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お狐道中膝栗毛  作者: 菊池 徳野
1/1

旅は道連れ、人生は?

導入と伏線張る回です。

異世界転移や異世界の説明は次回以降ですね。

説明は二話に収めたいところ。

『妖』

それは幽世に住まう異形の者達

人より優れた力を持ち、されども人に優らぬ者達

彼らの姿は人知れず、しかして人が創りし貌を持つ


これは現世で見られぬ者達の、一人の鬼の物語――――




阿熊城が落ちる

戦の喧騒が此処にまで届いているのは、つまりそういうことなのだろう。

若様は無事に逃げられたであろうか、馬鹿な息子は未だに外で槍を振るっておるのだろうか、殿より任されたこの地を護り通せなかった事だけが心残りだ。


「城が落ちるな」


剣戟の音がすぐそこまでやって来ているのを感じる。

血が滾る、戦場に命を賭せと鬼の血が。槍を振るえと老いた体をあの頃へと若返らせる。

思えば戦場に身を投じ続けた一生であった。妻を娶ってからは後進の育成に熱を上げ、そして時たま異民族の討伐に出向いては妻を心配させ、その都度どやされた。

ゆっくりと腰を上げて獲物を構える。襖の向こうにいる敵を討たんと心が逸る。


「すまんな、初」


こちらを見据える双眸を見て、どやされても構わんと思ってしもうたんじゃ。

良き目をした若者だ。きっと強くなるだろう、その目に迷いが見られるのがちと惜しいが上に立つ者になるなら悪くない。


「南鬼、和泉家頭領 和泉 義久」

「東鬼、向井家戦頭筆頭 向井 錬次」


ようやくお前に会いに行ける。長く待たせた分土産話も多くなる。

儂は今、此処をを死に場所と決めたのだ。




「取り敢えず阿熊城が落ちるまで読んだ感想を言わせてもらおうか」


いつになく殺意に満ちた日光を照射してくる真夏の太陽から逃れるように入った行きつけの喫茶店でいつもの推敲が行われる。


「ねぇ、このおじいさんの描写って必要?」


カラカラという氷のたてる音が聴覚に涼しさを提供してくれている。それだけで500円というアホみたいな値段を出してアイスコーヒーを頼んだ意味も出るというものである。


「あとね、全体的に話が間延びしてて飽きがくるし、何より主人公の立てる作戦が下衆くないかい?

ほかにも…」


テーブルの冷たさを頬に押し付けるように堪能しながら頭上からから聞こえてくる辛口な評価を聞き流していく。


「それと最初にあった「幽世(ゆうせい)」って何なのさ?文脈からだいたいの意味はわかるけど…」

幽世(かくりよ)だよ、死後の世界とも妖が生きる世界とも言われる現世の影になる世界の事」


大まかなお小言が終わったのを確認して冷たいテーブルと今暫しの別れを惜しみながらゆっくり体を起こす。


「それと主人公が下衆い訳じゃなくて策を用いた戦ってのは大抵こうなるんだよ

三國志の劉備のこと思えば正々堂々としてるだろう?義には背かず恩に報い裏切りはしない」

「それはそうだけどさ」


恩を仇で返し、悪口を根にもち、臣下を我が儘で犬死にさせる。時代や宗教も有っただろうが、かなり下衆い事をやって来た史実の人物に比べれば可愛いものであると思うのだ僕は。


「下衆いって偽報に人質と間者と内応を取り付けただけだろう?そんなのざらにある話じゃないか」

「いや、若い世代をターゲットにするにはやり方が汚いというか具体的すぎるというかね

まぁ君がいいならいいんだけどさ」


苦笑いを浮かべる幼なじみに何か釈然としないものを感じながらもいつもの事と割りきって飲み物に口をつける。


僕の名前は原 雄次郎。つい最近初出版が決まり作家の仲間入りを果たしたひよっこである。小さな頃から将来の夢が物書き関連だった事もあり、その夢が捨てきれず仕事の合間を縫って話を書いては寄稿すると言うのを繰り返して、遂にここまで漕ぎ着けたのである。


目の前で思案顔で渡した原稿に再び視線を落としている彼女は加藤 美嘉。僕の幼なじみで一番の理解者で、いつまでオネショしていたかを互いに知っている程には腐れ縁な相手である。少し男前で、基本的に蓮葉な性格をしている彼女は作品の批評をする上ではかなり有難い存在である。

僕がお話を書いて美嘉が読んで感想を述べる。たったそれだけの事だが出会ってからずっと続いているのはある意味で奇跡的なのかも知れない。


「それで、どうしたんだよ」

「なにが」

「急に呼びつけた理由だよ」


そう本題を切り出す。美嘉にはいつも推敲作業を手伝ってもらっているのだが、今日は呼び出し方が少し変わっていたので聞き出そうという腹積もりなのだ。


「『明日暇だろう?11時にいつもの喫茶店で待ってるから書き上がってる分の原稿持ってきてよ。答えは聞いてないから』じゃねぇよ

夜中に連絡入れてきやがって、印刷するだけでもかなりの手間なんだからな」


一巻用に書いた原稿と設定資料にプロット、最小限の印刷とはいえコピー用紙500枚では足りないのだ。当然書き上げている最中の物は仕上げてきたし、睡眠不足でこちとらフラフラなのだ。


「それは悪かったよ、でもその内刷ってたんだからいいじゃないか

原稿の進み具合からしてちょっと予定が早まっただけだろう?」

「それはいいんだよ、俺が言いたいのはどうしていきなり呼ばれてしかも理由を言わないのかってこと」


美嘉が息をのむのが見える。また何か隠し事してるな、こいつ。

さて、どうやって吐かせるべきか。紳士的に根気強く待つか探偵よろしくさっさと聞き出すか...、探偵コースにしよう、眠いし。


「いやね、突然原稿のことが気になってさ、今日は一日暇してたし...」

「幼馴染と会うだけでそんな完璧にメイクしてくる暇なやつがいるなら見てみたいもんだな

どうせ夜にでも用事があるんだろ?それの相談か?」

「いつにも増して意地悪だね、君は」

「正直眠い、だから相談に乗るのにまともな思考で対応するために急かしてる

ほれ、さっさと喋れ」


自分でも少し冷たい言い方だとは思うけれど、時間もなさそうなので諦めてもらう。美嘉のようなため込むタイプは他人が無理やり吐かせた方がいいのだ。

苦笑いとも泣きそうともとれる表情を浮かべた美嘉は、呟くように話し始めた。


「実はさ...」



ぽちぽちと原稿の続きを打つ。時間は夜の十時を回った頃だろうか。今日は時間が気にかかる。

眠気はないが原稿に集中するにはそろそろ集中力が切れてきた。だからといって何か他にすることもない。そんな時は絵を描くに限る。

棚に置いてあるスケッチブックを手に取り開く。キャラの設定画とシーンの構図が時系列バラバラに描いてある。今日は何を描くべきか。

顔から描き始めて二頭身のデフォルメ絵を描いていく。


どさり、とベッドに倒れこむようにして体を横たえる。満足のいく絵が描けた頃には日が変わる手前になっており、眠気も襲ってきていた。明日もやることがある。

夢見が悪くても忘れるだろうし、明日の事を思えばさっさと寝るに限る。

眠りに落ちる直前に昼間に有った美嘉との事が頭をよぎる。考えなくても、明日は答えを出すのに。


『実はさ、私、結婚するかもしれなくて...』


なんか、やだなぁ。

今月中には続きを上げます。

修正はそのうちまとめてやります。

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