第221話 スーとデート!?
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サーシャのアジトでリナの手料理をご馳走になった後、僕はスーと一緒に近くの町までやってきた。その目的は――なんとスーとデートをするためである。僕が「お詫びに何でもする」と言った結果、驚くことにスーは僕とのデートを所望したのだ。
「ユート、なんだか浮かない顔してる。せっかくのデートなんだから、もっと楽しそうにしないと」
「そ、そう言われてもな……」
他の女の子とデートなんて、セレナが知ったらどうなるやら。おまけに以前セレナとデートした時と同じ町だ。
「なあ、スー。やっぱりこういうことって良くないんじゃ……」
「え? 何でもするって言ったのに?」
「うっ」
僕が自分から言い出した手前、何も言い返せない。だけど僕の失態でスーが【憑依】を失ったのは事実だし、これでスーが満足してくれるのなら……。
「ユートは私とデートするの、嫌?」
「嫌ってわけじゃないけど……。と、とにかくこのことは絶対セレナには言うんじゃないぞ!?」
「……もう遅いと思う」
「え? もう遅いってどういう――」
スーが後ろをチラ見したので、僕も釣られて同じ方に顔を向けた。
「なっ……!?」
なんと数メートル先に、バレバレの変装をしたセレナとリナの姿があった。なんか背後から覚えのある気配がすると思ったら……まさか僕達の後を付けてきたのか!?
「セ、セレナさん。どうしてお二人の尾行を……?」
「だって二人きりで町へ買い物に行くなんて、どう考えたって怪しいじゃない! もしかしたら私達の知らない間に深い関係になったかもしれないのよ!? ラファエのことだってあるし!」
「そんなことはないと思いますけど……。ところで、どうして私まで?」
「リナだって自分のお兄さんが浮気を疑われるのはモヤモヤするでしょ!? 本当にただの買い物かどうか私達で見極めるのよ!」
「わ、分かりました……」
しかも会話まで丸聞こえである。変装もただ帽子と眼鏡を身に着けてるだけだし、尾行ならもっと上手くやってほしいものだ。
「それはそうと、スーはどうして僕をデートに誘ったりしたんだ? もしかして実は僕に気があったりとか――」
「残念ハズレ」
違った。なんか自意識過剰っぽくて凄く恥ずかしいんだけど。
「もっともユートにその気があるなら、私も応えてあげてもいいけど」
「またそういう冗談を……」
「冗談だと思う?」
澄んだ瞳でスーが僕を見つめてくる。えっ、まさか本気で……?
「なんちゃって。ユート、顔が赤くなってる」
こ、こいつめ……!! スーの悪ふざけにも耐性がついてきたとか言ったけど、気のせいだったかもしれない。
「で、結局なんで僕とデートしようと思ったんだよ」
溜息交じりに僕が尋ねると、スーは再び後方にいるセレナ達をチラ見した。
「あんなふうにヤキモチを焼いてるセレナが可愛くて、見ていて面白いから」
「……前から思ってたけど、スーってSだよな」
「何言ってるの?」
珍しく険しい顔つきで僕を睨みつけるスー。しまった、気を悪くさせたか? そりゃ面と向かってSとか言われたら良い気はしないよな。ここは謝っておこう――
「私はSじゃない。ドSなの」
「……さいですか」
一瞬でも罪悪感を抱いた僕が馬鹿だったよ。
「それに私、こうして男の子と二人で町を歩いたことないし、ちょっとした憧れでもあったから」
「……へえ、そうなのか」
「欲を言えば、もっと高身長のイケメンがよかったけど」
「悪かったな、高身長のイケメンじゃなくて」
だけど意外だな。スーは何を考えてるか分からないところもあるけど、見た目はかなり可愛いし結構モテそうなのに。そんなことを思っていた矢先、スーが右手を差し出してきた。
「ねえユート。手、繋がない?」
「は!? なんでだよ!?」
「だってデートなんだし、それくらいしないと不自然だと思う」
「そうは言ってもセレナ達が見てるし……」
いや、見ているからこそ提案しているのか。手なんか繋いだらセレナは大いに動揺するだろうし、確実にそれが狙いだろう。
「それにこの町はナンパも多いって聞くし、私の身の安全のためにもちゃんとカップルのフリをした方がいいと思う」
そこまでする必要ないだろと言いたいところだけど、以前セレナとのデート中に不良に絡まれたこともあったしな……。
「ど、どうしても繋がないと駄目か?」
「どうしても。ほら」
スーが無理矢理僕の手を握ってきた。スーの手、少しヒンヤリしてるけど柔らかくて気持ちいい――っていやいやいやこんな時に何を言ってるんだ僕は。
「がはっ!!」
次の瞬間、背後で誰かが吐血するような音がした。振り返るまでもなくセレナだと分かった。
「セレナさん!? 大丈夫ですか!?」
「うぐっ……やっぱりスーと浮気してたのね……!」
「まだそうと決まったわけじゃ……」
「決まりでしょ!? だってただの買い物だったら手を繋ぐ必要ないじゃない!!」
「もしかしたら、スーさんが男の人から声を掛けられないようにカップルのフリをしているだけかもしれませんし……」
まさにその通りだリナ! もっと言ってくれ!
「そ、そうかしら……? まあ、その可能性もなくはないだろうけど……」
「だからまだ浮気だと決めつけるのは早いと思います。もう少し様子を見てみましょう」
「……そうね」
リナのおかげでひとまず窮地は切り抜けたようだ。流石は僕の妹(仮)。しかしこれ以上誤解を招くような行動は避けなければ……。
それから僕とスーは花屋で色とりどりの花を観賞したり、服屋で気に入った服を着てみたりなど、この町の様々な場所を見て回った。まさにデートって感じだ。まあ、この間もセレナ達の尾行は続いてたので、終始気持ちは落ち着かなかったけれども。
「ユート。歩き疲れたからどこかで休憩したい」
「えっと……ならあの店に寄るか?」
僕が近くの喫茶店を指差すと、スーはコクリと頷いた。今のところスーは手を繋ぐ以上のことはしてこない。このまま無事にデートが終わってくれることを祈ろう。




