第25話 死の宣告
「最期に一つ聞こうか。貴様が余を殺しに来たのは天使としての矜持を守る為か? それとも誰かに依頼され、金などで釣られたか? ま、その卑しい面を見る限りでは後者の可能性の方が高そうだがな」
「……黙れ……下等生物か……!!」
ウリエルは満身創痍ながらもギロリと僕を睨みつける。
「やれやれ、さっきから下等生物下等生物と……。一体どちらが下等生物なのか、あの世でじっくり考えることだな」
僕はウリエルに向かって右手をかざした。これがこいつに対して使う最後の呪文だ。
「呪文【死の宣告】!!」
一瞬、視界が暗転する。これでウリエルは終わった。
「ひっ……!?」
ウリエルの表情が恐怖に歪む。ウリエルの身体を下の方から黒いものが蝕んでいくのが分かった。
「何だ!? 何だこれは!!」
「【死の宣告】。文字通り対象の相手に死を宣告する呪文。お前の余命は残り六十秒だ」
「……は?」
ウルエルの口がポカンと開く。やがてその身体はガタガタと震え始めた。
「嘘だ……嘘だ!! そんな反則的な呪文があってなるものか!!」
「ああ、確かに反則的だな。だからこの呪文を使用するにはMPを100000も消費してしまう。もっとも余のMPの前では些細な問題だがな」
この間にも、ウリエルの身体は黒いものによって蝕まれていく。
「は、はったりだ!! 貴様にそんな呪文があるのならもっと早く使っていたはずだ!!」
「言っただろう、お遊戯は終わりにするとな。簡単に殺してしまってはお遊戯にならないだろう。ま、ジェ○ガの次くらいには楽しめたかな」
「わ、私は信じない!! 下等生物の呪文一つでこの私が死ぬなど……!!」
「信じる信じないは貴様の自由だ。あと三十秒もすれば自ずと答えは出る。結果を楽しみにしておくがいい」
その黒いものは既にウリエルの首のあたりまで蝕んでいた。
「わ……私は……こんなところで死ぬわけには……!!」
「残念だがこんなところで死んでもらう。貴様が余の配下を手にかけていなければ命だけは助けてやってかもしれないがな」
「嫌だ……嫌だあああああーーーーー!!」
ウリエルは必死に藻掻き苦しむ。だが一度発動した【死の宣告】を止める術はない。
「本来なら【死の宣告】は発動から十秒後に対象を葬る呪文だが、死に際の台詞を考えるくらいの猶予は欲しいだろうと思い、特別に六十秒まで延長してやった。余の慈悲深さに感謝することだ」
「……!!」
「さあ、貴様の命が尽きるまで残り十秒だ。『私は七星天使の中でも最弱……』とかいう台詞を吐くなら今の内だ。余の慈悲を無駄にするつもりか?」
するとウリエルの動きがピタリと止まった。そして両手を大きく広げる。
「私は……誇り高き……七星天使の一人だあああああーーーーー!!」
ウリエルは城全体に響き渡るくらいの大声で叫んだ。
そして、呪文発動から六十秒が経過。再び視界が一瞬暗転する。ウリエルは電池が切れたロボットのように動かなくなり、そのまま地面に倒れた。もう二度とウリエルが起き上がることはなかった。
「……最期の台詞にしてはやけに陳腐だったな。だが、最後まで闘志を失わなかったその姿勢には敬意を表してやろう。安らかに眠れ、ウリエル」
僕は最後にようやくウリエルの名を口にした。
「一、余はお前の攻撃を一切防御しない。二、余はこの場から一歩も動かない。三、余は呪文を3つ以上使用しない。結局最初に提示した選択肢を全て満たした上で勝利してしまったな」
そう呟きながら、僕は周囲を軽く見回してる。すると見物していた悪魔達が全員唖然としていることに気付いた。
あれ、皆もしかして引いてる? ちょっとやりすぎたかな? でもこちらだって悪魔を数体殺されてるし、これでも手心を加えた方だろう。
「し、七星天使の一人を、まるで赤子の手を捻るように……」
「ユート様に対抗できる者がいるとしたら七星天使くらいだと思っていたが、その七星天使ですら全く歯が立っていなかった……」
「もはや天使など敵ではない! ユート様がいれば人間だけではなく天使の絶滅も夢ではないぞ!」
「覇王軍の総力をもって天使を根絶やしにするのだ!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
悪魔達の間から歓声が湧き起こった。ってちょっと待って、なんかいつの間にか天使を絶滅させる流れになってないか? さすがにそこまでやるつもりはないんだけど。もちろん人間を滅ぼうとも思っていない。
「ユート様ー!!」
するとアンリが号泣しながら僕のもとに駆け寄ってきた。
「私、感動してしまいました!! 七星天使を前にしてもあの威風堂々としたお姿は圧巻の一言でございます!! もう一生、いえ来世までユート様に付いていきます!!」
「……そ、そうか」
また来世があるとしたら今度は人間に戻りたいものだな。
「!」
ウリエルの死体に注目すると、その身体は徐々に塵へと変わっていき、やがて空気中に溶け込むようにして消滅した。
どうやら天使というのは死んだらこのように自然消滅するようだ。死体を片付ける手間が省けるから助かるな。そんなことを思いながら僕は振り返った。
「ではアンリ、大広間に戻ってジェ○ガの続きをやろうではないか。先程は負けてしまったが、次は余が勝たせてもらう」
「か、かしこまりました!」
ゲームに関してはちょっとだけ負けず嫌いな僕であった。




