第23話 覇王の蹂躙
よ……弱い……。
ウリエルのステータスを見せつけられ、僕が最初に思ったのはそれだった。七星天使の一人というから、最低でも僕と同じくらいのステータスは備えているだろうと想定していた。
しかし実際は予想の遙か下。これで天使の中で最も強い存在って……。僕の中でウリエルに対する恐怖心は完全に消滅してしまった。
「ふっ。どうやら驚きのあまり声も出ないようだな」
ウリエルは得意顔でそう言った。確かにこれは驚きのあまり声も出ない。
「これで私の言葉の意味は理解できたか? 貴様と私の間には圧倒的な力の差があることを思い知ったはずだ」
確かに圧倒的な力の差があるな。こいつの自信は一体どこから来るのやら。ウケを狙ってるんじゃないかとすら思えてきた。
「ユート様!!」
すると僕のもとにアンリが駆けつけてきた。アンリはウリエルを見て大きく目を見張った。
「あれが七星天使の一人……!! ユート様、やはりここは私が引き受けます!! ユート様はその間に避難を!!」
まったく、相変わらずアンリは心配性だな。この程度の奴を相手に心配されるようでは僕もまだまだか。まあ一番の側近であるアンリですら僕のステータスは知らないし、気持ちは分からなくもない。
「案ずるなアンリ。ここは余に任せておけ。お前も他の悪魔達と共に余の戦いを見物しているがいい」
「で、ですが……!!」
「さあ、早く下がれ。巻き込まれたくなければな」
「……はい」
アンリはしぶしぶ後退した。それを見てウリエルはククッと喉を鳴らす。
「随分と配下想いの覇王だな。だが貴様の次はこの城にいる悪魔全員を始末する予定だ。ただ死ぬ順番が変わったにすぎん」
「御託はいい。それより早く始めようじゃないか」
「そうだな。ではこれより覇王の処刑を開始する。己の非力さを噛みしめながら地獄に堕ちるがいい!」
「……ふっ」
なんだか滑稽だったので、僕は思わず笑みをこぼした。普通に戦ったら勝負にならないだろうし、このままでは面白くない。ちょっと遊んでやるか。
「これから貴様に三つの選択肢を与えよう」
僕は右手の三本の指を立てながら言った。
「……選択肢だと?」
「一、余はお前の攻撃を一切防御しない。二、余はこの場から一歩も動かない。三、余は呪文を3つ以上使用しない。この三つの中から一つを選べ。それをハンデとして貴様と戦ってやる」
するとウリエルの額にピキピキと青筋が入るのが分かった。
「どうした、早く選べ。あと五秒で締め切るぞ」
「貴様……私を愚弄しているのかあ!!」
ウリエルが右手を掲げると、頭上に〝氷の槍〟が次々と出現した。
「喰らえ!! 呪文【氷槍の裁き】!!」
数多の氷の槍が僕に向かって飛んでくる。僕は微動だにせず、ウリエルの攻撃をその全身で受け止めた。
「ユート様!!」
アンリを始め悪魔達の叫び声が聞こえる。
「ハハハハハ!! どうだ覇王、私の氷の味は!!」
ウリエルの攻撃が止んだ後、僕は自分のステータスを確認した。
HP9999999998/9999999999
「おおっ……!」
僕は感嘆の声を洩らした。覇王に転生して初めてダメージを受けてしまった。流石は七星天使の一人といったところか。
「馬鹿な、私の【氷槍の裁き】を受けて立っていられるはずが……!!」
驚愕の表情の浮かべるウリエル。
「いやいやお見事。まさか余が一ポイントもダメージを受けてしまうとはな。伊達に七星天使などと呼ばれてはいないようだ」
「一……ポイント?」
「この世界に蘇ってから余にダメージを与えたのは貴様が初めてだ。誇りに思うがいい」
「……ふ、ふふふ」
ウリエルが不気味に笑い始める。
「そうやって私の動揺を誘う作戦か? 今の攻撃をまともに喰らって一ポイントのダメージで済むはずがないだろう。実は既に立っているのもやっとのはずだ」
なかなか思い込みが激しい天使だな。よっぽど自分の力に自信があるのだろう。
「やせ我慢がいつまでも通用すると思うな!! 呪文【氷塊乱舞】!!」
今度はいくつもの巨大な〝氷の塊〟が僕の視界を埋め尽くし、僕に襲いかかってきた。どうやらウリエルは氷系呪文の使い手のようだ。
HP9999999995/9999999999
再度ステータスを確認する。今度は3ポイントのダメージか。まあ、さっきよりは少しだけマシだな。
「い、一体どうなっている!? 何故倒れない!? 何かの呪文で身を守っているのか!?」
「安心しろ。余はまだ呪文など一度も使用していない」
「なんだと……!?」
ウリエルの表情が大きく歪んだ。こいつのステータスがあまりにもアレだったから、もしかしたらステータスを補って余りあるほど所持呪文が強力なのかもしれないと考えていたが、その線もなさそうだ。少しでも警戒していた自分が馬鹿らしくなった。
「凄い……七星天使の攻撃を者ともしていない……!!」
「流石はユート様だ……!!」
悪魔達の間からはこんな声が聞こえてくる。
「く、くそおっ!!」
僕に呪文が効かないと悟ったのか、ウリエルは右手に〝氷の剣〟を生成し、僕に向かって突進してきた。
「死ねえええええ!!」
「ぐっ!?」
ウリエルの氷の剣が僕の胸に炸裂した。
「は、ははははは!! やはり呪文以外ならば効くようだな!!」
「……貴様の目は節穴か?」
氷の剣は僕の胸に刺さってすらいなかった。当然僕へのダメージは0。代わりに氷の剣に亀裂が生じ、バラバラに砕け散った。
また無意識に「ぐっ!?」なんて声を出してしまった。中身が人間のままなせいか、こういうのは何度経験しても慣れないな。
「ば……馬鹿な……!!」
「氷槍なんとかや氷塊なんとかの方がまだ楽しめたぞ。さあ、次はどうする?」
「く、くそお!! くそお!!」
ウリエルは氷の剣を生成しては斬りつけ、生成しては斬りつける。依然として僕はノーダメージ。もはや苦し紛れにしか見えない。
僕は溜息をつく。そして蚊を追い払うように、右手を軽く振った。
「ぷぎゃっ!!」
ウリエルは大きく吹っ飛び、入口横の壁に激突した。直後、ウリエルの身体は壁から剥がれ、ドサリと地面に落ちる。
「お……おのれえ……!!」
ヨロヨロと起き上がるウリエル。なんだか逆に可哀想になってきた。




