第33話 ハンティングゲーム
「そういやイエグとキエルはどうすんだ? あいつらには狩らせねーのかよ?」
「イエグには現在の任務に集中してもらう。キエルはどうせ言っても聞く耳を持たんじゃろ。よって魂狩りは我ら三人で行う」
「はっ、ちげーねえ。しかし三人で1000の魂の収集か。こりゃ大仕事になりそーだなあ」
「それともう一つ、留意すべきことがある」
セアルが人差し指を立てながら言う。
「『幻獣の門』に捧げる魂は、より気力の充実した人間のものである必要がある。できるだけ少ない犠牲で済ませる為にも、人間の気力が最も充実する時期、つまり20才前後の人間を狙うのが望ましい」
「はあ? いちいち20才前後かどうか判別してから狩れってか? めんどくせーなあ。別にいいじゃねーかガキだろうが老いぼれだろうがよお」
「ガブリ、七星天使としての自覚を忘れるなと言ったはずじゃ。我らの矜持を傷つけるような真似は絶対にするな」
「けっ。人間の魂を狩る時点で矜持もクソもねーだろ……」
「何か言ったか?」
「いや? 別に何も」
ガブリはとぼけたように言った。
「ではこれより人間領に向かう。必ずや我々は1000の人間の魂を集め、『幻獣の門』の封印を解く。諸悪の根源である覇王を滅ぼす為に!」
人間領。セアルは南方面、ガブリは西方面、ミカは東方面で魂狩りを行うことになり、三人はそれぞれの方角に向かった。
「人間領は久々だなあ。相変わらず空気が淀んでやがるぜ」
標高1000メートル近くある山の頂上に降り立ったガブリは、そこからの景色を見渡してみる。やがてガブリは三つの村に狙いを定めた。
「くくっ。では早速始めるとすっか」
ガブリは右手を天に掲げると、突如として遙か上空に満月のような球体が出現した。
「呪文【月影分身】!!」
その球体から眩い光が放射され、ガブリの影を作り出す。やがてその影は二つに分裂し、それぞれの影の中からガブリと全く同じ姿の分身が湧いて出てきた。
「やっぱこういうのは効率重視でいかねーとなあ」
ガブリが右手を下ろすと、上空に浮かぶ球体も消えた。三人になったガブリはそれぞれが不気味な笑みを浮かべる。
「さあ、楽しいハンティングゲームの開幕だ!! ハハハハハ!!」
セアル、ガブリ、ミカの七星天使三人による〝人間の魂狩り〟が、ついに始まった。
☆
時が流れるは早いもので、僕がこの世界に覇王として転生してから一ヶ月が過ぎた。あれ以来天使の大群が襲ってきたりすることもなく、それなりに平和な日常を送っていた。
そして僕は今何をしてるのかというと、覇王城の大広間にてアンリとペータの三人でトランプのババ抜きをしていた。
少し前まではアンリしか相手がいなかったのでやれるゲームの種類は限られていたが、ペータが加わったことでゲームのバリエーションが大幅に広がった。他の悪魔達を誘おうにも立場的にそれは難しいからな。
「次はウチの番っすよ!」
現在のババ抜きの状況は、ペータが手札一枚で、僕の手札がハートの6とジョーカーの二枚。アンリは一足先にアガっており、僕とペータの一騎打ちである。つまりこれでペータにハートの6を取られたら僕の敗北である。
「さーて。ジョーカーはどっちっすかねー」
ペータが右手の指をウネウネとさせる。ジョーカーは僕から見て右にある。右だ! 右を取るんだペータ!
「あっ……」
しかし僕の祈りが届くことはなく、ペータはハートの6を取った。
「やったー! アガリっすー!」
「……余の負けだ」
ペータは万歳して喜び、僕はガクッと頭を垂れた。おかしいな、僕ってこんなに弱かったっけ? 覇王に転生してからトランプやジェ○ガでまともに勝てたことってほとんどない気がする。覇王の強さを手に入れたのと引き替えにこの手のゲームが弱くなってしまったのだろうか。
「ユート様はもっとポーカーフェイスを心掛けた方がいいと思うっすよ。そんな食い入るようにカードを見つめてたらジョーカーだってバレバレっす」
えっ、そんなに見てた? 全く自覚なかったんだけど。
「ペータ貴様! そこまで分かっていたら何故ユート様に勝ちを譲らなかった!? それでも四滅魔の一体か!」
「……よいのだアンリ。ゲームに立場や地位は関係ない。変に気を遣われたらゲームの醍醐味が失われてしまうからな」
「そうっすそうっす。だいたい真っ先にアガッたアンリが言っても説得力がまるでないっすよ」
「うっ……」
言い返せないのか、アンリは気まずそうに黙り込んでしまった。
「それにしても、ユート様ってホント色々な遊びを知ってるっすねー。一体どこで仕入れてるんっすか?」
「……全て余が考案したオリジナルゲームだ」
と、いうことにしておこう。最初にトランプやジェ○ガを考えた人ごめんなさい。
「まじっすか!? こんな面白い遊びを考えつくなんて流石ユート様っす! 超尊敬しちゃうっす!」
「当然だ。ユート様にとってゲームの創造など息をするように容易いことなのだ」
アンリ、それはいくら何でも過大評価すぎる。
「早くユナとエリトラにも教えてあげたいっすよ。いつになったら城に戻ってくるんすかねー」
ユナとエリトラというのは残り二人の滅魔の名前らしい。まだ『ヒュトルの爪』『ギラフの翼』を確保する任務から戻ってきておらず、僕は顔すら見たことがない。一体どんな者達なのか気になるところだ。
「……ユナはともかく、エリトラにはあまり帰ってきてほしくないな」
アンリが苦々しい顔つきで言った。一つ確かなのはアンリがエリトラの事を嫌っているということだ。
「ユート様、次は何をして遊ぶっすか!?」
「そうだな……」
って、本当はこんなゲームをやってる場合じゃない。覇王のイメージをアップさせて人間と悪魔が共存できる世界を作る、それが僕の計画だったはずだ。だがここ最近はまるでそれらしいことができていなかった。
滅魔達が『闇黒狭霧』を生成する為の四つの材料を集める前に、なんとしてもこれを成し遂げなければ。何でもいいから人々が窮地に陥るような、それっぽい事件でも起きてくれたらいいんだけど……。
「!」
僕が頭を悩ませていると、大広間のドアをノックする音が聞こえた。僕が「入れ」と言うと、一体の悪魔が中に入ってきて膝をついた。
「崇高な儀式の最中に申し訳ございません。少しばかりユート様のお耳にお入れしたいことがあるのですか、よろしいでしょうか?」
「構わん。話せ」
てか崇高な儀式って何? もしかして今やってるトランプのこと?
「ここ最近、人間領の各地で多数の人間が意識不明に陥る事件が多発しているそうです」
「……なに?」
「被害者は10代後半から20代前半の若者が中心で、数は300から400、まるで魂を抜かれたような状態だそうです。原因は不明ですが、何者かの所業と見て間違いないと思われます」
それっぽい事件キターーーーー!!
これだよこれ!! こういうのを待ってたんだよ!! この事件を僕が解決すれば覇王の大幅なイメージアップは約束されたも同然だ!! こんな時に喜ぶのはちょっと不謹慎かもしれないど、ようやく僕に良い風が吹いてきたぞ!!




