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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編
205/227

第205話 二重の策

「…………」



 一方セレナは、目を覚ましてからというもの、苦しげな表情で口を噤んでいた。



「どうしたセレナ。具合でも悪いのか?」

「……そういうわけじゃないんだけど、なんだか胸が凄く痛いの……」



 そう言って、胸の前で右手を握りしめるセレナ。



「なんでだろう。ユートの苦しみが伝わってきてるような、そんな気がする……」

「おいおい、こんな時まで彼氏の心配かよ。って茶化したいところだが、実はオレもなんだよな。何故だかアイツが苦しんでるのが分かるっつーか……」

「私も。さっきから胸がズキズキする」

「私もです……」



 この場にいる全員が同じ痛みを共有していた。これは単なる偶然ではないだろう。


 ここがユートの呪文によって創り出された空間だとしたら、この空間を通じてユートの感情が私達の心にも波及しているのかもしれない……そうサーシャは考えた。



「もしかしたらアイツは今、何か強大な敵と闘っているのかもしれないな……」

「ユートが……!?」

「それが本当ならこんな所で駄弁ってる場合じゃねーだろ! 今すぐユートを助けに行かねえと!」

「でも、この空間からどうやって出るの?」

「うっ、それは……。おいサーシャ、お前の力でなんとかならねーのか!?」

「……さすがの私でもどうにもならん」



 力無くかぶりを振るサーシャ。【地獄の黒渦】によって亜空間に幽閉された者は、呪文を発動した本人が死ぬか、もしくは呪文を解除しない限り、そこから出ることはできないのである。



「くそっ。アイツが苦しんでるって時に、俺達はここで突っ立ってることしかできねーのかよ……!!」



 己の無力さに、アスタ達は悔しげに俯く。



「……いや。ここから出られなくとも、私達にできることはあるかもしれない」



 重苦しい空気の中、サーシャが言った。



「ほ、本当なのサーシャ!?」

「ああ。ユートの力になれるかどうかは分からないが、試してみる価値はある……」




  ☆




 幻獣との闘いを始めてから、一体どのくらいの時間が経っただろうか。僕は今、仰向けの状態で地面に倒れていた。



《……ようやく諦めたか》



 もはや僕に起き上がる気力はないと悟ったのか、幻獣がそう呟く。



《貴様の前身であった男ですら、我を葬ることは叶わず、封印という手段を執らざるを得なかったのだ。なのに何故貴様ごときが我を葬れると思った?》

「…………」

《いくらあの男と同じ力を有しているとはいえ、中身が下等な人間の魂とあっては、力を最大限に行使することもできはしないだろう。最初から身の程を弁えておけば、余計な苦しみを味わわずに済んだというのに》

「……そうかもしれんな」



 否定もせず、僕はそう答えた。



《だが、世界を滅ぼす前の肩慣らし程度にはなった。礼として死に方くらいは貴様に選ばせてやろう。我の手で葬られるか、自害して果てるか。どちらかを選ぶがいい》

「……何を言っている?」



 僕はゆっくりと立ち上がり、再び幻獣と対峙する。



「どうやら勘違いをしているようだな。余は〝諦めた〟などと言った覚えはないぞ」

《……何だと?》

「言ったはずだ。この魂が砕かれぬ限り、余の闘志が消えることはないと」



 僕の言葉に、幻獣は戦慄の表情を浮かべた。



《何故だ……何故そこまで我に抗う? 貴様は異世界より転生した人間だと言ったな。ならばこの世界がどうなろうと関係ないはずだ。なのに何故――》

「違うな」



 僕は毅然と言い返した。確かに元々僕はこの世界の人間じゃない。だけど僕がこの世界で過ごした時間、この世界で出会った者達は、紛れもなく僕が存在する上で欠かすことのできない大切な要素だ。関係ないはずがない。



「余が存在する限り、貴様にこの世界を滅ぼさせはしない」

《見苦しい……!! ならばこの呪文で引導を渡してやろう! 呪文【絶望の宣告】!!》



 僕の足下に巨大な魔法陣が出現し、真紅の光が僕の全身を包み込んだ。苦痛はないのでダメージを与える系統の呪文ではないようだ。ならば一体――



《この呪文によって、貴様が我の前で発動した呪文は全て貴様の中から消滅した》

「何……!?」



 僕が奴の前で発動した呪文、つまり【未来贈与】と【生命の光】の復活コンボだけではなく【地獄の黒渦】や【大火葬】といった呪文も全て、僕の所持呪文の中から消滅したことを意味していた。



《どうだ、これでも闘志が消えることはない、などと豪語できるか?》

「……フッ。ククッ……」



 思わず僕は笑い声を洩らしてしまう。



《……何が可笑しい? 絶望のあまり気が狂ったか?》

「ようやくだ。余はこの時を待っていた……!!」



 確かに主要呪文の多くを失ったことは痛い。だがそれを帳消しにするくらいの勝機がついに訪れたのだ。



「先程、余は貴様の体内からかつての覇王の魂を奪い取ることで貴様の弱体化を狙った。その策は失敗に終わったわけだが、それで希望が絶たれたわけではない。何故なら余は二重に策を弄していたのだからな」

《……!?》

「本命は二つ目の策の方だ。そして貴様は今、その策に嵌った」

《貴様、何を言って――っ!?》



 幻獣の言葉が止まる。どうやら奴も異変に気付いたようだ。



「どうだ、今の気分は? 尋常ではない脱力感に襲われているはずだ」

《くっ……何だこれは……!?》



 幻獣 Lv IMMEASURABLE


 HP 2000/2000

 MP 2000/2000

 ATK 100

 DFE 100

 AGI 100

 HIT 100



 公開状態のままになっていた幻獣のステータスにも明かな変化が見受けられる。どの数値もIMMEASURABLEとなっていたステータスが、今ではご覧の有り様だ。



《貴様……何をした……!?》

「【弱者世界】。ステータスを強制的に補正させる呪文だ」

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