現代ハーレム概論
これを読んでいる君は男だろうか女だろうか。もし男なら、ほとんどの人が女の子が好きだと思う。多数の女の子から告白されたら天にも昇る思いなんじゃないかな。
そんな気分を簡単に味わえるのがハーレムものだ。「小説家になろう」とかいうサイトでは実に人気らしいね。ちょっと調べてみたら一万二千とかそのぐらいの作品があったよ。
そんなわけだから、今回はハーレムについてよく考えてみたいと思う。
そもそもハーレムというのはアラビア語で、「禁じられた場所」という意味だ。
イスラム教の貞操観念が異常に強いのは有名な話だよね。男性に素顔を見せるのがはしたないからヴェールを被る、なんて他の宗教では理解に苦しむレベルなんじゃないかな。
本来のハーレムもヴェールと同じようなもので、来客があったときに女性が引きこもるための部屋のことらしい。プライベートでデリケートな場所だから、夫もここにはよっぽどのことがなければ立ち入り禁止だよ。
これを保護ととるか幽閉ととるかは君次第だけど、少なくとも女性のための制度だったわけだ。
でも、理想と現実にはギャップが生まれるものだ。ハーレムにおいては「金持ちじゃないとそれ用の部屋を用意できない」ってのがこれ。まあ、女性としても玉の輿だと都合が良いのは間違いない。女一人で暮らしていけるような時代ではなかったわけだし。
とはいえ、傍から見れば「男が女囲ってる」の意味なんて官能的なものにしか思えないわけで、イスラム世界との交流が始まったヨーロッパでハーレムはしばらくの間そういう扱いを受け続けることになる。
女性のための制度が男の欲望に変わってしまったんだ。伝言ゲームって怖いね。
同じような理由で「一雄多雌の集団」を表す生物学用語としても使われるよ。日本でハーレムって言えば大体これのことだね。
僕が思うに、一雄多雌の集団には三つのアプローチがある。仮にエ□ゲ、ラノベ、なろうとしよう。
エ□ゲ的なアプローチでは、主人公が明確な意志を持ってヒロインとの関係を持とうとする。好感度ゼロの状態から始まって、それを攻略していくことがアイデンティティなんだから必然的にこうなるしかない。
ラノベ的なアプローチでは、主人公が好むか好まざるかに関わらずヒロインと関係を持たなくてはならない。詳細はなろうと合わせて後述するね。
なろう的なアプローチでは、正直ヒロインは要らないけどとりあえず出しておく感じ。
ここではエ□ゲに限らず主人公が女の子好きならエ□ゲ的って呼ばせてもらうよ。後の二つも同じく、媒体や形式は関係ない。
ラノベとなろう小説は同じような層が書いて同じような層が読んでる同じような媒体って思ってる人が多そうだけど、いくつか違いがある。
形式上の違いで最も注目すべきは、イラストの有無だ。
ラノベでは必ずと言っていいほど絵が挿入されるし、表紙に描かれたヒロインのイラストを見てジャケ買いする文化もある。一方でなろうではイラストなんて滅多に付かないし、作品を選ぶ基準はタイトルとあらすじとキーワードだ。
ラノベ読者にはヒロインありきで買ってる層がある。でもなろうにはそんなものほとんど居ない。ハーレムに対してのアプローチに違いが現れるのも当然だね。
今度は内容を見てみよう。一番の違いは、能力のタイプなんじゃないかと思う。
ラノベ主人公は異端の力の持ち主であることが多く、世界中の誰にも出来ないことが出来るけど世界中のほとんどの人が出来るような簡単なことが出来なかったりする。
なろう主人公はチート能力の持ち主であることが多く、世界中の誰かのできることの延長線上にあることや世界中の誰にでも出来るけど誰もやらなかったことをやる。
ラノベ主人公は周りの補助を受けないと真価を発揮できないのに対して、なろう主人公は独りでも歴史に名を残せるわけだ。
ラノベ読者はヒロインに興味があるし登場キャラクターを数多く必要としている。
なろう読者はヒロインに興味がないし主人公が居れば十分だと思っている。
この違いがすなわちハーレムへのアプローチの違いに繋がるんだ。
ラノベ的なアプローチでは女の子と関わるシチュエーションがまずあって、そこからヒロインとしての魅力を引き出すことを何人も繰り返す。受動的なだけで、本質はエ□ゲと変わらない。
なろう的なアプローチでは女の子はそこに居るものだ。主人公があまりにも凄い活躍をするものだから、勝手に寄ってきたのだろう。権力を示すための前時代的なハーレムに近いものがあるね。
これで一通り終わったかな。
総括すると、本当に女の子と付き合いたい「だけ」ならハーレムという言葉に騙されてなろうに染まるな、ってところだね。自尊心を満たしたいなら話は別だけど。
僕はSSを探していてなろうに迷い込んだクチだけど、「SS ○○」みたいにキャラ属性を併記してググるとなろうが二番目ぐらいに出てくるのは頼むから止めてくれって思うよ。ホントに。
為になったと思ってくれたなら、その気持ちを評価ポイントとしてではなく感想にしてくれると嬉しい。