高家由良氏の滅亡⑥
由良貞臣は、失意のうちに撤退していた。なぜこうなったのか、分からなかった。最新の兵器を用意して準備もしたのに・・・。急いで由良領に戻り、体制を整えよう。こう貞臣は思った。しかし、部下がなにものかに襲われ、バタバタと倒れた。皆、毒矢に襲われている。貞臣の愛馬も倒れた。そして、目の前には、ある男が立っていた。袴安である。
「よう、貞臣。良い情報を教えてやろう。足利からの援軍は来ないぞ。」
「な、何?」
「それと、由良領の方角を見ろよ。」
振り向いてみると、轟々と煙が出ているのが見て取れた。
「うちらには火薬が大量にある。そいつを使って由良領を焼こうなんざ、造作もないないんだぜ。」
「く、くそ。」
「そして別働隊が由良領を攻撃している。もう明日には勝負が付いている。」
「・・・。」
「だからお前も死ね。」
由良貞臣はここに討ち死にしたのである。
翌日、すっかり灰となった由良領を岩松俊光は眺めていた。清々しい気持である。敵を打ち負かしたという気持ちでなく、高みに上るための障害が取り除かれたと思っていた。これからもっと高みを目指してやる。俊光はそう思っていた。
「殿。」
「袴安か。」
「由良貞臣の首級をお持ちいたしました。」
「ああ、いい、いい。こんなものを持ってこなくても。そこらへんに捨てておけ。」
「分かりました。」
「長尾の件は見事であった。そのお蔭で増兵を防げたからな。」
「いえいえ。こっちはしっかり残虐行為を見ているのです。少し脅してやればこっちのものですよ。」
「ふふふ。それはそうだ。」
「でも、殿は生かす気はありませんね。」
「当然だ。足利長尾など直ぐに滅ぼしてやる。そして上野の国も。」
「やはり譜代大名が多くてはやりづらいですか。」
「そうだ。これからますます忙しくなる。これからも頼むぞ、袴安。」
「承知。」
この俗にいう「渡良瀬川の戦い」は岩松氏躍進の大きな布石となったのだった。