に横から入るのは流石に困った人だったろうか、と一瞬考えたが、どうやら迷子と思われているようだった。


「………迷子、なの? 一緒に回るの?」

「是非お願いします。ところで、グラファニーと転生の魔法陣について詳しく教えて貰えますか?」

「勿論いいの!」


 彼女は跳ねて喜び、私の右手を掴み引っ張る。余程この話に興味を持ってくれるのが嬉しいようだった。


「全部の説を話してたらキリがないから私が一番推してる説を話すの。構わないの?」

「構いませんよ」

「私が推してる説は両者転生説、なの! 説明すると───」


 ………ここから、彼女のあまりにも長い熱弁が始まった。早口で多大な情報量を、押し付けてくる。普段ならうんざりするが、丁度私も興味があったので聞き入ってしまった。

 ただ集中して聞いてもあまりに長く全部覚えるのは一苦労だったので、話の要点だけ覚えながら彼女の話を聞いていた。


 まぁ要点だけ絞ると、私が転生した後、グラファニーは魔法陣をエルフのところに持ち込み、長い研究の末欠陥を発見し修正した。そして修正した魔法陣でどこかの時代に転生した主人を追った、という説だ。


 それが本当なら願ってもないことだが、考古学が間違いだらけな以上、あまり期待せずに転生したグラファニーを探すとしよう。

 それともう一つ期待出来ない要素はある。私は人間から人間の子に転生したが、グラファニーは古代龍で、今古代龍は生きていないとされているから転生先がないのだ。


「うん、ありがとう。勉強になりました」

「折角だからグラファニーの化石も一緒に見るの。皆も構わない……の?」


 彼女があまりに今更すぎる質問を子供達にしようと振り返ると、そこに子供達の姿はなかった。私にグレイラットとグラファニーのことを熱弁するあまり、子供達が着いてきてないことに気づいていなかったようだ。

 勿論私は気づいていたが、彼女の話を途中で止めさせたくないので黙っていた。ついでに言うと道も間違えている。


 彼女は慌てて数度左右を見回すと、安心したような顔で頷いた。


「うん、時間にはちゃんと宿に戻るし安心なの」

「いや安心じゃないですよね」


 初対面だというのに、思わず真顔で突っ込んでしまった。見たところ彼女が子供達を引き連れていたようだが、本当に放置していいのだろうか。


「生徒達はいい子なの。時間を守らない子はいないの!」

「本当にそうなら別にいいんですけどね」

「さ、化石を見るの!」


 彼女は私の右腕を引っ張り、早足で間違えた道を引き返すのであった。

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