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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編
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第182話 幻獣の門

「ま、待て!! テメーら、俺にこんな真似してタダで済むと思ってんのか!!」



 下級天使達の背中に向けて良い放つガブリ。しかし彼らが足を止めることはなく、そのまま扉の向こうに姿を消した。普段のガブリならすぐさま処刑していたが、今のガブリにはどうすることもできない。



「くそ……が……!!」



 一人取り残されたガブリは、歯を食いしばって床を這うように進む。



「キエル……ミカ……どこだ!! さっさと俺を助けやがれ!! 俺を……仲間を見捨てるつもりなのかあ!!」



 精一杯の力を振り絞ってガブリは叫ぶが、返事はない。まだキエルとミカは帰還しておらず、今この城にいる天使はガブリだけだった。



「ちくしょう……どいつもこいつも……!!」



 それでもガブリは城の奥へ進んでいく。その先に自分が助かる望みがあるわけでもなかったが、何もせずジッとしていることなど堪えられなかった。せっかくこの世に蘇ったというのに、またしても消滅してしまうのではないかと、ガブリは底知れぬ恐怖に駆られていた。



「!」



 やがてガブリの指先が何か固いものに当たる。顔を上げると、そこには大きな壺があった。およそ500の人間の魂が封じ込められた『魂の壺』である。その壺を見て、ガブリの中から再び屈辱が湧き上がってくる。


 一体何故、こんなことになってしまったのか。ガブリの野望は1000の人間の魂を生贄にして幻獣を復活させ、その力で万物を掌握し、この世の支配者として君臨することだった。


 だが現実はどうだ。セアルが死んだことで人間の魂が収集できなくなり、幻獣の復活は断念せざるを得なくなった。しかも自分は一度絶命して、このように無様な姿を晒してしまっている。



「覇王……あいつさえいなければ……!!」



 そう。セアルを葬ったのも、ガブリを死に追いやったのも、全ては覇王。覇王がいなければこんなことにはならなかった。もはや今のガブリは世界の支配者となる野望など頭にはなく、覇王への復讐が最たる目的と化していた。



「ホホホ。相当ユート様のことが憎いようですねえ」



 不意に一つの声がした。ガブリが声の方に目を向けると、そこには悠然と壁に寄りかかる仮面の男の姿があった。



「あぁ? 誰だテメーは……?」

「おっと。そう言えばこうしてお話をするのは初めてでしたね。ま、名乗るほどの者ではありませんよ」



 何者か知らないが、味方ではないということだけはガブリも直感で理解できた。



「失せろ。こっちはテメーなんぞに構ってる暇はねーんだよ……」

「口の利き方には気を付けた方がいいですよ。なんせ貴方を蘇らせたのは我なのですからね」

「……なんだと?」



 瞠目するガブリ。その仮面の男――エリトラは、静かに『魂の壺』のもとまで歩み寄っていく。



「これが人々の魂を封じ込めた『魂の壺』ですか。1000の魂を生贄にして幻獣を復活させ、その力をもって覇王を滅ぼす。それが七星天使の計画なのでしょう。しかし見たところ魂は500ほどしか集まっていないご様子。これでは幻獣の復活は叶いませんねえ」

「……テメーには関係ねえ。それより答えろ、なんで俺はこんな状態になってる? 俺を蘇らせたのが本当にテメーなら知ってるだろ……!!」

「ええ、確かに蘇生呪文を使って貴方を蘇らせたのは我です。しかしこの世に完全な状態で蘇らせる呪文など存在しません。そこには必ず何かしらのデメリットが付いてきます」



 ガブリは自らの【死者乱舞】の効力を思い返す。確かにあの呪文で蘇った者は自我が失われる他、この世に15分しか留まれないというデメリットがある。



「……なら俺がこんな有り様なのも、テメーが使った蘇生呪文のデメリットのせいってことか?」

「ご明察。私が使用した呪文は【無力蘇生】。そのデメリットは――まあ、それはご自分のステータスを見れば分かるでしょう」



 エリトラに促され、ガブリは自身のステータスを確認した。



 ガブリ Lv1


 HP1/1

 MP1/1

 ATK1/1

 DFE1/1

 AGI1/1

 HIT1/1



「なっ……!!」



 驚愕のあまり、ガブリは一瞬頭の中が空白になる。ラファエの魂を取り込んだことで大幅の上昇したステータス、それらの数値が全て「1」になっていた。


 これがエリトラの【無力蘇生】のデメリットである。これではガブリに起き上がるほどの力がないのも、呪文を発動できないのも当然だ。流石のガブリもこうなっては赤子より無力である。



「しかし嘆くことはありません。貴方の望みはちゃんと叶えてあげますから」

「……!?」



 今のガブリの望みはただ一つ、覇王への復讐のみ。それをエリトラが叶えるとは一体どういうことなのか。



「それはさておき、『幻獣の門』の場所を教えていただけませんか?」

「……幻獣の門、だと?」

「『天空の聖域』のどこかにあるのは分かっていますが、なんせここは広い。わざわざ探すより貴方に聞いた方が早そうですからね」



 まさかそれを聞き出す為だけに自分を蘇らせたのかと、ガブリは戦慄を覚える。



「さあ、早く教えてください。七星天使の貴方なら当然ご存じでしょう?」

「……ハッ。テメーにそんなことを教えてやる義理は――」



 ガブリの言葉を遮るように、エリトラは懐から一本のナイフを放った。それはガブリの顔面すれすれの床に突き刺さる。



「貴方のHPは僅か1。ほんの少しのダメージでHPは尽きます。またあの世に逆戻りは嫌でしょう?」

「……っ!!」



 屈辱に歯噛みするガブリ。だがエリトラに逆らうことが死を意味しているのは明白だった。もはや死んだ方がマシなようにも思えたが、ガブリの望みを叶えるというエリトラの言葉が本当だとしたら、ここで死ぬわけにはいかない。


 だがたとえ『幻獣の門』の場所が分かろうと、生贄に捧げる魂の数が足りない以上、幻獣を解き放つことはできない。一体エリトラの目的は何なのか――





 ガブリから『幻獣の門』の場所を聞き出したエリトラは、【次元連結】を発動して巨大な黒い渦を発生させると、重さ数百キロの『魂の壺』を右手で軽々と持ち上げる。そして左手でガブリの腕を乱雑に掴み、その渦の中に身を投じた。



 数十秒後。渦を抜けた先に、異彩のオーラを放つ紫色の門があった。空気は息苦しくなるほど重く、扉の周囲にはドス黒い煙霧が拡がっている。聖なる光に満ち溢れた『天空の聖域』において唯一闇に覆われた空間、そこに幻獣の門は存在していた。

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