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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編
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第58話 最大の攻撃?

「私は皆のように、七星天使に大切な人の魂を奪われたりはしていない」



 メラトリなんとかが描かれた紙を懐に戻しながらスーが言う。



「それじゃどうしてスーはサーシャの仲間になったんだ?」

「特別な理由はない。ただ、人々の幸せを壊す七星天使が許せなかった。そして自分の力を誰かの為に役立てたいと思ったから」



口調は落ち着いているが、スーの言葉からも強い意志が感じられた。



「だから私の願いは、サーシャやセレナ、子供達に大切な人との時間を取り戻してあげること。あとアスタも」

「オレはついでかよ!?」



 僕はスーに尊敬の念を感じた。誰かの為に行動を起こすというのは言うほど簡単ではないはずだ。しかも相手は七星天使。いくら許せないと思っても、そいつらと戦う覚悟を決めるのはなかなかできることではないだろう。



「さっきセレナの名が出てきたけど、セレナの場合はサーシャやアスタと同じ境遇ってことでいいんだよな?」



 この場にセレナがいないのでサーシャに聞いてみる。たとえいたとしても絶対に答えてくれないだろうけど。



「セレナは姉の魂を奪われたそうだ」

「! 姉の……」

「セレナは物心つく前に父親を事故で、母親を病で亡くし、祖母と姉の三人で暮らしてきたと話していた。祖母も去年に亡くなったらしく、セレナにとって姉が唯一残された家族だったんだ」



 その姉さえも七星天使の手によって失われてしまったのか。今のセレナの心境を思うと胸が苦しくなった。



「そういやなんでユートはサーシャの仲間になったんだ」

「えっ!? それは、まあ、僕もスーと似たような理由かな……」



 僕は適当にごまかしておいた。僕(覇王)のイメージアップを図る為、なんて言えないよなあ。なんだかサーシャ達の話を聞いた後だと、自分の考えが少しだけ浅ましく思えてしまう。



「ではそろそろ解散にしよう。各自部屋に戻って出発まで十分に身体を休め、英気を養っておくように」



 こうして僕達は食堂を後にした。結局セレナは最後まで戻ってこなかったな……。




 それから僕とリナは先程のサーシャの話にも出た通り、アジト内の適当な部屋を借りることにした。一階と二階は主に子供達の居住スペースになっていたので、僕は三階の一番奥の部屋、リナはその隣りの部屋に決めた。中はお世辞にも広いとは言えなかったが、一人が寝るには十分だろう。



「ではお兄様、また後ほど」

「うむ。何か困ったことがあったらすぐに言うのだぞ」



 リナは頭を下げ、僕の部屋から退室した。

 

 今の僕は覇王の姿に戻っていた。例によって僕達は替えの服を持っていなかったので、昨日の宿でもやったように【能力付与】でリナに【創造】の呪文を与えたからである。さすがに僕も三日連続で同じ服を着るのは躊躇われたので、リナに【創造】を貸す前に自分用の新しい服を生成しておいた。


 さて。アスタとの戦いで身体が少し汚れたし、早速風呂に入るか。そう思って部屋を見回してみたところ、トイレも風呂もないことに気付いた。ここは人数が多いからそういうのは共同で利用しているのだろう。きっとこのアジトのどこかに大浴場っぽい所があるに違いない。


 というわけで僕は今一度【変身】で人間の姿になった後、部屋を出て浴場の場所を確かめに行くことにした。しかしサーシャ達も部屋には風呂やトイレがないことくらい教えておいてくれたらよかったのに。



「ようユート。こんな所で何してんだ?」



 階段を下りて一階を適当にうろついていると、途中でアスタに会った。



「部屋に風呂がなかったから、どこにあるか探してる最中だ」

「風呂ならこの階の奥にデッケーのがあるぜ。この先を真っ直ぐ行って左に曲がったところにある」

「そっか、助かる」



 やはり人に教えてもらうのが一番だな。このアジトってかなり広いし、何を探すにしても時間が掛かってしまう。



「……もしかして女湯を覗きに行くつもりか?」

「お前と一緒にするな」

「なんだと!? オレが女湯を覗くような変態に見えるってのか!?」

「うん、ものすごく見える」



 むしろ何故見えないと思ったのか。



「おいおい、オレを見かけで判断してもらっちゃ困るぜ。まあこれまで何度も覗こうとして全部失敗に終わってるんだけどよ。セレナは警戒心が強いからなー」



 案の定かよ。



「あー、サーシャの【千里眼】がマジで羨ましいぜ。あの呪文がありゃ風呂もトイレも覗き放題だからな。ユートもそう思うだろ?」

「……そうだな」



 実は僕も【千里眼】が使える、なんて言えないよな。



「オレもこの後すぐ風呂に行くから、また男湯でな」

「ああ」



 アスタと別れ、僕は服を取りに行こうと自分の部屋に向かう。その途中、僕が二階から三階への階段を上っていた時だった。



「あっ」



 今度は三階から下りてきたセレナと鉢合わせになり、互いの足が止まった。ここでセレナに会うのは全く予想してなかった。



「…………」



 野犬のような鋭い目つきで僕を睨むセレナ。原因はサーシャが【未来予知】で視たと言っていた〝例のこと〟だろう。それと昨日の喫茶店のトイレで起きたことをまだ怒っているというのもあるかも――


 そこで僕は、その時のことをまだセレナに謝っていないことに気付いた。そうだった、もしまた会うことがあったらちゃんと謝罪しようと思ってたんだ。不可抗力とはいえセレナの胸を触ってしまったことは紛れもない事実だし、ここはしっかり謝ろう。



「その、昨日は本当にごめん。ワザとじゃなかったんだ」

「…………」



セレナは無言で睨み続ける。ダメだ、まったく許してくれる気配がない。ここは一つジョークで場を和ませてみよう。



「代わりと言っちゃなんだけど、僕の胸を揉んでいいからさ」

「ふざけないで!!」



 ああ、余計に怒らせてしまった。そりゃそうだ。



「言っとくけどアタシはその程度の謝罪で許すつもりはないから!!」

「……その程度、か」



 僕は小さく笑みをこぼした。いいだろう、そこまで言うなら僕にも考えがある。もはや手段を選ぶつもりはない。見せてやろう、僕の力を……!!



「な、何よ……!?」



 僕からただならぬ気配を感じ取ったのか、セレナが警戒する様子を見せる。僕は覇王、思い通りにならないことなどない。さあ刮目しろセレナ!!



「本当に悪いことをした!! 許してくれ!!」



 僕は階段の踊り場で正座をし、手のひらを地につけ、額を地にこすりつけた。


 そう、土下座である。MPを一切消費せず、かつ最大の謝罪の表現、それが土下座。我ながら完璧な方策だ。



「ちょ、ちょっと! アタシは別にそこまでしてもらうつもりは……!!」



 僕の(土下座という名の)攻撃を受け、セレナが動揺した声を出した。ふっ、どうやら効いてるようだな。これでセレナも僕を許すしかなくなるだろう。僕はセレナの反応を見てみようと顔を上げた。



「……あ」



 その時、僕の視界に〝あるもの〟が映った。


 現在の状況は僕が階段の踊り場で土下座をし、そこから五段先にセレナが立っている。セレナはスカートで、地下訓練場にいた時はスパッツを穿いていたが、今はそれも脱いでいる。


 つまり――バッチリ見えたのである。

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