忘れられたひとたちの村
初の短編です。稚拙ですがお楽しみください。
この村は変わっている。ボクがそう思い始めたのはこの村に来てから三日程経った頃だった。
高校二年の夏、ボクは長い夏休みを旅行に費やすことにした。元々、知らない場所に行って探検をするのが大好きだった。
今回もいつものようにとある田舎の山を散策していたのだが、足を踏み外して山の斜面を転がり落ちてしまい、しばらく気を失ってしまっていた。そしてそこを通りがかった人に助けてもらい、近くにあるというその人の住む村にやっかいになることになったのだ。とりあえず、斜面を転がった時に挫いてしまった足が治るまでその村にお世話になることになった。
この村の人達はとても優しくて、やっかい者でしかないはずのボクにもとてもよくしてくれたが、みんなそろって頭にヘアバンドやバンダナをしていた。一体何故そんなものを身に着けているのか聞いてみたが、みんな曖昧に笑うだけだった。
それから数日が経つ頃には村の人達ともよく話をしていた。村の人たちは誰もが話し好きで、特に自分の昔の話をよく聞かせてくれた。
ある男性はこんな話をしてくれた。
「ボクたちは元々、みんな違う場所に住んでいたんだけどね。この村にはそれぞれの理由で来たのさ。ボクの場合はね、昔、親友がある悩みを抱えていたんだ。彼は住んでいた村の人たちと仲良くなりたがっていたんだが、彼の方が仲良くしようとしても村の人たちは彼と上手く接することができなくてね。ボクは彼と村の人たちが仲良くできるように橋渡しをしたのさ。
けど元々ボクはその村の人たちとあまり関わっていなかったから、彼が村の人と仲良くしているのはボクには少し居づらくてね。それで彼が村の人たちと仲良くしているのを見届けてからその村を出て今のこの村にやってきたのさ。
この村はそんな風にそれぞれの事情で自分の住んでいた処から出てきたひとたちが集まってできた村なんだよ」
そしてまた、別の男性とはこんな会話をした。
「俺は、というより俺たちは、と言うべきだな。とにかく俺を含めた何人かなんだが、俺たちは昔ある島で暮らしてたんだ。たいしたモンがある場所でもなかったが、近くの村から畑で採れた野菜やら米やらを分けてもらってな。代わりに俺たちは海のきれいな貝殻やら自分たちでためてた金やらなんやらを村にやってたわけだ。
けどある日、その村のやつらしい見知らぬ小僧が乗り込んできてな、俺らがいろんな村から金目の物盗んでるとか訳の解らねえことぬかしやがって俺らは島を追われたわけよ。んで、行く当てもなくブラブラしてたらここにたどり着いてそのまま居ついちまったってえワケだ。ま、あの時よりゃここの方が居心地いいから今は何とも思わねえがな。
おっと、他所から来るやつなんざ今時滅多にいねえから、つい話し込んじまったな。足、早くよくなるといいな」
そんな風に村の人たちと楽しい時間を過ごしていき、足も完全に治ったボクは村を後にすることにした。みんな話し相手がいなくなるのが寂しいと言っていたが最後は笑顔で見送ってくれた。
そして最初にボクを助けてくれた人にボクが落ちた斜面の上まで案内してもらった。その人にお礼を言って帰ろうとした時、その人は少し真剣な表情でボクにこう言った。
「いいかい、この村のことは他の人に言ってはいけないよ。こんな村だからね。みんな、なんだかんだ言ってもあまりさわがれずに静かに過ごしたいんだ。その方が性に合っているってことだよ」
そう言って村に帰っていった彼のヘアバンドが、何故か印象に残った。
そんな村のことも忘れかけていたある日、ボクは地元の図書館で宿題の為の調べ物をしていた。そして児童向けのコーナーで子ども達が読んでいた絵本を見て、ふと最初に助けてもらったときの出来事を思い出した。
「そこの崖から落っこちたみたいだな。なに、足を挫いたのか。それは災難だったな。よし、私の住んでいる村が近くにあるからそこで足が治るまで面倒をみよう。なあに困った時はお互い様さ。
そういや昼がまだだったな。ん? お前さんもかい? ならちょうどいい、ここで一緒に昼にしよう。へえ、お互いに昼はおむすびかい。ん? おむすびじゃなくておにぎりだって? いやいやこれはおむすびだよ。よし、じゃあお互いに交換しよう。私はこっちのでかいのをあげよう」
彼はおにぎりではなく、おむすびと言った。いや、おにぎりとは言わなかった。そして村の人たちはみんな頭にヘアバンドやバンダナをしていた。まるで何かを隠しているかのように。
子どもが読んでいた絵本のタイトルは「泣いた赤鬼」、それと「桃太郎」だった。
旅、いいですよね。私は京都に行きたいです。