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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編
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第68話 魂の壺

 七星の光城の最上階に来たセアル達三人。その中央には半径十メートル以上ある巨大な灰色の壺があった。これが『魂の壺』である。


 セアルが指をパチンと鳴らすと、壺の下の方から淡い光が灯る。すると壺の内部で数多の〝白く光るもの〟が彷徨っているのが透けて見えた。ラファエは驚愕の表情で魂の壺を見つめる。



「この白いものが全部……人間の魂……!?」

「ああ。今のところ特に異常はなさそうじゃな」

「しかしこの大きさで大丈夫かぁ? 途中で魂が入りきれなくなったりしねーだろうな」

「問題ない。ちゃんと1000の魂が入るよう計算して作られてある」



 すると壺の中から〝複数の音〟が聞こえてくるのが分かった。



『ここから出して……』

『元の身体に戻りたい……』

『あの子に会わせて……』



 それはいくつもの人々の〝声〟だった。それを聞いたラファエの身体が小刻みに震え始める。



「せ、セアルさん、この声は一体……!?」

「肉体と引き裂かれた魂が叫びを上げておるのじゃろう。あまり聞いてきて気持ちの良いものではないな……」

「そうか? 俺の耳にはとても心地よく響いてくるけどなぁ」

「……相変わらず悪趣味な奴じゃ」



 楽しげな笑みを浮かべるガブリに対し、悲痛な表情を浮かべるラファエ。それからラファエは拳を強く握りしめ、恐る恐る口を開けた。



「もう……やめましょうよ……!!」

「あぁん? 何か言ったかラファエ?」

「もうやめましょうよ!! こんなこと!!」



 本人の口から出たとは思えないほどの大声でラファエは叫んだ。



「覇王を倒さなきゃいけない、それは分かります!! けど何故その為に無関係な人間達が犠牲にならないといけないんですか!? おかしいですよそんなの!!」

「オイオイオイオイ、いい加減にしろよラファエ……」



 ガブリが苛ついた顔でラファエの胸ぐらを掴んだ。



「ゲホッ……ガブリさん……!?」

「いつまで脳内お花畑のお姫様みてーなことほざいてやがる。つーかオメー、前々から俺達のやることに対して何かと反抗的だよなぁ。もしかして覇王のスパイか?」

「そ、そんな!! 僕はただ……!!」

「控えろガブリ。序列ではお前の方がラファエより下じゃろう」



 ガブリはチッと舌打ちをし、ラファエから手を離す。それからセアルはラファエのもとに歩み寄り、その肩に手を乗せた。



「お前の気持ちは分かる。だが覇王を滅ぼし、地上に平和をもたらすには他に方法がないんじゃ」

「で、でも、大勢の犠牲の上に成り立つ平和なんて……!!」

「お前をここに連れてきた理由、分かるな? この壺を見せることで、お前にもこの現実をきちんと受け止めてもらう為じゃ。どうか分かってほしい」

「……!!」



 ラファエは自分の感情を抑え込むように、唇を強く噛みしめた。



「かーっ! 相変わらずラファエには甘い甘い!」

「何か言ったかガブリ?」

「何でもねーよ」



 セアルから目を逸らすガブリ。するとその直後、セアルは〝ある者〟からの念話をキャッチした。



『私よセアル。久し振りね』



 それは七星天使の一人、イエグからだった。



「イエグか。任務の方はどうなっている?」

『その任務の報告よ。ようやく「狂魔の手鏡」が封印されている場所を特定したわ。どうやら「邪竜の洞窟」ってところにあるみたい』

「! そうか、よくやってくれた。では引き続き頼む」

『ええ。美しく任務を遂行してきてあげる』



 イエグからの念話が切れると、セアルはガブリの方に目を向けた。



「ガブリ、お前は人間領に戻って魂狩りを再開しろ」

「あぁ? オメーはどうすんだよ?」

「ワシは他にやることができた。イエグがついに『狂魔の手鏡』が封印された場所を突き止めたそうじゃからな」

「やっとかよ。あの女、地上で宝石やら何やらを買い漁ってたせいで任務が滞ってたんじゃねーだろうなぁ」



 この『狂魔の手鏡』には天使のステータスを大幅に弱体化させ、更には呪文を封じ込める力が秘められているので、その鏡の破壊はセアル達にとっての悲願であった。



「そこでワシもその場所に向かい、イエグと合流しようと思う」

「ククッ。イエグ一人だけじゃ心配ってか?」

「あいつの腕を疑うわけではないが、万が一にも悪魔達の手に渡りでもしたらワシらは終わりじゃ。『狂魔の手鏡』はここで確実に破壊しておく必要がある」

「そんなこと言って本当は人間の魂を狩るのが辛くなってきたもんだから、それから逃れる為の言い訳ができたとか思ってんじゃねーだろうなぁ?」



 ガブリが品のない笑みを浮かべて言うと、セアルは無言で腕を組んだ。



「おやっ!? 言い返さないってことはもしかして図星か!? おいおい七星天使のリーダーともあろうお方がそんなメンタルで大丈夫かぁ!?」

「無駄口を叩く暇があったらさっさと人間領に戻れ。ワシも鏡の破壊が完了したら魂狩りを再開する。それまで勝手な真似をしたら承知せんぞ」

「へいへい、了解しましたよっと」



 適当に手を振りながら、ガブリはこの場を去った。



「セアルさん、僕は……?」

「ラファエはミカの看病を続けてくれ。熱が下がったと言っても、なんせガブリの回復呪文じゃからな。また容態が悪化しないとも限らん」

「……分かりました」

「さて、ではワシも行くとするか」



 こうしてセアルとガブリは地上に向かった。一人この場に残ったラファエはしばらくの間、数多の人間の魂が閉じ込められた『魂の壺』を静かに見つめていた……。




 一方その頃、人間領の『邪竜の洞窟』前にて。暗闇の中、背中に白い翼を生やした一人の女が降り立った。



「ここが『邪竜の洞窟』……。あんまり美しくなさそうな所ね」



 長い金髪をなびかせ、全身にいくつもの宝石を身に付けたこの女こそ、七星天使の最後の一人、イエグである。



「あーあ、ホント暗いのってヤダ。せっかくの宝石が美しく輝けないもの」



 そんなことをぼやきながら、イエグは『邪竜の洞窟』の中へと入っていく。



「さて。『狂魔の手鏡』がどれだけ美しく壊れるか、楽しみだわ。ふふっ……」

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