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人魚の檻  作者: 青杜 六九
4/5

人魚の檻 4

ロディス大学のある研究員の話

人魚についての聞き取り調査


6 ウェム島における海賊襲撃事件について


ロディスに買い物に行った日から一週間が経ちました。食事を二人分作っていたので、保存食も含めて食材が何もなくなってしまいました。町へ買いに行かねばなりません。私は彼を置いて行くか連れて行くか悩みました。彼の美しさは人目を引きます。魔導士ローブを着た私が、容姿の全く似ていない子供を連れて歩けば、町の自警団に誘拐かと怪しまれます。私が捕まった後で彼は見世物小屋にでも売られてしまうに違いありません。


できるだけ危険は回避したいと思い、私は彼を研究室に置き去りにして、転移魔法で町へ出ました。港には海賊船が停留していて、軍服を着た人が出入りしています。海賊を捕まえてきたようです。この港町はしばしば海賊の被害にあっていて、彼らが海軍に捕まる度に町はお祝いの雰囲気に包まれます。買う物の数が急に増えても、「お祝いだから」で納得されてしまうので、いきつけの店でも私は何も訊かれませんでした。


食料品店を出ると、軍人達の動きが急に慌しくなっていました。何かあったようです。すれ違いざまに「ウェムの……」という声が聞こえ、私は研究所に残してきた人魚の彼が心配になりました。すぐに裏通りから転移魔法で家に向かいます。買ってきた食料をそのまま部屋に置き、私は研究所へ急ぎました。


研究所の扉は開け放たれていました。人魚の姿は何処にもありません。床には湿った土が散らばり、彼のものではない大きな足跡が幾つもついていました。誰かがここへ入ったのです。私は浜辺への道を駆け下りました。研究所に来るには一つしかない砂浜に船を着けるしか方法がありません。誰かに連れ去られたなら、浜辺にも何か手がかりがあると思ったのです。


案の定、砂浜から少し離れたところに海賊船がありました。水深が浅く砂浜のすぐ近くには停泊できなかったのでしょう。見ると海賊達が小舟で島を出ようとしているところでした。日に焼けた男達の中に、金髪と白い顔がちらりと見え、私は彼だと確信しました。彼は腕を縛られているようでしたが、どうにかして舟から逃げようと暴れ、海賊の一人に殴られ、舟の中に倒れてしまいました。


私は波打ち際まで駆け寄ると、海賊達に向かって水魔法を放ちました。顔の周りが急に海水に包まれて混乱し、海賊達は次々と海に落ちていきました。魔法は海に落ちても解けません。溺れてしまったのか、浮かんできた者はいませんでした。


海賊を殺したことに罪悪感を覚えながら、私は人魚が乗った小舟を水魔法で手繰り寄せます。彼は舟の底に頭をぶつけたようで、頭からも殴られて切れた唇からも血が出ていました。すぐに治癒魔法をかけ、砂浜から魔法陣で研究所まで運びました。


襲撃があってから半時して、研究所に海軍の方たちが訪ねて来られました。人魚の彼と私の関係を訊かれましたので、ローブ姿だったこともあり、弟子だと言っておきました。はい、勿論嘘です。彼は魔法に慣れていませんでしたし、私も教えたことはありません。海賊に殴られた時の怪我は魔法で治っていたのですが、事件の後から彼は変わってしまったように思います。海を眺めることもなくなり、グランディア語辞典を見ることもしなくなりました。相変わらず私とは言葉が通じませんでしたが、以前のように警戒されることもなく、二人で生活していく上でさほど問題はなかったのです。


事件の後で変わったことと言えば、もう一つありました。食材の買い出しに彼を町まで連れて行くことにしたのです。また私がいない間に海賊が島に来ないとも限りません。私の魔導士ローブを着せて、フードを深く被らせました。彼の蜂蜜色の金の髪は、黒髪が多いロディスの町では目立ちますからね。



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