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無駄な時間

 何気ない会話を繰り広げながら兵士の街、ドゥラッタを歩き回る。


 流石に兵士を輩出している街、とだけありすれ違う人々の肉体が鍛え上げられているのが分かる。ただまぁ、多少なりとも鍛錬をサボっているな、というのが分かる未熟な肉体ばかりだが。


 それでも強さの平均値は太古の兵士達とは比べ物にならない。

 食生活、鍛錬方法など太古より研究が進んでおり、肉体そのものの鍛え上げられ方がそもそも違うからだろう。


 もしかすると、という気持ちで来たが、少しは期待出来そうだ。


「ん、ミリ。道場ってこういう雰囲気のところで合ってるの?」


 私は若干使い古された木の看板を指差してミリの顔を見上げる。看板にはクラッド流道場と書かれている。


「そうですね。で、どうするんですか?」

「無論乗り込みます」

「ですよね。困った際は私も加勢しますので」

「むしろ敵に回ってくれていいんだけどね」


 無意味な会話を交わしながら無駄に大きな木製の門を開く。

 すると道場の内部から汗臭い香りと共に蒸気漂う空気が襲い掛かってきた。中では大勢の男達が汗水流して素振りを繰り広げており、揃った怒声が鳴り響いてくる。


「お前ら、声量が足りんぞ!」

「セイッ! セイッ! セイッ!」

「右側、動きが緩慢だ! 風呂掃除させられたいのか!」

「セイッ!セイッ!セイッ!」


 外を闊歩している時点でこの街は中々人間にしては強い者で溢れていたが、この道場はさらにそれが目立つ。


「おい、門が開いているぞ! お前らは戸締りも出来ないのか!」


 私が開けたのだが、いかんせん男達に阻まれて向こう側で指導している人からは私が見えていないようだった。


「師匠! 女子おなごが道場に入り込んでいます!」

「それはいかん! お前らは素振りして待ってろ!」


 一瞬道場中の男達の視線が私に集まったが、師匠と呼ばれている男がそう命じると私に背を向け再び素振りを開始した。空間の中に、こんな違和感がいたら気になってしまうものだろうがこの統率力は素晴らしい。


「迷い込んだ女子というのはお前か」


 そうして私の前に立った師匠とやらは、筋肉隆々の肉体を誇る坊主頭の強面だった。


 男は私のことを睨みつけ、全身をくまなく見てくる。膝を曲げ、私へ視線を合わせ、目蓋の奥を覗き込んでくる。

 私の方へと右手を伸ばし、若干手汗が流れるその手を私の頭に乗せようとした。私は左腕で、その手を受け止める。


「何のつもり?」

「困ったな、私の手は嫌だったかい。君、親はどこに行ったのかな」


 そう言って強面から放たれる優しい筈の笑顔は少し不自然だった。


「良かったら飯でも食うか? 本当はダメなんだが、一番に食わせてあげるぞ」


 成る程、別に足を踏み入れられて苛立っている訳でなく、ただ一人の子供として優しく接しようとしているだけか。


「いや、迷子なんかじゃないよ。私はただ、ここの一番強い奴とやりに来ただけ。多分、あんたが一番強いんだよね?」


 ざっと周囲の気配を比べる限り、彼以外に突出して強い奴はいなさそうだった。ミリ程気配を隠すのが上手な奴もいるかなと期待したが、それはないようだ。

 なんせ気配がない気配も観測出来そうにないからだ。


「うむ。如何にも私が道場主、ガウロ・ドーナーだ!」


 怒声のような声で彼は名乗る。


「成る程、お前はこの私に挑みに来た、と」


 男は目を瞑り、身体をわなわなと小刻みに震わせる。私は現時点でもかなり強いつもりだが、見た目が子供だということは理解している。

 子供にそんなことを言われ怒っているのか、それとも嘲笑っているのだろうか。


 そんなつまらないことを考えながら反応を待っていると、男は突如腕を大きく広げ、涙を流しながら叫んだ。


「素晴らしいっ!」


 その反応はあまりにも意外すぎて、呆気に取られてしまう。


「年端もいかぬ少女が私に挑むなどあまりにも無謀! なんという蛮勇だろうか! しかし私は感動したっ! この地に乗り込んで尚その言葉を発する勇気に! 少女、私が怖いかっ!」


 ………なんというか、暑苦しい。


「よしっ! ブラク、彼女の相手をしろっ!」

「はっ!」


 やたら暑苦しい奴の命令で暑苦しそうな奴が出てきた。ただ呼ばれた彼は体が出来上がっていないところ、歩きからして動きが安定していないところを見るに、道場の下っ端に位置している人間だろう。


「よし! や───」


 けれど、私は弱い奴に対しては一切興味がない。


 私は地を蹴り、正面から彼を力押しする。


「弱い奴に興味はない、私が戦いたいのはあんただけだよ」

「………少女っ、失礼した! よもやこの私が外見に惑わされ力を見誤るなど何たる油断! 驕りっ! よろしいっ! この私が全力で叩き潰そう! おいっ! ラリー!」

「はっ!」


 道場主が新たな名前を叫ぶと、上半身裸のフンドシ男が大木の幹を削り取って作ったかのような無骨な棍棒だ。見るに大した細工もしていないようだが。………ハァ。

 なんだか先が読めたような気がして、途端に気力が失われた。


「少女っ! 準備はいいかっ!」

「あーうん」


 名前…… とにかく、道場主は全身、特に腕に力を込め、筋肉を膨張させる。人間だというのにここまで筋肉を鍛え上げたのは感心するところだろう、が。


 道場主は無骨な棍棒をただ振り下ろす。

 非常に単純で、雑魚を叩き潰すには最適な選択だ。古代龍などが好んで使っていた戦い方に似ている。


 私は振り下ろされた棍棒を難なくかわし、腰の鞘から剣を抜き、道場主の喉下に突きつける。


「でも、人間は古代龍になれないね」


 明らかな独り言ではあるが、人間の恵まれた四肢は何の為にあるのかと道場主に向け、呆れを込め、放った。


「───……参った」


 道場主は振り下ろした体制のまま俯いた。


 私は剣を鞘に納め、道場を後にする。


「お気に召しませんでしたか?」

「数億年後の世界だってことを痛感させられたよ」


 こうやって必死に人間に可能性を見出そうとしているが、古代龍がいないというのは非常に大きいものだな、と。

 一歩前進する為に踏み込んだというのに何歩も後退した気がする。


「さ、次いこっか」


 とは言ったものの、描く未来が少しおぼろげになっているのを感じて、深く溜め息を吐いた。

モンハンやってて投稿遅れてしまいました。

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