第7話 圧倒的な力
「な、何だ!? 一体どうなっている!?」
僕が全くダメージを受けていないことに気付いたのか、僕に剣を突き刺してきた山賊の顔が青ざめる。僕は右手でその山賊の服を掴んで持ち上げ、放り投げた。
「あっ」
するとその山賊の身体はジェット機のように遙か遠くの空まで飛んでいき、キラリと光るお星様になった。しまった、力を入れすぎた。
「何だこいつは……!?」
「一体何者だ……!?」
山賊達は動揺した様子で数歩後退する。こいつらが怯んでる隙に……。
「村人達よ!! 死にたくなければ余の背後に集まるがいい!!」
僕は大声で呼びかけると、村人達は慌てふためきながら僕の後ろに固まった。
「呪文【絶対障壁】!」
村人と僕の間に巨大な障壁を出現させる。あらゆる攻撃も呪文も通さない無敵のバリア。これで村人が山賊の標的にされることも、僕の呪文で彼らを巻き込む心配もなくなった。
「さあ、どうした山賊達よ。まさか今ので怖じ気づいたのか?」
僕は改めて山賊達の方に向き直る。
「ぜ、全員、一斉に奴を攻撃せよ!!」
山賊のリーダーっぽい男が指示を出した。山賊達は「うおおおおお!!」と声を上げながら僕に斬りかかってくる。僕は敢えてその場から一歩も動かず、そいつらの攻撃を全て受け入れた。続いて大量の矢が放たれ僕の身体に降り注ぐ。しかし相変わらず僕へのダメージは0だった。
「無駄なことを……。0はいくら足したところで0にしかならない。子供の頃に習わなかったのか?」
僕は嘲笑うように言った。山賊達は驚愕の表情を浮かべる。
「攻撃が効いていない……!?」
「ひ、怯むんじゃねえ!! 奴は何か物理攻撃を無力化するような呪文を使っているに違いない!! 誰か呪文で奴を攻撃しろ!!」
「ここは俺が!! 【災害光線】!!」
山賊の一人が僕に向かって紫色のビームを放ってきた。おお、人間の中にも呪文を使える者がいるのか。しかも僕も所持している【災害光線】とは。だが――
ドオン!!
僕の身体にビームが直撃し、その場に土煙が巻き起こった。
「は、ははははは! 見ろ、やはり呪文は通じるようだぞ! このまま一気に――」
「通じる? 貴様の目は節穴か。この程度、マッサージにもなりはしない」
僕は右手で土煙を振り払った。唖然とする山賊達。やはり僕に比べると威力は高が知れている。
HP 9999999999/9999999999
これでもダメージはなしか……。これじゃHPがただの飾りではないか。HPが削られた時の感覚を体験しておきたいと思ってたけど、どうやら無理そうだ。
「しかし奇遇だな。余も【災害光線】の呪文は所有している。ここは一つ、先生がお手本を見せてやろう」
僕は静かに指の先を山賊達の方に向ける。
「【災害光線】!!」
ドオオオオオン!!
「うわあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
僕が指先から放ったビームによって大爆発が起き、山賊達の身体が宙を舞った。これでも先日よりはだいぶ威力を抑えてある。下手したら村人の家まで壊しかねないからな。
「……余はこう見えても人間想いでな。本来なら人間を殺傷するような真似はしない。だが貴様達のような外道であれば話は別だ」
地面に這いつくばる山賊達に、僕はゆっくりと近付いていく。
「神に代わって、余が貴様達の愚行を裁いてやろう……」
「う、動くなあ!! こいつらがどうなってもいいのか!?」
奥の方では若い女性達が一固まりになっており、山賊の一人が彼女達に剣を突き立てていた。あれ? 村人は全員僕の背後に避難したはずじゃ……。
あ、そうか。さっき「金になりそうな女は捕らえろ」とか言ってたし、あれは山賊に捕らえられた人達か。危うく僕の【災害光線】に巻き込むところだった。
「……呆れたものだ。もう人質を取るくらいしか手が残っていないとはな」
僕は溜息交じりに言った。人間想いと言ったことが仇になってしまったか。
「いいか動くんじゃねーぞ!? 一歩でも動いたら――」
「動いたら、何だ?」
「……へ?」
僕は一瞬でその山賊の背後に移動し、頭に拳骨を喰らわせる。山賊の身体は地面深くまでめり込んだ。
「仮にも山賊なら、人質くらい満足に取れるようになっておくことだ」
言っておくが【瞬間移動】を使ったわけではない。99999あるAGI(速さ)を活かし、ただ山賊の背後まで走っただけだ。と言っても人間の目には瞬間移動でも使ったようにしか見えないだろうけど。
「ひえええええ!!」
「ば、化け物だ!!」
「退却!! 退却ー!!」
山賊達は蜘蛛の子を散らすように村から逃げていった。
さて、これくらいにしておくか。全員始末しようと思えばできただろうけど、僕は「覇王が良い奴」という認識を広める為に来たわけだし、これ以上は逆効果になりかねないからな。
「もう安心だ。この村は救われた」
僕は村人達の方を振り返り、【絶対障壁】を解いた。歓声を上げる者、安堵のあまり涙を流す者、家族と抱き合う者、様々である。やっぱり良いことをした後というのは気持ち良いものだな。
「この村をお救いいただき、本当に感謝いたします……」
すると白髪の老人が僕のもとまで歩いてきて、深々と頭を下げた。おそらくこの村の村長さんだろう。
「頭を上げよ。余は当然のことをしたまでだ」
元人間として目上の人にこの口調は少し失礼な気がしたけど、この見た目で敬語を使うと違和感が凄いだろうしなあ……。
「ところで貴方は一体何者なのですか? 人間ではないようですが……」
「余は覇王である」
僕がそう言うと、時間が凍結したかのように村人達の声が止んだ。あれ、何この空気。なんかみるみる内に皆の顔が青ざめていってるし。
「覇王……!?」
「覇王ってあの、悪魔の頂点に君臨していると言われている……!?」
「こ……殺される……!!」
殺さないよ!? 何の為に君達を助けたと思ってんの!?
「さ、差し出せるものは全て差し出しますから、どうか、村人の命だけは……!!」
目の前の村長もこの世の終わりのような顔でカタカタと震えている。僕を一体何だと思ってるんだ。
「お前達は誤解している。余はそのような目的でこの村に来たのではない」
「そ、それでは、一体何故……?」
「簡潔に言うと、余はイメージアップを図りに来たのだ」
「……イメージアップ?」
キョトンとする村人達。
「世間一般では余を――覇王を諸悪の根源のように思っている者が多いだろう。だが実際はそうではない。余は正義の味方であり、皆に幸福をもたらす存在なのだ」
僕はグッと親指を立てた。しかし村人からは何の反応もなく、なんだか恥ずかしくなり身体が熱くなる。自分で何言ってるんだ僕。