少年は悩んでいた
最近Simejiの調子が悪い。
とある日の朝。
ふっと目が覚めた。
枕元の目覚まし時計を見ると、朝の薄暗いフィルターの向こうに5:30の表示。
一家四人で川の字になって寝ている和室に、外の気配が押し寄せていた。
とはいえ、外はまだ暗い。
暖かくなって来てはいるが、まだ寒い季節である。
朝が来たと勘違いした鳥が、独り寂しく鳴いている。
隣で寝ている父を見た。
大音声でいびきを轟かせている。
そして得心する。
ねぼすけの僕がこんな時間に起きたのは、普段は単身赴任でいない父のいびきの所為だったのだ、と。
目が冴えてしまい、これ以上寝れるとは思えなかったので、のそのそと布団から這い出た。
水を飲んで、部屋の机に向かう。
もう受験生なのだ。
4月になれば高校生も最後の年。
一緒に遊んでいた友達が、大学のために受験勉強をし始めたので、まるで置いて行かれているような焦りを感じていた。
静かな静かな世界。
夜が開けるのを待つ世界。
この世界には、怠惰な人間は活動していないのだ。
そう考えると朝の空気が尊く思えた。
だからと言って、普段早起きかと言われると、否定せねばならないのだけれども。
机の上には、昨日やっていた数学の問題集とノートがそのままで広げてあった。
結局、問題を解けなくて、放置して寝てしまったのか。
昨日の夜を思い出し、問題に目を通したが、やはり解けなくてうんざりする。
受験生になれば、一年間も勉強に向き合わなければならない。
その果てしない未来に不安を抱いた。
秀才の友達がいることを思い出す。
あいつはあろう事か、数学の模試で満点を取ってしまった。
あいつならこの問題も分かるかもしれない。
助けを求めるLINEを送ろうとして、文面を打ったが、送信はせずにスマホを放った。
まだ勉強に本腰を入れられない、
自己嫌悪が嫌だったが。
カーテンを開けてみようと思った。
世界は着実に時計の針を進めていた。
起きた時より、空は明るくなっていた。
冷たい窓の向こうには、もう少しで朝日が昇るだろうという気配がする。
鳥の鳴き声が三つ、聞こえていた。
僕は、この時間が好きだ、と思う。
数学を脇にやり、英文法を開ける。
数学ほどの拒否反応は起こらない。
小さい頃に英会話教室に行っていたからだろうか。
あの英会話で習った内容は、学校で全く役に立たなかったが、英語に対する苦手意識を少なくするためだったのかもしれない、と考える。
ぼんやりと、集中しているのかしていないのかという状態を続けながら、英文法を解いていた時。
それは突然に、隣の家から実に突然に、訪れた。
「ぶあぁっくしょーーーいっっっ」
突然の出来事に、僕は驚き、笑いがこみ上げて来た。
沢山の人が花粉と戦う季節である。
そしてそれが自分も例外ではないことを思い出した。
同時に、鼻がむずむずする。
目がうずうずする。
もう駄目だ。思い出してしまった。
僕に現実を突き付けた隣人を恨みながら、僕も一発。
「っくちゅん」
次話も待っててくれたら嬉しい。