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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編
212/227

第212話 覇王vsキエル

 最初に動いたのは僕。キエルに向けて疾駆し、拳を何度も繰り出す。僕のATKの数値なら一度でも拳が炸裂すれば、それで勝負は決する。


 しかしながら、一度としてキエルには当たらない。まるでこちらの動きを予知しているかのように、キエルは僕の拳をかわし続ける。僕のAGIとHITの数値を考えれば、僕の拳に反応することなど常識では不可能だ。信じがたいことだが、キエルは僕の攻撃を直感と動体視力だけで見切っていることになる。



「……っ」



 それに加え、頻繁に立ち眩みが襲ってくるせいで意識が途切れそうになる。やはり【事象変換】の反動の影響は大きい。だがキエルを相手に一瞬でも隙を見せれば、それが命取りとなるだろう。



「動きに無駄が多いな。近接戦闘に関しては素人だと自白しているようなものだぞ。おおかた、己のステータスに慢心して鍛錬などロクに積んでこなかったのだろう」

「……フッ。耳が痛い話だ」



 覇王城でアンリ達とトランプやドミノをして過ごした日々が脳裏を過ぎる。遊んでばかりだったツケが今になって回ってくるとはな。確かにいくら攻撃値が高くても、攻撃が当たらなければ意味はない。



「俺はこれまで幾多の戦場を乗り越えてきた。戦闘経験なら俺の方が遙かに上だ。どうたらこの勝負、俺の方に分があるようだな」

「フン、何が幾多の戦場だ。どうせ全部ただのバイトだろう」

「俺のバイトが接客業や風船配りだけだと思ったら大間違いだ。噴火山から鉱石を掘り出すバイト、深海に潜むモンスターを仕留めるバイト、地上に落下してきた隕石を粉砕するバイト……。ありとあらゆるバイトをこなしてきた歴戦の戦士だ」



 それもうバイトって言わないよね?



「さて、無駄話はここまでにしようか。次は俺の番だ」



 キエルは瞬時に僕との距離を詰め、僕の胸部に拳を叩き込んだ。避けようと思えばできたが、敢えて僕はその拳を喰らった。



「むっ……」



 キエルが顔をしかめる。常人ならば全身が四散するほどの威力だろうが、僕へのダメージは微々たるものだった。僕のDEFを数値を考えれば当然と言える。キエルは後方に跳び、再び僕との距離をとった。



「……さすがに固いな。本気の一撃だっただけに、今のは少し堪えたぞ」

「いや、拳だけで余にダメージを与えるとは大したものだ。誇りに思うがいい」

「そいつは結構。ならば……」



 キエルは大きく息を吐くと、目の前で右の拳を強く握りしめた。



「呪文【渾身の拳】!」



 そして呪文を詠唱し、キエルの拳が紅蓮の炎に包まれる。ここで呪文を使ってくるか。どんな効力があるのか分からない以上、今度は安易に拳を受けない方が――



「!」



 するとキエルは左手を使い、近くに転がっていた大きめの石を僕に向けて放り投げてきた。僕は反射的にそれを手の甲で打ち砕く。その一瞬の隙を突いてキエルは疾駆し、僕の胸部に二度目の拳を炸裂させた。



「ガハッ……!!」



 何本もの骨が砕ける音と共に、僕は地面を転がった。



「【渾身の拳】の効力は至極単純、拳の威力を10倍に引き上げる、ただそれだけの呪文だ。だが単純であるが故に、俺の戦闘においては抜群の相性を誇るのだ」

「……ゲホッ……その……ようだな。今のは効いたぞ……」



 僕は口の端から流れ出る血を拭いながら、どうにか立ち上がった。



 覇王 HP20/9999999999



 HPも瀬戸際まで削られてしまった。全身が悲鳴を上げているのが分かる。立ち上がれただけでも奇跡と言えるだろう。次にキエルの拳を喰らえば、今度こそ僕は死ぬ。


 だが不思議と恐怖心はなく、むしろ感心すら覚えていた。拳の一撃でここまで僕にダメージを与えた者は今までいなかった。



「認めてやる。貴様は余の……最初で最後のライバルだ」

「覇王のライバルか。俺も随分と出世したものだな」



 口角を上げながら、キエルは紅蓮の拳を握りしめる。次の一撃で決める気だろう。



「さあ、どうする覇王。お前にはまだ呪文一回分のMPが残っているのだろう? どうせなら最後の足掻きとして使ったらどうだ。もっとも、どんな呪文がこようと突破してみせるがな」

「……そうだな」



 おそらくその呪文の使い道が勝敗を分けることになるだろう。だが、どの呪文を使う? 攻撃系呪文か、それとも防御系呪文か。いや、キエルならどちらも容易く対処してくるに違いない。並の発想ではキエルには勝てない。


 考えろ、キエルの意表を突く方法を。【瞬間移動】でキエルの背後に回って――いや、この程度の発想では駄目だ。それくらいキエルなら読んでいるはず。完全にキエルの意表を突くには――



「いくぞ、覇王」



 決着をつけるべく、キエルが駆け出す。呪文を使うタイミングは今しかないと、僕の直感が告げる。



「呪文――」



 そしてキエルが拳を振るう直前、僕は使うべき呪文を導き出した。それは攻撃系呪文でも防御系呪文でも、転移系呪文でもない。僕が選んだ呪文は――



「【変身】!!」



 僕の姿が、一瞬にして覇王から阿空悠人へと変化する。



「何っ!?」



 瞠目するキエル。完全に想定外、といった顔だ。まさかこのタイミングで【変身】を使うなど予想だにしなかっただろう。


 阿空悠人の姿になったことで等身が大幅に下がり、キエルの拳が空を切る。そして――ガラ空きになったキエルの腹部に、僕は右の拳を炸裂させた。



「……っ!!」



 キエルは大きく宙を舞い、地面に倒れ伏した。この一撃が決め手となり、キエルが起き上がることはなかった。


 同時にそれは、この闘いに決着がついたことを意味していた。



「……僕の勝ちだ。キエル」

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