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人魚の檻  作者: 青杜 六九
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人魚の檻 5

ロディス大学のある研究員の話

人魚についての聞き取り調査


7 人魚との別れについて


彼がいなくなったのは、ロディスの町に行った後でした。いえ、町ではぐれたのではありません。一度研究所には戻ったのですよ。自分からいなくなったのは、彼は私と暮らすことに飽きてしまったからだと思います。私は彼を自分の庇護下に置くことで、優越感を得ていたのかもしれません。愚かにも、この美しい人魚を私のものだと錯覚していたのです。


彼は初めから誰のものでもなかったのですね。勿論私の所有物でも。それなのに私は、彼をウェム島という檻に閉じ込めてしまった。いつまでも彼を独占していたかったのです。

――彼は海を恋しく思っていたのに。


その日、ロディスの港には大きな貨物船が到着して、荷物を運搬する馬車がせわしなく行き来していました。私は彼が馬に驚かないかと心配でしたが、馬は見たことがあったようです。あれくらい大きな船は見たことがなかったのか、彼は貨物船をじっと見ていました。

貨物船の名前ですか?覚えていません。港に記録があると思いますよ。……ああ、そうそう、グランディアから来た船でした。船主の娘が王子の妃になったとかで、あちこちにお祝いの装飾がされていましたから。


彼が頭を抱えて痛そうにしていたので、早く休ませてあげたいと思い、私の部屋に転移魔法で戻りました。それまでも何度か頭痛に悩まされていましたので。私が食材を棚に入れている間に、彼はローブから自分の服に着替えていました。そして、海から連れてきた日のように、分からない言葉で私に訴えました。服を指さして何か言っているのです。服は繕ってありますし、完全ではありませんが汚れも殆ど目立ちません。私が言葉を理解しないことに絶望したのか、彼は肩を落として椅子に座りました。部屋には椅子は一つです。机の前にあるそれですよ。


やがて彼は、悔しそうに机を叩きました。青緑色の瞳から悔し涙が流れていました。人魚は泣いても美しいのですね。私は彼の涙が真珠になるのではないかと思いました。何度か机を叩いた時、彼は泣くのを止め目を見開き、責めるような視線で私を見ました。何か彼を怒らせることをしたのかですって?いいえ、私には覚えがありません。


一緒にいても彼を怒らせるだけなので、私は部屋を出ました。研究所で本を読んでおりましたら、部屋から魔法の気配を感じたのです。私は魔法陣が誤作動したと思いました。町から本が届く予定はありません。こちらから何かを送る予定も。


部屋に入ると、そこに彼の姿はありませんでした。

椅子は彼が座っていた時のまま引かれており、机の引き出しが開けられていました。何かなくなっていたか、ですか?私の物はそのままありました。ええ、書きかけの手紙もそのままです。


唯一なくなっていた水色の髪飾りは、元々彼のものでしたから。


番外編完結です。

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