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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編
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第188話 死に場所

「……こんな所で会うとはな、覇王」



 その筋骨隆々たる身体に似つかわしくない白き翼を羽ばたかせ、キエルは僕の隣りに着地した。僕との決着をつけに来た、というわけではなさそうだ。



「キエル、何故貴様がここに?」

「……ミカを探していた。あんな所にいたとはな」



 森の方を見てキエルが呟く。どうやらキエルの視力も僕と遜色ないらしい。



「ミカ……誰かと闘っているのか? 相手はお前の配下か?」

「ああ。ミカの姉、ユナだ」



 そう答えると、キエルは驚いた表情で僕に目を向けた。



「姉、だと? どういうことだ? 確かによく似てはいるが……」

「……その様子だと、ミカからは何も聞かされていないようだな」



 それから僕は、ユナとミカが天使と悪魔の間に生まれた子であること、おそらくミカの命はそう長くはないこと、ミカがユナを殺して共に死のうとしていることをキエルに話した。全てを聞き終えたキエルは目を閉じ、深く嘆息した。



「なるほど。ミカの身体が弱いのはそういうわけか。俺はあいつのことを何も知らなかったのだな……」



 再び背中の翼を広げ、今にも飛び立とうとするキエル。僕はキエルの肩を掴んでそれを制した。



「待て。何をする気だ?」

「決まっている、あの闘いを止める。今のミカはまともに闘える容態ではない」

「真剣勝負に水を差すというのか? 貴様らしくもないなキエル」

「……確かに、俺もヤキが回ったのかもしれんな」



 キエルは力無く笑う。だがその眼差しはいつも以上に真剣味を帯びていた。



「だが、俺はセアルからミカを守ってほしいという願いを託された。セアルから受け継がれた信念が、俺の七星天使としての存在理由なのだ」



 その為なら、たとえ己の誇りに傷をつけることになっても構わない――そのような強い意志がキエルから窺えた。



「お前こそ、あれを見て何とも思わないのか? 実の姉妹が殺し合っているのだぞ。数々の戦場を渡り歩いてきた俺でさえ、あの闘いは見るに忍びない」



 森の中で熾烈な死闘を繰り広げているユナとミカを、僕は静かに見つめる。



「少し前の余であれば、貴様の言葉に賛同し、あの闘いを止めていただろうな。だがそれで救われるのは一時的にすぎん。本当の意味で救うことになりはしない」

「……やけに言葉に重みがあるな」



 キエルが背中の翼を閉じるのを見て、僕は肩から手を離した。



「かつて余にも、救おうとした奴がいた。一人で勝手に救った気になって、結果そいつを死なせてしまった……」



 僕の脳裏にラファエの顔が浮かぶ。


 だがもう同じ過ちは繰り返さない。あの二人を本当の意味で救うには――




  ☆




「くっ……!!」



 ミカから繰り出される剣撃の猛攻を、ユナはひたすら凌ぎ続ける。身体はボロボロにもかかわらず、ミカの動きは今まで以上に敏速さを増していた。絶対に姉を道連れにするという揺るぎない意志が、剣を通じてユナにも伝わってくる。


 木々を切り裂きながら、ミカはユナを後方へと追い詰めていく。ミカの記憶によれば、ユナの背後の先には大きな段差になっている。そこでユナが足を踏み外した隙に命を刈り取る、それがミカの狙いだった。ここはミカが姉と二人で幼き日を過ごした森。その地形は昨日のことのように覚えている。


 ジリジリと後退を余儀なくされるユナ。案の定その先は段差になっていた。ユナが足を踏み外すまであと数歩。ミカは勝利を確信し、口元を歪めた。



「!」



 しかしそのすんでの所で、ユナは段差に背を向けたまま後方に跳び、そのまま下方の地面に着地した。明らかに始めから背後に段差があると分かっていた動きである。



「……あははっ。そっか、そうだよね……」



 ミカがそうであるように、ユナもこの森の地形は隅々まで記憶していた。思えば当たり前のことだった。



「ガハッ、ゲホッ……!!」



 吐血するミカ。限界を超えて肉体を酷使させている代償は小さなものではない。全身が悲鳴を上げ、尋常ではないスピードで命が削られていくのが分かる。


 だが、もはやミカにとってそんなことはどうでもよかった。今のミカには失うものなど何もないのだから。どうせ遅かれ早かれミカは死ぬ。ユナを殺す瞬間まで命があればそれで構わない。



「おねえ……ちゃん……!!」



 少しでも気を抜けば意識を失ってしまうだろう。もはや口から流れ出る血を拭うこともせず、ミカは剣を構えて真っ直ぐにユナを見据える。その凄まじい気迫に、ユナは圧倒されるしかなかった。



「ミカ……まさか最初から死に場所を求めてここに……!?」



 ユナの言葉に、ミカは小さく笑みを浮かべる。



「……そうだよ。私はここで死ぬ。お姉ちゃんと二人で過ごしたこの森で。お姉ちゃんと一緒に!!」



 ユナに向けて疾駆するミカ。それに応えるかのようにユナも駆け出す。再び両者の剣がぶつかり合おうとした、その時――



「「!!」」



 獰猛な声が響き、地面が大きく震動した。二人は同時に足を止め、声の方を注視する。間もなく吹き飛ばされる木々と共に、一匹の巨大なモンスターが姿を現した。



 バイスタイラント Lv438


 HP32218/32218

 MP28990/28990

 ATK548

 DFE377

 AGI401

 HIT349



 敵意剥き出しの目で、そのモンスターはユナとミカを凝視する。程なくその招かれざる獣は容赦なく二人を襲い始めた。




  ☆




「あれは……」



 思いがけないモンスターの出現は、山の頂上から二人の戦闘を見守っていた僕とキエルにも捕捉できた。おそらく二人の苛烈な死闘に引き寄せられ、その闘争本能を刺激してしまったのだろう。とんだ番狂わせだ。


 モンスターのステータスはここからでは把握できないが、姿態から判断する限りだとおそらくレベルは500もない。しかし激しい戦闘で消耗している今のユナとミカにとっては十分な脅威となり得るだろう。



「……これでもまだ、お前は傍観に徹するつもりか?」



 どこか試すように問うキエル。だが僕の意志は変わらなかった。



「心配は無用だ。余の配下とお前の仲間は、あんなモンスターごときにやられるほど弱くはないはずだ」



 僕はこの場所から動かないまま、事の成り行きを見届けることにした。

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