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強すぎた英雄、グレイラット

書き直し中です。

ストーリーの大まかな内容を変えるつもりはありませんが、読み返して結構読みづらいなとかあまりに唐突な変化だなとか思っていたので、自分でも読みやすくするために書き直しています。

0-1、とか付いてたら書き直し終わってる証です

 ───私がこの星に生まれ落ちて、八十年が経った。


 刻は深夜。人は愚か、生物の気配さえかすかにしか届かない高い高い崖の上。私は地べたに倒れこみ、空を見上げ、瞬く星達に向かい思いを馳せていた。

 今となっては叶うことのない情景を浮かべ、星の明かりに投影する。届かなかった願いのその姿は、鮮明に思い浮かべることが出来なかった。


 ───この世は退屈だ。


 それが八十年最強の名を冠しながら生き永らえてきた私の結論だった。

 最強。それは誰しもが求める甘美な響きだろう。僅かな知性さえ持っていれば、最強に惹かれないことはないだろう。おそらく私にも、御伽噺に出てくるような英雄に憧れていた時代があったのだろう。

 ………今更、そんな過去を見せられたとしても他人事としか思えないだろうが。


 そう、私は最強だ。この世の生物、人類は勿論、神を喰らうとも畏れられた白狼、神格に成り上がった古代龍。そんなものは寄せ付けない程強かった。


 そう、私は最強だ。全ての神様に愛され、常人が欲しがるような力を全て授けられた。人類最高峰の能力に比類なき才能を享受してきた。

 オマケに私は、努力をしないことが出来なかった。目指すべき憧れがなくなり、ライバルと呼べるような者は消え、私を追う者が見えなくなろうと、強さを追い求めることが私の幸福だったからだ。


 そう、私にとって強さを高めることは、幸せを感じられる唯一の行為だった。昔は別の行為でも得られたのだろうが、もう思い出せない。

 少なくとも英雄と呼ばれるようになってからはそれしかしていない。身体能力、魔力の保有量を鍛え、技術を磨き、学を積むばかりだった。起きている間で自身を鍛練しなかった時間はないだろう。


 確かにその時間は幸せだった。だが、たゆまぬ努力の結果見えた、最強のその向こう側。無限に広がる暗黒。虚無。

 何もないというのに、それは最強である私を嘲笑っていた。


 ───私は強くなりすぎた。


 かつて憧れた未来はない。


 親友どころが、仲間と呼べる者すらいない。


 敵も、私を追う者もいない。


 普通がない。魔法で若い子に擬態し身分を隠し、酷く手加減し、ちょっと我が侭な女の子を演じればそれらしいものは手に入るだろうが、それは普通ではない。

 私は人が望むであろう憧れを全て手にして生きてきたが、代わりに普通を失ってきた。


 贅沢、と非難されればそうなのだろう。いや、私の意見に反する者などいないか。


 普通が欲しい。手加減をせず斬り合えて、小さな意見の食い違いで喧嘩をして、気付いたらまた剣を交えているような友達が欲しい。

 齢八十になって言うのはみっともないが、普通を手にするまで死にたくなかった。


「………死にたくないねぇ」


 ポツリと口から欲望が漏れる。

 確かに、私は死にたくない。死にたくないのだが、同時にそういった空想の友達に対する諦めも感じていた。何故ならばそういった友達になれる為の最低条件として、私と同等に強い必要があるからだ。

 そんなやつはいない。いなかった。


 その後、何度も同じ思考を繰り返す。考えても虚しいことだけだというのに、この行為は日課になっていた。大体齢八十に突入してから二ヶ月、毎晩就寝前に繰り返していた。


「さて、今日はもう寝ますかね?」


 一通り思いを馳せてはお気に入りの寝床へ向かう。それが就寝前の一連の動きであった。

 崖から飛び立とうと足に力を込める為、私は立ち上がろうとした。


 その時だった。ここに繋がる、枯れ木が織り成す森の方面から生物の気配がした。


「珍しいね、来客かい?」


 珍しい、と咄嗟に呟いたが、実際は珍しいどころではない。

 まずこの枯れ木の森自体生物が近寄りたいような環境ではなく、加えて私に近づきたいと考えるような物好きは魔物にも人類にもいない。

 私を利用しようと考える馬鹿もいるが、そんな馬鹿を寄せ付けない為にここを選んで好んでいるのだが………


 生物の気配は古代龍の物だった。肉眼では姿を捉えきれていないが、生物の持つ魔力の流れ、色、質を見れば、どの種族か程度は分かる。

 古代龍にしては珍しく翼を使わず、四足でこちらへと接近しているようだった。


 やがて私と古代龍、両者が両方の姿を肉眼で捉える。


「久しいな、英雄グレイラットよ」

「あんたは確かグラファニーだったか。私に何の用だい?」


 懐かしい姿だった。グラファニーは私が最初に打ち負かした古代龍だ。あの時から既に古代龍など敵にもなりやしなかったが、圧倒的大差を見せ付けられてなお敵意が消えなかった古代龍だ。

 大抵の敵はひれ伏すか逃げ出すか泣き出すかのどれかなので、かなり印象的な古代龍だったと覚えている。


「………我と一戦、交えてはくれまいか?」


 グラファニーが放ったその言葉に、私は一瞬耳を疑った。

 なんせここ三十年挑むことも挑まれることもなかったからだ。私という存在に当てられて気が狂った魔物がやぶれかぶれと襲い掛かってくることは偶にあったが………。


 内心喜びたい気持ちを抑え、確かめるように不敵に微笑みかけた。


「へぇ、私とやりたいのかい?」

「そうだ。貴様に勝ちに来た」


 本当に私に挑みに来たようだ。しかも勝つと来たもんだ。妄言でさえ言われた記憶のない言葉だ。

 思わず笑みが零れてしまう。今すぐにでも切りかかってやりたい衝動に駆られるが、つまらない形で挑戦者を逃すなんてごめんだ。冷静に、彼の言葉を聞いてやらなければならない。


「いいよ、やってあげる。ルールは? どこで、いつやるんだい?」


 ふふ、抑えたい気持ちはあるのだが矢継ぎ早に問いかけてしまう。齢八十と老婆の体ではあるが、童心に返ったような気持ちだ。


「英雄殿がいいのであればここで始めるぞ。開始の合図はこの石が地面に落ちた時だ。お互いトドメを刺すのはなしだ」

「おっけ、やろうやろう!」

「うむ、ではその場で待っておけ。距離を取るぞ」


 グラファニーは転がっていた巨岩を手に取り、大きく二十六歩、人間である私からすればかなりの距離を取った。全速力を出せば直ぐだがそれでも五、六秒はかかる距離だ。

 古代龍からしても十分と言えるほど離れているのだが、遠距離主体で攻めてくるつもりだろうか。

 近づかれる前に古代龍の持ちうる火力で叩き潰そうという、ありきたりな戦法を取るつもりだろうか。確かに古代龍が小物を相手にする際の最適解はそれだろうが、彼は少し違う気がする。


「ゆくぞ」


 古代龍の右手から、巨岩が天へ放たれ、私達は空を見上げる。想像以上に高く放たれた巨岩。雲の流れから察するに、上空の風はそこそこ強いが、岩の落下地点をそこまで左右する程じゃないだろう。

 私は岩の弾道軌道を計算する。このまま突如強風が吹き荒れるようなことがなければ落下地点はおそらく───


 私の立っている、この地だ。丁度私の頭上目掛けて巨岩は落下するだろう。


 まさか、狙って投げたのではないのだろうか。グラファニーへ視線を戻すと、口から吐く炎を蓄積させているのが窺えた、間違いない。着弾と同時に炎を吐くだろう。


 隠す気の無い見え見えな攻撃。生憎、私に攻撃を全て受けきってやる趣味はない。そもそも最強の名を冠せているのも敵の行動を全て読みつくし、その上で全て捌き切れるこそだ。

 加えてこの戦いは手加減してやるつもりもない。


 一歩右に避けてやるだけなのだが、ここで私はとあることに気付いた。


 この戦い、まだ始まっていないのだ。

 確か、興奮状態の時…… まぁ今も興奮しているが、早く試合をしようとグラファニーを急かしている時に取り付けた約束は、『石が地面に落ちた時、試合開始』というものだった。

 その場で待て、とも釘を刺されている。


「フフフッ、中々狡猾じゃないか君ぃ?」


 不敵に微笑み、グラファニーを見据える。


 私が気付くかも分からない約束を取り付け、正確無比なコントロールで岩を投げつけてくる。例え気付いたとしても、そういう約束はしてないとの一点張りをするのであれば避けることは容易い。


 だが私は約束に縛られることを選び、岩が私に着弾するまで動かないことにした。理由は、単純に嬉しかったからだ。挑むに対し、発動するかも分からない小細工を弄してくることがだ。

 この古代龍、本気で勝ちに来ている。


 ───いいね、受けて立とうじゃないか。


 改めて油断は禁物だということを思い知らされた。


 私は頭上目掛けて落下する巨岩を見据え、腰から二本のエストックを引き抜く。あの岩を受け止めた瞬間が、試合開始の合図だ。

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