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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編
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第67話 ミカの治癒

 ユートがサーシャのアジトに戻った時とほぼ同時刻。セアルに人間領からの撤退を命じられ『天空の聖域』に帰還したガブリは(第50話参照)、呑気に口笛を吹きながら『七星の光城』に向かって歩いていた。


 ガブリが『七星の光城』に着くと、その入口では苛立った顔のセアルが腕を組んで待ち構えていた。



「遅いぞガブリ!! 今までどこをほっつき歩いておったのじゃ!!」

「けっ、命令に従ってやっただけでもありがたく思えっての。それで? 魂狩りを中断させてまで俺をここに呼びつけた理由は何だ?」

「……付いてこい」



 それからセアルは『七星の光城』内のある部屋の前までガブリを連れてきた。



「入れ」

「あぁ? ここってミカの部屋じゃねーか。いいのかよ、乙女の部屋に野郎を入れちまってよぉ」

「いいから入れ」

「へいへい」



 ミカの部屋に入るセアルとガブリ。そこにはベッドで寝込むミカと、その様子を心配そうに見守るラファエの姿があった。



「ラファエ、ミカの容態はどうじゃ?」

「……依然として苦しそうです」



 ミカは明らかに呼吸が乱れており、額からは大量の汗が噴き出ていた。



「はっ。なんだミカの奴、張り切りすぎて熱でも出しちまったのか? で、俺を呼んだ理由は何だよセアル?」

「そんなもの、ミカの容態を見れば一目瞭然じゃろうが」

「……あぁ!? まさかこいつのお見舞いの為に呼んだってのか!? 冗談じゃねえぞ、俺はこいつの保護者じゃねーんだ――うおっ!?」



 セアルは無言で手刀を繰り出し、ガブリはそれをギリギリでかわした。



「っぶねーなぁオイ!! 仲間を何だと思ってやがる!!」

「こっちの台詞じゃ。それが苦しげな仲間を目の当たりにして出てくる言葉か?」

「いやいや実際そうだろ! 城にはラファエが残ってたんだからわざわざ俺を呼ばなくてもラファエに看病させりゃいいだけの話じゃねーか!」



 ガブリの主張に対し、セアルは首を横に振る。



「ワシやラファエがいくら手を尽くしても、ミカの容態が良くなることはなかった。となるともはや呪文に頼る以外に方法はない。七星天使の中で回復系の呪文を使えるのはお前とイエグだけじゃからな」

「だったらイエグを呼べばいいじゃねーか。何で俺なんだよ」

「イエグは『狂魔の手鏡』の破壊任務を継続中だと何度言えば分かる。『狂魔の手鏡』の破壊は我々にとっての最優先事項、蔑ろにはできん」



 チッ、と舌打ちをするガブリ。



「分かったら早くお前の呪文でミカを治せ」

「寝言は寝て言えっての!! こちとらただえさえMPが枯渇してんだよ!! なんで残り少ないMPをこんな女の為に使わないといけねーんだ!!」

「……そうか。ならばワシが力ずくでも使わせて――」

「あーハイハイ分かったよ!! やりゃあいいんだろやりゃあ!!」



 ガブリはいかにも面倒臭そうな顔で、ベッドで寝込むミカに右手をかざした。



「呪文【月光の恩恵】!」



 ガブリの右手から溢れ出た光が、ミカの身体を包み込む。やがてミカの呼吸は落ち着きを取り戻し、汗も次第に引いていった。



「ったく、これで満足かよ」

「あ、ありがとうございます、ガブリさん……!!」



 ラファエはガブリに深く頭を下げた。



「あーあ、柄にもねーことをしちまったぜ。つーかなんでミカはこんなことになったんだよ?」

「元々身体が弱いミカに地上の空気が合わなかったのか、それとも呪文を持たないミカにワシが【魂吸収】の呪文を与えたせいか……。何にせよハッキリとした原因は不明だ」

「そう言えばミカさん、呪文を一つも持っていませんでしたね。天使であれば最低でも一つは呪文を使えるものなのに、どうしてミカさんは……」



 ラファエの疑問に対しても、セアルは首を横に振る。



「分からん。ミカを連れてきたウリエルなら何か知っていたかもしれんが、あいつはもうおらんからな……」



 ウリエルが死んだ今、ミカが天使と悪魔の間に生まれた子だという事実を知る者は誰もいなかった。



「とりあえずミカへの【能力共有】は解除しておいた。しばらくこの部屋で安静にしてもらおう。これからはワシとガブリの二人だけで魂狩りを行うことになる」

「おいおい大丈夫かぁ? まだ人間の魂は目標の半分も集まってねーんだろ?」



 セアルは腕を組み、考え込む様子を見せる。



「そうじゃな。ミカが抜けたとなると魂狩りのペースは確実に落ちる。これは新たな七星天使の擁立も視野に入れておいた方がいいかもしれん」

「くくっ、ウリなんとかが死んでちょうど空席もできたことだしな。下級天使共の間でオーディションでも開催するか?」

「……普通はそうなるじゃろうが、ワシは地上にも目を向けた方がいいと考えている」

「は!? まさか人間共の中から七星天使を選抜する気かよ!?」



 セアルの予想外の発言に、目を見開くガブリ。



「あくまで可能性の話じゃ。地上で魂狩りを行っていた時、勇敢にもワシに戦いを挑んできた女がおった。当然ワシには勝てなかったが逃げ足も速く、このワシが魂を奪い損ねることになった。確か名前はサーシャとか言っておったか……」

「ほう、大した女じゃねーか。まさかそいつを七星天使にするつもりか?」

「いや。確かに優秀な女じゃったが、我々に匹敵するほどの実力ではなかった。せめてワシにかすり傷一つでも負わせることができたら考えたんじゃがな」



 セアルは言葉を続けながら、ミカの傍まで歩み寄り、額にそっと手を当てる。



「だがもしかしたら地上にはそれ以上に優秀な人材がいるかもしれん。もっとも七星天使に見合う者となると、可能性は限りなくゼロに近いじゃろうが……」



 それからセアルは安心した表情でミカの額から手を離した。



「だいぶミカの熱も引いたようじゃ。ガブリの回復呪文が効いたんじゃろう」

「そういやまだセアルから感謝の言葉を聞いてねーなぁ」

「調子に乗るな。お前は当然のことをしただけじゃ」

「おいおいそりゃねーだろ! わざわざ地上から戻ってきて貴重なMPまで消費してやったってのによぉ!」



 不満を言い放つガブリだがセアルはスルーし、部屋のドアの方に身体を向けた。



「さて。城に戻ってきたついでに『魂の壺』の様子を見てくるとするか」

「魂の壺? ああ、俺らが奪った人間共の魂が収められてる壺のことか」

「そうじゃ。ガブリとラファエも一緒に来い」

「ぼ、僕もですか?」

「ああ、お前にも一度見せておきたい。少しの間だけならミカから目を離しても大丈夫じゃろう」

「……分かりました」



 セアル、ガブリ、ラファエの三人はミカの部屋を出て、魂の壺が置かれている最上階へと向かった。

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