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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第4章 邪竜の洞窟編
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第80話 駆け引き

 いや、待て。本当にそれが最善の手か? 今の僕はイエグとの戦いで頭に血が昇って思考が短絡的になっている。まずは冷静になれ。


 相手は七星天使のリーダー。今までの七星天使と同じように考えては駄目だ。仮に呪文を使ったとしても、100%セレナを人質から解放できるとは限らない。そんな賭けでセレナの命を危険に晒すわけにはいかない。


 まず、セアルの狙いは何だ? 僕の魂か? だが今の奴からは僕と戦う意志も、僕の魂を奪う意志も感じられない。奴にとっては人質を捕った今が絶好のチャンスのはずだ。それともセレナを人質にしたのは何か別の目的があるのか……?


 そういえばセアルは先程「深刻な人材不足」と言っていた。そして最初には「ワシが求めていた人材」という発言もあった。この二つから導き出される奴の狙いは――



「……まさかお前、僕を仲間に引き入れようとしているのか?」

「ご名答。お前にはワシらと同じ、七星天使になってもらいたい」



 僕を七星天使に……!?



「現在ワシらは人間の魂を集めておるんじゃが、その人員が圧倒的に足りてなくてな。先日七星天使の一人が欠けたということもあって、新たな七星天使を擁立しようと考えていたところなんじゃ」



 一人が欠けた……? ああ、ウリエルのことか。手にかけた張本人が目の前にいるとは夢にも思っていないだろう。



「しかしそれは誰でもいいというわけではなく、それ相応の実力を伴っていなければならない。イエグを圧倒したお前なら七星天使に匹敵する、いやそれ以上の力がある。まさしくワシが求めていた人材じゃ」



 まさか覇王である僕を七星天使に勧誘してくるとはな。僕の口角が僅かに上がる。


 だが、これは利用できる。もちろん七星天使などになるつもりはないが、セアルは完全に僕を人間だと思い込んでいる。これを利用しない手はない。


 イエグによって『狂魔の手鏡』を破壊された今、サーシャとの「『狂魔の手鏡』を入手した暁に地上と天空を繋ぐゲートの場所を教えてもらう」という交渉は決裂したことになる。つまり今の僕に天使達の領域である『天空の聖域』に向かう手段はない。


 しかしここで僕がセアルの勧誘に応じれば、こいつは必然的に僕を『天空の聖域』に連れて行くことになるだろう。そうすればゲートの場所を知ることができるのと同時に、上手くいけば奪われた魂を取り戻すことができるかもしれない……!!



「さて、どうする? 七星天使になれば莫大な富と権力が約束されておる。お前にとっても悪い話ではないはずだ」

「……人質を捕られた状態で言われたんじゃ、選択肢を与えられている気がしないな」

「ふっ、確かにな。だが先程も言ったように、今は手段を選んでる場合ではないんじゃ」



 だがここであっさり承諾すると逆に怪しまれる可能性がある。ここは返事を濁しつつも好意的な態度を見せ、僕を『天空の聖域』に連れて行くよう誘導するしかない。



「莫大な富と権力、か。魅力的な話だとは思うが、いきなり人間から七星天使になれと言われても抵抗があるというのが正直な答えだ」

「ま、それはそうじゃろうな」

「だからひとまず返事は保留にさせてくれ。なんせ僕の今後の人生を大きく左右することだ、すぐに結論は出せない。できればお前達が住んでいる所をこの目で直接見て、色々考えた上で結論を出したい。生憎僕は天使のことを何も知らないからな」



 これが人質を捕られた僕に言えるギリギリのライン。「七星天使になるのと引き替えにセレナを解放しろ」と要求する手も考えたが、それだと「七星天使になる」というのがセレナを解放する為の建前だと受け取られる怖れがある。



「ユート……何を言って……!?」



 僕はセレナに目配せをする。僕に何か考えがあることを察したのか、セレナは口を閉じて小さく頷いた。


 セアルは僕の真意を探ろうとしているのか、静かに僕の目を見つめてくる。さあ、どう出るセアル。



「……確かに、お前の言うことはもっともじゃ。よかろう、まずはお前を『天空の聖域』に連れて行ってやる」



 よし、誘導に成功した。敵との駆け引きにおける最大の武器は呪文でもステータスでもなく〝言葉〟だということを改めて思い知った。こればっかりは覇王だろうと人間だろうと関係ない。



「その代わり連れて行くのはこの女もだ。いいな?」

「……分かった」



 セアルが親指でセレナを指し、僕は了承した。僕に妙な真似をさせない為の抑止というわけか。この場は応じるしかない。



「それではまずはここを出るとしよう」



 僕、セレナ、セアルの三人は、セアルの【瞬間移動】によって『邪竜の洞窟』から脱出した。




 気が付くと、僕は草木が生い茂る山の中にいた。数メートル前にはセアルがセレナを肩に担いで立っている。



「……どこだここは?」

「人間領の北方面にある山の中じゃ」

「どうしてこんな所に……。『天空の聖域』に連れて行くんじゃないのか?」

「地上と天空は【瞬間移動】で行き来することはできん。ここから『天空の聖域』へ行くには〝ゲート〟を介する必要がある」



 もちろん【瞬間移動】で行き来できないことは僕も知っていたが、ここは知らない振りをしておくのが自然だろう。



「で、そのゲートとやらはどこにある? 見たところ草木ばかりじゃないか」

「そう急かすな。呪文【認識遮断】を解除!」



 すると突如として僕達の目の前に、半径二メートルほどの黒い渦が出現した。ジッと見ているだけで吸い込まれそうな感覚に襲われてしまう。



「これが……ゲート……!?」

「そうじゃ。普段はワシの【認識遮断】によって外部から視認できないようにしている。ゲートの存在を人間や悪魔に知られたら面倒なことになるからな」



 やはり対策は施してあったか。どうりで覇王軍の悪魔達に捜索させても見つからないわけだ。だがこれで僕達はいつでもこのゲートを使って『天空の聖域』に攻め入ることができる。あとは奪われた人々の魂を取り戻すだけだ。



「さて。『天空の聖域』に向かう前に、念の為ガブリに連絡しておくか」

「!」



 七星天使の一人、ガブリ。分身はこの前僕が消滅させたが、本体は依然として人間の魂を狩り続けているに違いない。



「……まったく、相変わらず困った奴じゃ」



 ガブリとの念話を終えたセアルが溜息交じりに言う。どうやらガブリの素行の悪さにはセアルも手を焼いているようだ。



「待たせたな。それでは行くとしよう、『天空の聖域』へ」



 セアルはセレナを担いだままゲートの中に飛び込み、僕も後に続く。こうして僕は大義を果たすべく『天空の聖域』へ向かったのであった。

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