英寇
1、英寇
「あの、若様。本当にこんな崖に大砲を置くのですか?」
岩松家家臣の岩田次郎は岩松俊光に質問した。
「当たり前だ。ここらにはイギリスの軍艦がわんさか来るんだ。旧式のポンド砲で蒸気機
を破壊するにはこうするしかないのさ。」
「しかし、いくらなんでも」
「お前は命令通り大砲を据えろ。責任は俺がとる。」
まだ若干17の若侍が責任を取ると言っても、磐田は心配だった。利信の子供の中でもかな
りの変わり者と言われた俊光のこと、失敗すれば自分の首が飛んでしまうと岩田は思った。
「ほら、来たぞ。見ろ。」
俊光の言う通り、3隻の蒸気軍艦が相模の近海に姿を現した。どの船も黒塗りで、破壊のある大砲を備えていた。
「ほ、本当だ。」
「敵は我々を見くびっている。必ず陸地近くを曳航する。その時に備えておけ。」
「は、はい!」
俊光の言う通りになった。軍艦は陸地近くを曳航している。明らかに日本の火器など恐れるに足らずと言った具合であった。
「若様、発射しますか?」
「よし、砲撃隊用意!3,2,1、撃て!」
こうして8門のカノン砲が火を噴いた。滑空砲のため、距離が延びない大砲であるが、敵との距離が近いため、確実に当たった。そして、弾は焼夷弾、爆破弾と破壊力の高い物を使用していた。確実に蒸気機関を破壊し、船を焼失させる作戦であった。岩松大砲隊の息の合った正確な射撃はイギリス軍艦に甚大な損害を与えていた。肉眼からも、敵の水兵が恐れおののき、火だるまになっていた。尉官も腰を抜かしていた。一隻が轟音を立てて火柱を上げた。蒸気機関が大爆発を起こしたのだった。こうして、一隻は完全に相模湾に沈んでいった。2隻目は火だるまになりながら戦線を離脱していった。3隻目は善戦していた。しかし、複雑に入り組んだ崖めがけて大砲を砲撃することは容易なことでは無かった。そして、とうとう、相手の船が白旗を揚げた。しかし、兵たちは降伏を受け入れるか意見が割れた。イギリスは捕虜に酷い仕打ちをしていたからだ。しかし、俊光は一貫して捕虜の保護を命令した。そして俊光はオランダ語で対話を試み、なんと会食まで開いたしまった。参勤交代の宿場管理をしていた岩松家には、大友氏を通じて多くの西洋文化の情報が入っていたのである。そして茶会が行われた。
「では、イギリス政府としては日本のイギリス船に対する過激な打ち払いに憤怒しているものの、末端の兵士は皆どうでも良いと思っているわけですね。」
俊光はイギリス軍艦アーガス号の艦長にこう質問した。
「ええ。イギリスはアジアの植民地を立て続けに失っています。ですので強力な同盟関係をアジアで結び、少しでもアジアの富を得たいのです。日本側も少しでも態度を軟化したら、イギリスは良き友好国となりますでしょう。
「そうでしたか。いや、良い話が聞けました。ささ、日本産の茶とカステラを召し上がってください。」
この話が若き俊光がずっと抱く外交思考を決定付けた。
前に僕が書いた雲をつかむ者たちの前日談?のようなものです。
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