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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編
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第66話 生き別れた姉妹

「私は両親を失ってからの数年間、ミカと二人で肩を寄せ合って生きてきました。森の中は凶暴なモンスターも多く、呪文を持たないミカと私にとって過酷な環境でしたが、それでもなんとか生きる術を身に付けました」

「……一つも呪文を所持していないのか?」

「はい。原因はおそらく私の身体に流れる血でしょう。天使と悪魔はいわば光と闇。決して相容れることのない二つが共存しているという矛盾が、呪文の介在を妨げているのだと思います」



 人間と天使の間に生まれたサーシャは呪文を多数所持していたが、やはり悪魔と天使では全く事情が違うようだ。



「ミカは甘い物が大好きで、とても優しい子でした。そして何よりミカは私にとって大きな心の支えでした。ミカがいなかったら、私はとっくに生きることをやめていたでしょう……」



 その頃の出来事を思い起こすように、ユナは目を細くする。



「そんな妹が、何故今では七星天使の一人になっている?」



 僕が尋ねると、ユナは暗い表情で俯いた。



「森の中で生活を始めてから約四年後のことです。ある時私とミカの前に一人の男が現れました。名前はウリエル、七星天使の一人です」

「ウリエル?」



 ここであいつの名前が出てくるのか。僕が殺したから今はもうあの世にいるけど。



「ウリエルは私達にこう言いました。『お前達の両親を殺し、このような森に追いやった悪魔共が憎いだろう。私に付いてくれば悪魔共への復讐に手を貸してやる。ただし連れて行けるのはどちらか一人だけだ』と……」



 二人とも連れて行くと言わないあたりが何ともあいつらしい。



「しかし私もミカも特に悪魔達を恨んではいませんでした。これは私達の運命で、仕方のないことだと割り切っていましたから。全く憎しみがないと言ったら嘘になりますが、何よりそのような復讐は天国の両親を悲しませることになる、そう思っていました」

「では、その時のウリエルの誘いは断ったのか?」



 僕の問いに、ユナは首を横に振った。



「一方で私は思いました。果たしてこのまま森の中で生活を続けることが本当の幸せなのだろうかと。ミカだけでもこの森を出て、衣食住の満ち足りた場所で生活を営むことはできないものかと。そう思った私は、ミカを無理矢理ウリエルに引き渡したのです」



 ユナの拳が小刻みに震え始める。



「お姉ちゃんの裏切り者――それが最後に私が聞いたミカの言葉でした。今でも夢に出てきます。あの時の私の判断は本当に正しかったのだろうか、と……」



 正しいか正しくないか、それはとてもじゃないが僕には分からない。その時のユナの心境は僕には想像もつかなかった。



「きっとミカは私の事を恨んでいるでしょう。だからもう一度、ミカに会いたい。そして一言、謝りたい……」



 声こそ小さかったが、その言葉には確かな意志が宿っていた。



「その為にはずっと森に籠もっていてはダメだと思い、数年間の修業を経て、私は森を出ました。その頃には私の事を覚えている者はおらず、私は悪魔として現在の地位まで上りつめたのです」



 僕は胸が熱くなった。呪文を全く使えないユナが滅魔の地位を獲得するには相当な努力を要しただろうから。



「……だが、我々はいずれ七星天使と対峙することになる。その時お前は妹と相見えることになるやもしれん」

「はい。もしミカが私の命を奪うつもりで挑んできたならば――私も覚悟を決めます」

「…………」



 生き別れた二人の姉妹が、方や七星天使の一人、方や四滅魔の一人になるとは、なんと数奇な運命だろうか。



「……長々と退屈な話をしてしまい、申し訳ございませんでした」

「退屈なことなどない。話を聞かせてくれて余は感謝している」



 自分の秘密を他者に打ち明けることはかなりの勇気が必要だっただろう。同じく秘密を抱える身として本当にそう思う。



「覇王軍の中にこの事を知っている者は他にいるのか?」

「いえ、自分の身の上を話したのはユート様が初めてでございます」

「……そうか」



 するとユナは僕の前で膝をついた。



「私は悪魔でも天使でもない、いわば不純物です。本来ならば私のような者がユート様の配下に、ましてや滅魔の地位に就くことなどあってはなりません。もしユート様が私を配下として相応しくないとおっしゃるのでしたら、私は潔くこの城を去らせていただきたいと痛っ!?」



 僕はユナの頭にチョップをかました。



「ユート様、何を……!?」

「愚か者め。余がそんなくだらないことを言うと思うのか。二度と自分の事を不純物などと口にするな」

「で、ですが……!!」

「よく聞けユナ。お前は自分の身体に流れる血に劣等感を抱いているようだが、余にとっては些末な問題でしかない。お前もアンリ達同様、ただの可愛い配下の一人だ」

「……!!」



 ユナの目が涙で潤む。だいたいそんなことを気にしてたら、中身が人間で覇王の僕はどうなるんだって話だしな。


 そして僕は、改めてユナに右手を差し出した。



「いけませんユート様、私に触れたらユート様の高貴なお手が……!!」

「何だ? お前の手は溶解液でも出すのか?」

「そういうわけでは……」

「ならば何の問題がある。それとも純粋に余の手を取るのが嫌なのか?」

「め、滅相もございません!!」

「なら早くしろ。これ以上拒むようなら、余の手に触れたくないが為の言い訳と解釈するぞ」

「……で、では」



 恐る恐る手を差し出すユナ。僕はその手を強く握りしめた。



「お前の身体に流れる血は、半分が父親で半分が母親のものだ。その血に劣等感を抱くのではなく誇りに思えるようになれ。余からの命令だ」

「……はいっ」



 ユナの頬を涙が伝う。そしてユナも僕の手を強く握り返してくれた。


 なんだか柄にもないことをしてしまったな。思い返せば結構恥ずかしいことを言っちゃった気がするけど、これでユナも少しは気持ちが楽になったことだろう。




 それから僕は【瞬間移動】でサーシャのアジトに戻り、明日の『狂魔の手鏡』入手作戦に備えて就寝することにした。


 だが、その向かった先で七星天使と相対することになるとは、この時の僕は知る由もなかった。

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