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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編
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第198話 無数の黒渦

「なんだこれは……!?」



 嫌な胸騒ぎを感じてアジトの外に出ていたサーシャは、漆黒に塗り潰されていく世界を目の当たりにして驚愕の声を上げた。隣りにいたリナにも戦慄が走る。



「サーシャ! リナ!」



 同じく尋常ではない異変を感じたのか、セレナも外に飛び出してサーシャ達のもとに駆け寄った。アスタとスーも後に続く。



「おいおい、何が起こってんだこりゃ……!?」

「……あくまで推測だが、何者かが規格外の呪文を発動したことによる現象だろう」

「規格外の呪文、ってどんな……?」



 スーの問いに、サーシャは力無くかぶりを振る。



「そこまでは分からない。ただこの有り様だと、世界の滅亡くらいは覚悟しておいた方がいいかもしれないな……」

「はあっ!? おいおい冗談じゃねーぞ、童貞のまま世界が滅ぶとか死んでも死にきれグヘアッ!?」



 スーの肘鉄を腹にお見舞いされ、アスタはその場にうずくまる。



「サーシャの力でどうにかできないの?」

「無茶言うな……さすがの私でもどうにもならん。私達にできることといったらもう、黙って行く末を見届けることくらいだろう」



 諦観したようにサーシャは言った。



「ユート……」



 胸の前で右手を握りしめ、セレナは呟く。ユートが幻獣との闘いの最中にあることなどセレナは知る由もない。それでもセレナは、ユートが今まさに強大な敵に立ち向かっている――そんな予感がしていた。




  ☆




 幻獣が【絶滅世界】を詠唱してから、約60秒が経過した。【絶滅世界】の発動まで半分を切った。その間僕はというと、何もせずただ無言で俯いていた。



《どうした、諦めたのか? どうせなら最後まで足掻いてみたらどうだ?》



 幻獣が挑発してくるが、僕は動かない。120秒という短い時間で幻獣を葬ることは無理だと判断した僕は、無駄に抗うことはせず、その時間を思考に費やすことにしたのである。


 間もなくこの世界に存在する全生物に10万のダメージが下される。そうなれば僕以外の全ての者が死ぬことになるだろう。セレナも、リナも、あらゆる悪魔も人間も。そして僕が【未来予知】で視た、世界の滅亡が現実のものとなる――


 ふざけるな。あれは世界が滅亡した未来などではない。それを僕が証明してやる。


 僕は確固たる意志と共に顔を上げた。【絶滅世界】の発動まであと30秒。色々考えたが、やはりこの方法しかない。



「呪文【地獄の黒渦】!!」



 先程アンリ達に対して使用した、亜空間へと呑み込む混沌の渦。それを僕は上空に発生させた。



《ふん。我を亜空間に幽閉しようという腹か。その程度の呪文が我に通用すると思っているのか? そもそも我を葬らない限り【絶滅世界】の発動は止められ――》

「誰が貴様を幽閉すると言った?」

《……何?》



 そう、僕が【地獄の黒渦】を発動したのは幻獣を幽閉する為ではない。僕は黒渦を発生させ続け、その数を無数に増やしていく。僕の狙いに気付いたのか、幻獣は驚愕を露わにした。



《まさか貴様、この世界の全生物を亜空間に幽閉するつもりか……!?》

「ご名答」



 亜空間なら【絶滅世界】によってダメージを受けることはない。一度に膨大なMPを消費した反動で全身が引き裂かれそうな感覚に陥るが、歯を食いしばってなんとか堪える。僕は30秒の間に可能な限り黒渦を世界中に発生させ、生物を亜空間へと呑み込ませた。


 そして詠唱から120秒が経過し、幻獣の【絶滅世界】が発動する。上空から漆黒の稲妻が降り注ぎ、僕の身体に直撃した。



「ぐっ……!!」



 10万のダメージが僕を襲ったが、僕にとっては大したダメージではない。しかし無数に【地獄の黒渦】を発生させた代償は大きく、MPの消耗は甚大なものだった。



《……理解に苦しむな。有象無象の下等生物共を守る為にそこまで身を削るとは。驚くのを通り越して呆れたぞ》

「勝手に呆れているがいい……」



 ただ、いくら僕でも世界のありとあらゆる場所に黒渦を発生させるのは不可能だった。守ることができたのは良くて八割。残り二割の生物は【絶滅世界】によるダメージを免れず、死んでしまっただろう。僕は悔しさに歯噛みする。



《だが貴様が死ねば【地獄の黒渦】も効力を失い、亜空間に幽閉されていた者共はこの世界に舞い戻るはず。その時我が再び【絶滅世界】を発動すれば、今度こそ全ての生物が死に絶える。所詮、貴様がやったことはその場凌ぎでしかない》

「……それは余が死んだ場合の話だろう。悪いが余は死ぬつもりなど毛頭ない」



 僕は幻獣に毅然と宣言した。



《この期に及んでまだ抗う気力があるとはな……まあよい。もはや貴様には余と渡り合えるだけのMPは残っていまい。せいぜい最期まで足掻いてみせるがいい》

「…………」



 僕と幻獣を除く全生物が消え失せたこの世界で、僕は奴との闘いを続けた。




  ☆




 地上で覇王と幻獣が世界の命運を賭けて闘う一方、『幻獣の門』の前で繰り広げられていたエリトラの分身とキエルの闘いは、今し方決着を迎えたところであった。



「ホホホ……思ったより時間は稼げませんでしたか……」



 キエルの拳に心臓部を貫かれ、エリトラの分身は動きを停止する。



「ですが貴方が何をしようと幻獣を止めることなどできはしない……世界が滅びることに変わりはないのですよ……!!」



 捨て台詞を残し、エリトラの分身は塵となって消滅した。キエルは勝利の余韻に浸ることもなく、改めて『幻獣の門』に目を向ける。


 幻獣を倒す鍵となるようなものが、この先にある。そう確信を得たキエルは門の中に足を踏み入れた。


 その空間は明らかに異質であり、まるで地獄の底を覗き見ているかのような感覚をキエルは覚える。常人なら一時間もここにいれば自我を保てなくなるだろう。そんな空間に、幻獣は実に数千年もの間封印されていたことになる。


 やがてキエルは、空中に青紫色の文字が列を成して浮かんでいることに気付いた。キエルが手を伸ばしてみると、その文字はキエルの指を透過した。おそらくこの文字は何者かが何らかの呪文で空中に刻んだものだろう。エリトラが見せたくなかったのはこの文字だと思われる。


 キエルはその文字を読み解いていく。それは遙か昔の、かつての覇王と幻獣に纏わる記録だった。幻獣の力よって『第三次元世界』と呼ばれる世界が滅びかけたこと。幻獣を止めるべく覇王が立ち向かったこと。その闘いの余波で世界中に未曾有の災害が発生したこと。そして――


 やがて全ての文字を読み終えたキエルは、一つの結論に達した。



「この方法ならば、幻獣を消し去ることができるかもしれない……!!」

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