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半年後

【元英雄】レイ=ミルロット


 シオンに出会い、彼の道場で住み込みで育成すること半年が経過した。今日の朝も、私はいつものように、借りている部屋から教室へと歩を進めている。


 彼はこの半年で見違えるほど成長した。年齢的に身体能力が上がったのもそうだが、私の目から見ても剣術、武術が形になってきた。

 持ち前の集中力で私の特訓に付いてきているのだから当然と言えば当然なのだが、その特訓に付いてこれることが素晴らしい。


 何故ならば私は特訓で文字通り死ぬ直前まで追い込んでいるからだ。全身の疲労が蓄積して、シオンが倒れるまで追い込んでいるのに弱音一つ吐かない。素晴らしいことだ。


 身体が壊れれば、人は自力で治す。自力で治せば、身体はより頑丈になる。何度も繰り返せば、治癒力も格段に上がる。治癒力が上がれば、より効率的に壊すことが出来る。そのサイクルを行えれば、人は強くなる。


 理論的には簡単なことだが、このサイクルを弱音一つ吐かずに繰り返せる人は滅多にいない。少なくとも私はシオンとグラファニー、その二人しか見たことがない。


「あっ師匠、おはようございます!」


 この半年で、シオンは随分と私に懐いた。ペットではなく人間なのだから、仲良くなったとか慕うようになったとかいう言葉を使うべきなのだろうが、どうにも懐いたという表現がしっくり来る懐きっぷりだ。


 教室では、毎朝シオンが機材を揃えて調理をしている。今は機材を揃え、下準備も終えたところのようで、ミリの用意した肉を火にかけようとしていた。


 この道場にもちゃんと調理場はあるのだが、私の食事量が多すぎて狭い調理場では調理に時間がかかってしまう。

 家を出てからよく身体を動かすようになったので、生半可な量では全く足りなくなってしまった。


 シオンが店の定食三人前食うとすると私はその50倍食う、150人前と少しだ。どうでもいいがミリは少食で半人前も食わない。


 私はシオンが調理している所から離れた位置にて、鉄骨で素振りする。そこらへんで拾った建造物に使われる鉄骨だ。少々大きいが、指を鍛えるのには最適なので重宝している。


 そんなことをしていると、肉の焼けた香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


「あれ、今日の肉って何?」


 香ばしい匂いには間違いないのだが、今まで食したことのある肉、そのどれでもない肉の匂いだった。


「今日は家を出て丁度半年ですから少し奮発しちゃいました」

「で、何の肉?」

「上級の牙猪ファングボアですね、グラム1000ギルしたんですよ?」

「………それ150人前?」


 チラリ、と積み重なっている肉を見やるが全て同じ種類の肉で、全て上級牙猪の肉のようだ。私の言う一人前は200グラム、計算すると30キロ。ギル換算で30万ギル、平民達の平均月収より少し高めだ。

 仮に自分達が貴族だとしても朝食に使うような金額ではないだろう。


「ちょっと魔物倒して来ようか?」


 三億年前と違い、古代龍等の規格外に強い魔物は存在しないがそれでも人を困らせる魔物はいる。勿論強いとされている魔物も少しはいる。私の相手ではなかったが、そいつを狩って、狩人ギルドという施設に売ればかなりの金になる。

 まぁ表舞台に出ず、人間社会に潜むと決めた以上これからあまり目立った動きはしたくないが、少しぐらいならいいだろう。


「いえ、気を使って頂かなくても大丈夫ですよ。ほんのお気持ちですから」

「気持ちが重すぎる」

「重すぎてこその私です」


 ミリは半年経とうと、相変わらず好意を言葉や態度で私に伝えてくる。もうとっくに分かっているのだから無駄だと伝えてもこの調子だ。ミリの言う通りそれでこそのミリらしいので、言い争うだけ無駄だとは思っている。

 私は微笑むミリを横目にしながら、シオンから焼けた肉を手で受け取る。


 一人前200グラムのステーキを千切らず口元へ近づけると、貪るよう一気に喰らいついた。

 家では親に叱られる為仕方なくナイフとフォークを使っていたが、長年山の中で生きてきた身としては、この食べ方が一番楽で美味しい。


「ん、この肉いいな。ちと脂はアレだけどスルリと入る」

「ちゃんと味わって食べるとか、してます?」

「ん、味か? まぁ味だけなら前世で食ってた肉の方が数倍美味いかな。まぁ食べやすさならこっちの方が断然上だけどね」

「あの、えっと。美味しいなら別にいいです」


 喜ぶリアクションでもするべきだったろうか。


「ま、それはそうとシオン。今日は外に出ましょう」

「………師匠とお出かけですか?」


 シオンは不思議そうに首を傾げて聞いてくる。聞き取れなかった訳ではなく、私とお出かけすること自体が不思議なようだ。


「い、いや。いつも師匠って一人で出かけるから、うん」

「あぁそういうことですか。最近は少し探し物をしていましてね」

「探し物?」

「そうです。それでつい最近、山賊のアジトを突き止めましてね。丁度いいので彼らで実践経験を積んでみましょうか」


 シオンはこの半年で、見違える程成長した。まだリコンやミリに敵うとは思えないが、それでもちょっと剣を齧った程度の大人ぐらいなら数人同時に相手出来る程の実力は身に付けている。

 そろそろ戦闘というものを経験してもいい。それに山賊はシオンが今後の身の振り方を考える上で、非常に参考になるだろう。


「………それ、国に教えた方がいいんじゃ」

「確かに普通なら盗賊なんか相手にしないんですけどね。シオンには丁度いい相手でしょう」

「いやそういう話じゃ………。まぁ、師匠だしね。今に始まったことじゃないか」


 何か言いたげなようだが、こういう時シオンは飲み込んでしまう。問い質したところで、答えようとはしない。


「食べ終わったら行きましょうか」

「はーい」


 何にせよ、今日はシオンが戦う楽しみを覚える日だ。


 そう考えればこの朝食も案外安いものだな、と思いながら焼き終えた150人前のステーキへ次々とがぶりつく。


 三十分程かけて朝食を平らげた私達は準備を整える。準備、と言っても日帰りの予定なので動きやすく、かつ汚れても大したことない服と剣一本だけだが。

 そういえば、シオンが本物の剣を握っているところを見たことがないな。道場で半年暮らしているが、金属製の剣は一切見かけていない。


 なんてことを考えていると、シオンが大人用の片手剣を抱えてやってきた。ただシオンは子供らしく背が伸びていないので、一見両手剣のように見える。


「ねぇ、本当に準備これだけでいいの?」

「少し離れた森まで行きますが所詮日帰りですからね。弁当も私の食事量を考えれば現地調達の方が合っているでしょうし」

「私も準備オーケーですよ~」

「じゃ、行こうか」


 私は二人と共に検問を通り、町の外まで出ると愛用の魔法【一角獣ユニコーン】を唱える。


 私が前に座りミリが真ん中、シオンがミリの背中に抱きつく。元々一人乗りの馬なのでうち二人は子供といえど少し窮屈だ。

 山を二つ越えた先の森へ向かって馬を走らせる。練習台の沢山いる、山賊のアジトへ向かって。

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