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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第4章 邪竜の洞窟編
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第76話 セアルの脅威

「ほう。『狂魔の手鏡』もなしにワシを殺せると思っているとは、ワシも見くびられたものじゃな」

「落ち着いてアスタ。今の状態でまともに戦って勝てる相手じゃない。ここは退くことを最優先で考えるべき」



 戦う意志を見せるアスタを、スーが妥当な意見で宥めようとする。



「スー、悪いがそいつは聞けねえ。さっき言っただろ、オレは七星天使と遭遇したら迷わず戦うってな。復讐の相手を目の前にして逃亡するなんざオレのプライドが許さねえ」



 ドラゴンとの戦いでアスタはHPもMPもほとんど残っておらず、頼みの綱だった『狂魔の手鏡』もない。それでもアスタの意志は変わらなかった。



「いいじゃろう。ちょうどワシも人材の発掘に力を入れようと思っていたところじゃ。お前達の実力がどれほどのものか、このワシが直々に見定めてやろう」

「人材の発掘……? 何を言っている?」

「こっちの話じゃ、気にせんでいい。さあ人間共よ、どこからでもかかってくるがいい」



 余裕の表情でセアルは言う。



「……その前に一つ聞かせろ。オレの親友の魂を奪ったのはテメーか?」

「親友?」

「灰色の髪に緑の瞳、背はオレと同じくらいで、名前はヤストだ。そいつの魂を奪ったのはテメーなのかと聞いている」



 アスタの問いに、セアルは腕を組んで小首を傾げる。



「ヤスト? 誰だそれは?」

「……!!」

「なんせワシ一人だけでも奪った魂は百を超える。印象に残った者以外の名前はイチイチ覚えてなどいられない。ワシが奪ったのかもしれないし、他の七星天使が奪ったのかもしれん。だからお前の問いに対する答えは〝分からない〟だ。悪く思わないでくれ」



 アスタの拳がワナワナと震え出す。魂を奪われた親友を軽んじるような態度に、アスタは激しい怒りを覚えた。



「呪文【電撃祭】!!」



 アスタは残りMPを全て使い、最大出力の電撃を自分の身体に纏わせる。怒りで冷静さを失ったアスタだが、どちらにせよ残り少ないHPとMPでセアルを倒すには最初の一撃でケリをつける以外になかった。



「ヤストの無念、テメエの死をもって晴らさせてもらう!!」



 アスタは地面を大きく蹴り、一直線に駆け出す。最大出力の電撃を身に纏ったアスタのスピードは、もはや常人では認識できない領域に達していた。そのジェット機のような速度で、アスタはセアルの顔面に向かって拳を炸裂させた。



「なっ……!?」



 次の瞬間、アスタは驚愕の表情を浮かべた。自分の渾身の一撃を、セアルが片手で平然と受け止めていたからだ。



「いきなり女の顔面を狙ってくるとは、容赦のない男だ」



 直後、アスタの身体はセアルによって地面に勢いよく叩きつけられた。



「がはっ……!!」



 その振動で洞窟全体が大きく揺れ、地面に無数の亀裂が生じる。アスタは口から血を吐き出し、気を失ってしまった。



「……口ほどにもないとはことだな」



 続いてセアルはスーの方に視線を移す。一瞬でねじ伏せられたアスタを見て愕然とするスーだったが、セアルが自分に狙いを定めたことが分かり、すぐに頭の中を切り替えた。



「呪文【生類召喚】!!」



 スーも残りのMPを全て費やし、全身が赤い岩で覆われた巨大なモンスターをこの場に出現させた。モンスターの咆哮が洞窟内で反響する。



 ヴォルカニックジャイアント Lv688


 HP54989/54989

 MP20897/20897

 ATK1268

 DFE659

 AGI129

 HIT354



 スーの戦い方は【生類召喚】でモンスターを呼び寄せ、それを【憑依】で操って戦わせるというもの。しかし【憑依】が有効なモンスターはレベル500までなので、スーはこのモンスターを操ることはできない。


 今のスーに【憑依】にMPを費やす余裕はなく、またレベル500程度のモンスターではセアルを倒すことはできないと判断したスーは、残りのMPを全て【生類召喚】に費やすという選択をとったのである。


 だが【憑依】を発動していないため、当然モンスターが誰を狙ってくるかは分からない。これはスーにとって一か八かの賭けだった。



「ほう、召喚系の呪文とは珍しいな。使える人間を見るのは初めてじゃ」



 一方セアルは少しも驚く様子はなく、感心した様子でモンスターを眺めている。すると運はスーに味方したのか、モンスターは真っ先にセアルに攻撃を仕掛けた。



「どうやらワシが最も危険な存在だと本能で察知したようじゃな。だが――」



 セアルは静かに指先をモンスターに向ける。



「目障りだ……消えろ。呪文【死の宣告】!!」



 暗転する視界。直後、紫色のものがモンスターの身体を蝕んでいき、モンスターは身悶え始める。


 そして十秒後。スーが呼び出したヴォルカニックジャイアントは地面に倒れ、呆気なく消滅してしまった。



「そ……んな……」



 この光景を目の当たりにし、スーは絶望に打ち拉がれる。もはや戦意すら喪失したスーに対しセアルは一瞬で距離を詰め、腹に拳を叩き込んだ。



「かはっ……!!」



 スーの口から液体が吐瀉される。そのままスーは気を失い、ドサリと倒れた。セアルは地面に横たわるアスタとスーを交互に見た後、小さく溜息をついた。



「所詮は人間、この程度か。少しでも期待したワシが愚かじゃったな……」



 セアルはゆっくりと右手を上げる。



「もうお前達に用はない。その魂、幻獣復活への糧とさせてもらう。呪文【魂吸――」

「呪文【災害光線】!!」



 セアルが二人の魂を奪おうとした、その時。セアルに向けてリナの【災害光線】が放たれた。



「むっ……!?」



 セアルは咄嗟に右腕を前に出し、その光線を受け止める。その威力に押され、セアルの身体は大きく後退した。



「そんなこと……させません……!!」



 リナは必死に意識を保ちながら、セアルと向かい合う。セアルは自分の右腕を見て僅かに口角を上げた。



「良い威力じゃ。ただの声援要員の女かと思っておったが、外見で判断してしまったことは謝ろう」



 リナの脳裏には、ユートの「もしリナ達の方に七星天使が現れたら、すぐに〝念話〟で僕に知らせてくれ」という言葉が蘇っていた。


 本当は今すぐにでもユートに助けを求めたい。だが洞窟内に七星天使が二人いることはお兄様も想定外のはず。自分達を助けている間にもう一人の七星天使に『狂魔の手鏡』を破壊されたら元も子もない。


 そう考えたリナは、ユートに助けを求めることはせず、自分がセアルと戦う覚悟を決めた。



「貴女は……私が……倒します……!!」



 足をガクガクに震わせるリナ。その股からは、薄い黄色の液体が止めどなく流れ出ている。



「……失禁するほどの恐怖を感じながらも尚、ワシに戦いを挑むか。その勇気は称えてやろう」



 セアルは一歩一歩、リナの方へと近付いていく。



「が、勇気だけで倒せるほどワシは甘くはない。それを身をもって教えてやる」

「……!!」



 お兄様、私に力を貸してください。リナは心の中で何度も唱えた。

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