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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編
210/227

第210話 魂の解放

『終わりましたね、ユートさん……』

「……ああ」



 僕は肩の力を抜いて、大きく息をついた。ついに、やり遂げた。僕は――いや僕達は、世界を救うことができたんだ。


 ただし犠牲は大きかった。幻獣の【絶滅世界】によって多くの人々が死してしまったのも事実。それがこの闘いにおける最大の失態だ。


 そして幻獣が消滅した跡には、無数の浮遊物が残存していた。



『ユートさん、これって……』

「おそらくは、幻獣復活の際に生贄にされた魂だろう」

『! それじゃ……』

「ああ」



 内なるラファエの魂からも喜びが伝わってくる。程なくしてそれらは世界中に拡散していった。全ての魂が、還るべき肉体のもとへ向かったのだろう。これでセレナの姉やサーシャの父を始め、魂を奪われた人々は直に目を覚ますはずだ。


 すると一つだけ、この場に取り残された魂があった。還るべき肉体がなく、どうすることもできないのだろう。それが誰の魂か、もはや考えるまでもない。僕はその魂にゆっくりと近づいていく。



『……は、はは! まさか幻獣を葬っちまうとはなぁ! 流石は覇王様! この俺を倒しただけのことはある!』



 念話によるガブリの声を聞き流しながら、僕はその魂を右手で鷲掴みにした。



『ま、待て待て!! 早まるんじゃねえ!!』



 僕が何をしようとしているのか察したらしく、ガブリが動揺した声を上げる。



『く、くく。ラファエのことは気にかけておきながら、俺のことは見捨てるってか? 差別はいけねーなぁ。それによく考えてみろよ、ここで俺を消しても覇王様には何のメリットもねーだろ?』

「……それで?」

『ラファエと同じように、俺の魂も取り込んでくれよ! 覇王様の力と俺の悪知恵が合わさればまさに無敵だ! この世界を支配することなんざ容易いぜ!』



 思わず僕は笑みをこぼした。



「なるほど。それは面白そうだな」

『だろ!? 流石は覇王様、器が大き――』



 そこでガブリの声が途切れる。僕がガブリの魂を渾身の力で握り潰したからだ。



『ギャアアアアアアアアアア……………!!』



 断末魔の叫びを響かせながら、ガブリの魂は消滅した。まったく、こいつには最後の最後まで煩わされたな。



『ガブリさん……』



 ラファエの声からは、少なからず悲しみの感情が伝わってきた。自らを死に追いやった相手を悼むとは、なんともラファエらしい。



「ラファエよ。魂の状態で念話を続けるのは疲れるだろう。そろそろ休んだらどうだ?」

『……そうですね。では、お言葉に甘えさせてきただきます……』



 念話が途切れ、ラファエの魂は暫しの眠りについた。さて、問題はこれからラファエの魂をどうするかだな。ガブリ同様、ラファエにも還るべき肉体がもうこの世にはない。かと言ってずっと僕の体内に取り込んだまま、というわけにもいかないし……。



「!」



 背後からの足音に振り返ると、キエルが覚束ない足取りで僕のもとまで歩み寄ってくるのが見えた。



「キエル、もう平気なのか?」

「……ああ、問題ない。それよりも、まさか本当にあの幻獣を倒してしまうのはな。流石は覇王、と言っておこうか」

「勘違いは困るな。この勝利は余一人のものではない。幻獣を葬ることができたのは、皆の力があったからだ。無論キエル、お前もな」

「フッ。大して役に立った覚えはないがな……」



 僕とキエルは遠くの空を見つめる。長かった夜が終わり、世界は朝焼けの色に染まり始めていた。



「さて、覇王よ。幻獣は滅び、残すは俺とお前の決闘のみだ。どうだ、この場で決着をつけるというのは?」



 思わぬキエルの発言に、僕は瞠目した。



「本気で言っているのか?」

「当たり前だ。何の為に俺がお前に力を貸したと思っている。全てはお前との決着をつける為だ。今なら邪魔が入る心配もないしな」

「……フッ」



 無意識に口角が上がる。幻獣を葬ったばかりのこの状況で僕に闘いを挑むなんて、まったくどうかしてる。しかしまあ、キエルは最初からそういう奴だったな。


 今にも決闘に臨まんと、両目に闘志を燃やすキエル。だが一方の僕は――



「悪いがキエル。余はもう、お前と闘うつもりはない」

「……何?」



 今度はキエルが瞠目する番だった。



「以前余が貴様との決闘の約束を交わしたのは、貴様を倒せば囚われた人々の魂を解放する、という条件があったからだ。だが人々の魂が解放された今、もはや貴様と闘う理由はなくなった」



 これまでの闘いには、何かしらの意味や目的があった。だがキエルとの決闘にはもう、何の意味も目的も存在しない。



「たとえ命のやり取りになろうとも、拳を交えるのに理由など必要ない。それが俺の主義だ」

「余と貴様の主義は違う。かつて余は、この手で五万の人間を亡き者にした。あのような過ちを繰り返さない為にも、二度と無意味な殺傷はしないと誓っている」



 過去の悲劇を思い起こしながら、僕は自らに言い聞かせるように言った。



「殺さない程度に加減してもいいのであれば、受けてやらんこともないが……。そんな決闘など貴様は望まないだろう?」

「……当然だ。互いの全力をぶつけ合ってこその決闘だ」

「ならば尚更だ。期待を裏切るような真似をしてすまないが、余は貴様とは闘わない。悪く思うな」



 短い沈黙の後、キエルは口を開けた。



「無意味な殺傷はしない……か。なら逆に、意味があれば話は違ってくるわけだ」

「……?」



 キエルの真意を測りかねていると、キエルが右ポケットから〝ある物体〟を取り出した。何かの生物の目玉のようだ。



「……それは?」

「知らないのか? これは〝エンダードの眼〟と呼ばれるものだ」

「!!」



 そのワードにはハッキリと聞き覚えがあった。人間の死体を半悪魔に変えるという『闇黒狭霧』――それを生成する為に必要なのが〝ガンドルの牙〟〝エンダードの眼〟〝ヒュトルの爪〟〝ギラフの翼〟という四つの材料。キエルが手にしているのは、まさにその一つだった。

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