第22話 七星天使の襲来
二つのクエスト(という名のバイト)を終えた、同日の夜のこと。
「あっ……ダメですユート様……まだ抜いたら……」
「どうしたアンリ。緊張しているのか?」
「はい……初めてなので……」
「だが余はもう我慢の限界だ。そろそろ抜かせてもらう」
「あっ……そこは……ああっ……!!」
「……ふう。ギリギリセーフだな」
僕とアンリは今、覇王城の大広間でジェ○ガをしていた。もちろんこのジェ○ガは僕の【創造】の呪文で生成したものである。
「ところでユート様。無知で申し訳ないのですが、これは何という遊びなのでしょうか……?」
「ジェ○ガだ。一見単純そうだが、なかなか奥が深いゲームだ」
アンリの反応を見る限り、どうやらこの世界にはこういった遊びは存在しないようだ。
「お前もずっと余の前で膝をついているだけでは退屈だろうと思ってな。たまにはこういうのも良いだろう」
「退屈だなんてそんな……私はユート様の傍にいられるだけで幸せですから……」
「それともこの遊びはつまらないか?」
「い、いえ! そんなことはありません! 凄く楽しいです!」
「ならばよい。さあ、次はお前の番だ」
実際ずっと玉座に座ってるだけというのはかなりしんどいからな。就寝にはまだ早いし暇潰しにはちょうどいい。
それに実はバイトを終えて大広間に戻ってくる前、こっそり自分の部屋で数時間寝ちゃったからあまり眠くないんだよな。おかげでMPもすっかり全回復である。
「ふう、なんとか抜けました……」
タワー全体をグラグラと揺らしつつも、アンリはブロックの一本を抜いた。なかなかやるなアンリ。
「ちなみにユート様、このゲームに負けた者はどうなるのでしょうか? まさか自害ですか?」
ただのジェ○ガがデスゲームに!?
「別にどうもしない。しかしまあ、何か決めておいた方が盛り上がるかもしれんな」
「何か……はっ! でで、では、もし私が勝ったら、ユート様と、けけ、け、けっこ、ここ……!!」
「ん?」
「い、いえ!! 何でもございません!!」
アンリは顔を真っ赤にしてブンブンと手を振った。その風圧でタワーが倒れそうになるが、なんとか持ち堪えてくれた。
さて、次は僕の番だ。しかしゲームは終盤、もはやどこのブロックを抜いても崩れてしまいそうな気がする。
だが僕にもプライドがある。初めてジェ○ガをするアンリに負けるわけにはいかない。僕の高度なテクニックを見せてやるぜ!
「ユート様!! ご報告申し上げます!!」
すると一体の悪魔が大広間のドアを勢いよく開けた。その振動でタワーがガラガラと崩れ落ちる。
しばらく呆然としてしまう。僕の番で崩れたってことは……。
「……余の敗北だ。潔く自害しよう」
「お、落ち着いてくださいユート様!! こんなことで自害する必要はございません!!」
まあもちろん冗談だけど、いつも些細なことで自害しようとするアンリに止められるとは。アンリはその悪魔の方をキッと睨みつける。
「貴様、なんてことをしてくれたのだ!! 今すぐ自害せよ!!」
「えっ!? も、申し訳ございません!!」
その悪魔から「何か悪いことした……!?」という心の声が聞こえてきくるようだ。
「控えろアンリ。其奴も悪気があったわけではないだろう」
「ですが……!!」
「それより報告とは?」
「は、はい! 天使と思われる男が一名、城の入口から侵入してきました!!」
「……天使だと?」
話だけならこの世界に転生したばかりの頃に聞いたことがあったが、まさか本当に実在したとは。
「天使!? まさか七星天使の一人か!?」
「はい、自らを七星天使の一人ウリエルと名乗っています……!!」
アンリは目を大きく見開いていた。こんなに取り乱したアンリを見るのは初めてだ。どうやら七星天使というのは相当ヤバい存在のようだ。
「七星天使が直接城まで乗り込んでくるとは……!! すぐに私が行く!! ユート様はここで待機を!!」
「待て」
僕はアンリの肩に手を置いた。
「ここは私が対処しよう。七星天使がどういう輩か興味がある」
「で、ですが七星天使の狙いは十中八九ユート様です!! ユート様の御身に万一のことがあったら――」
「ふっ。お前は余が天使一匹如きに敗れると思っているのか?」
「そ、それは……!!」
「心配するなアンリ。余を誰だと思っている」
とは言ったものの、ウリエルという奴のステータスや能力は全くの未知数。なんか名前の響きから既に強そうだし、もしかしたら覇王である僕をも上回る存在かもしれない。恐怖心が全くないと言ったら嘘になる。
だがアンリ達に全部任せて僕一人だけ膝を抱えて待機、なんてことはできない。覇王に転生した以上、僕には悪魔達を守る義務がある。
「では参るとするか」
僕は【瞬間移動】を使い、城の入口に移動した。
そこには背中に大きな白い翼を生やした男が一人、大勢の悪魔に取り囲まれているのが見えた。あいつがウリエルか。なんか見るからに強そうなんだけど。
「ユート様だ!」
「ユート様がいらっしゃったぞ!」
悪魔達が騒ぎ立てる。するとウリエルは僕を見て不気味な笑みを浮かべた。
「……貴様が覇王か」
僕の背筋に悪寒が走る。だが恐がってはダメだ。ここは覇王らしく対応しないと。
「いかにも、余が覇王だ。貴様は七星天使の一人だと聞いているが」
「そう。この私こそ天使の頂点に君臨する七星天使の一人、ウリエルだ」
天使の頂点ってことは、天使の中で最も強い存在ってこと? なんかますます不安になってきた。だけど今更引き下がるわけにはいかない。
「お前達。巻き込まれたくなければ下がっていろ」
「は、はい!」
悪魔達が一斉に壁際に移動し、僕とウリエルが距離を置いて向かい合う。
「わざわざ遠い所からご足労だったな。お茶の一つも出してやれず申し訳ない」
「こちらこそ、こんな夜分に邪魔をしてすまない。地上を観光していたらすっかり遅くなってしまってな。土産に覇王の首でも持ち帰ろうと思い、この城に寄った次第だ」
やはり狙いは僕か。
「ああそれと、この城に入ろうとしたら数体の悪魔がいきなり攻撃してきたものだから、思わず全員殺してしまったよ」
僕の眉がピクリと動く。よく見るとウリエルの右手が血で赤く染まっていた。
「本当は半殺しにするつもりだったが、あまりに弱すぎたものでな。だが先に仕掛けてきたのは悪魔達なのだから、これは立派な正当防衛だ。悪く思わないでくれ」
「……気にするな。来客をもてなす教育が行き届いていなかった我々にも非がある。それで、この城に何の用だ?」
「さっきも言っただろう、土産に覇王の首を持ち帰ると。私はお前を殺しに来たのだ」
「……なるほど。ではこれから余が貴様に対して行うことも、正当防衛ということでいいのだな?」
僕の中には静かな怒りが芽生えていた。だがこいつの実力が分からない以上、一瞬たりとも気は抜けない。
「ふっ、笑わせるな覇王。貴様ごときでは私の攻撃をまともに防衛することすらできん」
「……どういうことだ?」
「まだ理解できないか。ならば私のステータスを刮目し、恐れおののくがいい。ステータス開示!」
ウリエルの頭上にステータス画面が表示された。
ウリエル Lv999
HP67908/67908
MP30976/30976
ATK653
DFE854
AGI523
HIT612
「……は?」
僕はキョトンとしてしまった。ウリエルのステータスを見た後、僕は改めて自分のステータスを確認してみた。
覇王 Lv999
HP9999999999/9999999999
MP9999999999/9999999999
ATK99999
DFE99999
AGI99999
HIT99999




