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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編
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第47話 推察

 歩き始めて四十分が経った頃。町を出て草木が生い茂る道を歩いていると、木の幹に背をもたれて腕を組んでいるサーシャの姿を発見した。また【急成長】を使ったのか、大人の姿である。サーシャも僕達に気付いたらしく、こちらに近付いてきた。



「待っていたよ覇王。いや、今はユートと呼んだ方がいいか」



 やはり人間に変身した僕の姿も把握済みか。



「……まるで僕達が来ることを予め知ってたみたいだな」

「実は【未来予知】でお前達が来ることは分かっていた。せっかくだから近くまで迎えに行こうと思ってな」

「……便利な呪文だな」



 何故か無性に悔しい。やっぱり【瞬間移動】を使えばよかった。



「確かに便利だが必ずしも万能というわけじゃない。実際に私の本来の姿を見られることは完全に想定外だったからな……」



 溜息交じりにサーシャは言う。どうやら全ての未来を予知できるわけではないらしい。するとサーシャはリナの方に目を向けた。



「お前がユートの妹だな。私はサーシャ。よろしくな」

「リナです。お兄さんから色々と話は聞きました。こちらこそよろしくお願いします、サーシャさん」



 握手を交わすリナとサーシャ。



「ちなみにこの人、六歳だからな」

「……へ?」



 リナの目が点になる。そういや【急成長】の呪文のことはまだ話してなかったっけ。



「も、もう。お兄さんも冗談を言うことあるんですね。どこからどう見ても大人の女性じゃないですか」

「冗談じゃないぞ。なあサーシャ?」

「……ああ」



 サーシャが頷くと、リナの身体がカタカタと震えだした。



「さ、最近のお子様は、とても成長がお早いのですね……」

「違うんだリナ。実は――」



 僕が説明すると、リナは納得した顔で息をついた。



「呪文で一時的に大人になっているのですね。ビックリしちゃいました……」

「僕も最初見た時は驚いたよ。なんせ大人の姿でも全然違和感なかったからな」



 むしろ大人の姿の方がしっくりくるくらいだ。



「それはどうも。ついでに一つ頼みだが、私が本当は六歳だということは秘密にしてもらいたい」

「あっ、じゃあリナに教えたのもマズかったか?」

「まあ、お前の身内くらいなら許そう。それよりお前がここまで来たということは、私の仲間になってくれるということでいいのか?」



 サーシャの問いかけに、僕は首を横に振った。



「悪いけどアンタの仲間にはなれない。僕にも覇王としての立場があるからな。万が一にも僕が人間の仲間になったことが部下達に知られたら大変なことになる」

「……そうか。覇王も色々あるのだな」

「だけど一時的に協力関係を結んでもいいとは思ってる。僕にとっても人間に恩を売っておくのは悪い話じゃない」



 人間に手を貸したことがバレたらそれはそれで大変なことになりそうだけど、こっちはまだ誤魔化しようがあるからな。



「一時的な協力関係か。分かった、それでいこう。しかしそれだと『私の仲間になったらゲートの場所を教える』という条件が満たせなくなるが、それはどうする?」

「アンタの目的は〝狂魔の手鏡〟を手に入れることなんだろ? だったらゲートの場所はその目的を果たした時に教えてくれ。鏡さえ手に入れば文句はないはずだ」

「いいだろう。約束する」



 やけにあっさり承諾したな。もしかしたら僕とこんなやり取りをすることも既に【未来予知】で視てたのかもしれない。まったく食えない人だ。



「言っておくが僕はまだアンタのことを信用したわけじゃない。アンタが本当にゲートの場所を知っているのか、そもそもゲートなんてものが存在するのか、まだ半信半疑だからな」

「ふっ、それは少しショックだな。まあ私の身体に天使の血が流れているのは確かだし、疑いたくなるのも無理はない。実は私は七星天使のスパイで、真の目的は〝狂魔の手鏡〟の入手ではなく破壊だった、なんてことも有り得るからな」

「……いや、そこまで疑うつもりはないけどさ」

「さて。ずっと立ち話というのもなんだし、そろそろ私のアジトに向かうとするか。ここから先は案内しよう」



 サーシャを先頭に僕らは歩き出す。その途中、サーシャは何度か痛みを堪えるような仕草をすることがあった。セアルとの戦いによって負傷した左足が響いているのだろう。



「その足、後で僕が【万能治癒】で治してやろうか?」

「……思いやりのある覇王だな。だが気持ちだけ受け取っておく。この怪我があるおかげで、私は七星天使への憎しみを常に保ち続けることができるのだからな」

「……そうか。でもたとえ〝狂魔の手鏡〟を手に入れたとしても、その足じゃアンタの手で七星天使を葬るのは難しいんじゃないか?」

「確かにな。だが私は『人間の手で七星天使を抹殺すること』に拘ってはいるが『自らの手で七星天使を抹殺すること』にそれほど深い執着はない。七星天使に恨みを抱いている人間は他にもいることだしな」

「あ、あの! 私思ったんですけど……」



 そこでリナが間に入ってきた。



「魂消失事件の犠牲者って、もう何百人も出てるんですよね? だったら各国の偉い人達に協力を仰いだりはできないのでしょうか? まだ事件のことを知らない人は多いみたいですし、事件の認知度を上げることができれば、犠牲者は大幅に減らせると思うのですが……」

「その偉い人達が、七星天使とグルだったとしたら?」

「……え!?」



 サーシャの言葉に、リナは大きく目を見開いた。



「もちろん私も国の上層部に掛け合ったりもしてみたさ。だが結局はお茶を濁されただけだった。私の考えではおそらく七星天使は各国の大臣達に働きかけ、事件の隠蔽工作を行わせている。人々に事件のことがほとんど浸透していないのはそのせいだろう」



 隠蔽工作、か。悪魔からの報告を受けた時から七星天使と権力を持った人間が繋がっていることは僕も推察していたが、サーシャも同じ考えだったようだ。



「な、なんでそんなこと……!?」

「これまで人間領が悪魔達の侵攻を受けてこなかったのは七星天使を始めとした天使達の存在があったおかげだからな。それを口実に命令されて首を縦に振るしかなかった、そんなところだろう。なあ覇王様?」



 ここで僕に振るのかよ。



「言っとくけど僕は人間領を侵略するつもりなんて全くないからな」

「ふふっ。そこまで強大な力を持っているにもかかわらず、お前には世界征服などといった野心はないのだな」



 世界征服、ねえ。僕の力があれば可能だろうけど、そういう方向に力を使うつもりはない。あくまで僕の理想は人間と悪魔が共存できる世界を作ることだ。



「そんなわけで国を当てにすることはできない。自分の身は自分で守るしかない、ということだ」

「ど、どうしてそこまでして人々の魂を奪う必要が……」

「さあな。それは七星天使から直接聞き出すしかないだろう」



 こんな話をしている間に、僕達はサーシャのアジトに到着した。

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