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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編
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第181話 見捨てられた者

「ユート様、あの剣は……!」



 アンリが目を向けた先、そこにはガブリの血を存分に吸い上げた【怨念剣】が落ちていた。


 基本、呪文による効力はその呪文の詠唱者が死ねば自動的に消失する。今し方ガブリの【空間創世】によって創り出された空間が崩壊したのもそういうことだ。しかし例外的に詠唱者が死んでも効力が消失しない呪文も存在する。どうやらあの【怨念剣】もその一つのようだ。



「……これは余が預かろう」



 僕は【怨念剣】を拾い上げる。別に欲しかったわけではないが、こんな禍々しい剣を放置しておくわけにもいかないからな。その気になれば破壊することも可能だろうけど。



「ユート様、エリトラの姿が見当たらないのですが……」

「……うむ」



 ユナの言葉に頷く。エリトラらしき気配も感じないので、近辺にいないのは確かだ。



「まさか七星天使の闘いに敗れ、命を落としたのでは……?」

「その可能性は低いだろう。エリトラほどの男が易々と殺されるとは思えない」



 そう答えたのはアンリだった。



「……そうよね。アンリは以前、エリトラと闘って負けてるものね」

「なっ!? ゆ、ユート様の前でそういうことを言うな!!」



 アンリがエリトラに負けた? そんな馬鹿な――と言いたいところだが、元々四滅魔の第一席はエリトラだったわけだし、十分有り得る話ではあった。


 エリトラがキエルとの闘いに敗れて死んだ可能性は、僕も低いと考えている。もしそうならキエルもそのように答えていたはずだ。しかしキエルは僕に聞かれても何も答えなかった。キエルが決闘の結果を濁すような性格とは思えない。


 ならばエリトラの身に一体何があったのか……。手掛かりが何もない以上、今はエリトラの無事を祈るしかない。



「時にアンリよ。此度の闘い、お前には苦労をかけたな。囚われている間、ガブリに何かされなかったか?」

「お心遣い感謝いたします。身体に淫らなことをされた形跡はございませんので、私の純潔は保たれたままです。よってユート様にこの身体を捧げることについては何の支障もないかと」



 そういう話をしたいんじゃないんだけど……。そう思いながら、僕はアンリの頭に優しく手を乗せた。



「ガブリを葬った余の策略にはお前の呪文が必要不可欠だったが、それ以上にお前との信頼関係なくしては成り立たなかった。お前にはとても感謝している。お前は余の最高のパートナーだ」

「…………」

「アンリ?」



 パタン。目をハートマークして地面に倒れるアンリ。どうやら感激のあまり気を失ったようだ。まあ、予想していた反応ではあったけども。僕は溜息をつきながら、アンリの身体を抱えた。



「では覇王城に戻るとしようか、ユナ」

「はい」



 僕は【瞬間移動】を発動し、アンリ、ユナと共に覇王城へ帰還した。


 斯くして、七星天使との第二次大戦は幕を下ろしたのであった。




  ☆




「うっ……」



 覇王との死闘が終結した直後のこと。意識を取り戻したガブリは、呻き声を洩らしながら、ゆっくりと目を開けた。



 果たしてそこは天国か、それとも地獄か。否、どちらでもない。そこは紛れもなく現実の世界だった。今ガブリがいるのは『天空の聖域』である。


 顔を上げてみると、キエルが七星の光城の代替として【創造】の呪文で造り出した城がある。そのすぐ近くでガブリは横たわっていた。


 一体何故、自分はこんな所にいるのか。混濁した意識の中、ガブリは自らの記憶を辿る。



「そうだ……俺は……!」



 覇王の姿が脳内に映し出され、ガブリの内から屈辱と憤怒が込み上げてくる。そう、ほんの数刻前にガブリは覇王との闘いに敗れ、凄惨な最期を遂げたのである。


 ガブリの策は完璧だった。ラファエの魂を取り込むことで力を極限まで高め、覇王を罠に陥れてステータスを大幅に減少させ、高等星呪文の発動も封じた。そして人間共を人質にとって終始闘いの主導権を握り、己の外道っぷりを存分に知らしめた上で、覇王を完膚無きまでに葬り去る――はずだった。


 だが、罠に嵌っていたのはガブリの方だった。覇王の悪辣な策略によってガブリは自害を強要され、自らの手で心臓を貫いた。全ては覇王の掌の上でしかなかった。


 より一層覇王への憎悪を滾らせる一方で、ガブリは疑問を覚える。では何故、自分はこうして生きているのか? あの時確かにガブリは死んだ。何者かが【死者乱舞】を使って蘇らせたのかと一瞬考えたが、あの呪文で蘇った者には本人の意志は存在しないので、こうして思考することもできないはずだ。


 他の蘇生呪文が使われた可能性もあるが、そもそも【死者乱舞】を含め、蘇生呪文を使える者などこの世に数えるほどしか存在しない。少なくともガブリの記憶では自分以外に心当たりはない。セアルが所持していた【最期の灯火】はそれに近いが、あれは死体の状態で活動を可能にする呪文なので、厳密には蘇生呪文ではない。


 だが今のガブリにとって蘇った理由などはどうでもよかった。こうしてこの世に舞い戻ってきた以上、再び覇王と闘うチャンスがあるということだ。今回はたまたま覇王が一枚上手だっただけのこと。次に闘えば勝つのは俺だ。ガブリはそう確信していた。


 しかしどういうわけか身体に力が入らず、立ち上がることすらできない。その上呪文を発動したくても、何故か発動できない。原因は不明だが、今は蘇った理由よりもそちらの方が憂慮すべき問題だ。こんな状態では覇王に復讐するどころではない。ガブリは這いつくばったまま両手両足を使って必死に進み、目の前の城を目指した。



「ガブリ様!?」

「一体どうなされたのですか!?」



 どうにかしてガブリが城の扉を開けると、偶然その場にいた下級天使達が駆け寄ってきた。そんな彼らをガブリは鋭く睨みつける。



「うるせえ……んなことより今の俺の状態を何とかしろ……!!」



 弱々しい声でガブリが言う。もはやまともに声も出せない有り様だった。



「何とか、とは……?」

「なんだか知らねーが身体に力が入らねーし呪文も使えねーんだよ……!! だからどうにかして俺を通常の状態に戻せ……!! いくら無能のテメーらでもそれくらいできんだろ……!!」

「…………」



 いきなりの無茶な命令に、下級天使達は無言で顔を見合わせる。



「オイ聞いてんのか!? いいからさっさと――」



 不意にガブリの言葉が止まる。今のガブリが無力と分かった途端、下級天使達の眼差しが、まるで死にかけの害虫を見下ろすかのような目に変わっていた。



「ガブリ様。申し訳ございませんが、我々にはどうすることもできません」

「仮にできたとしても、我々は貴方をお救いしようとは思いません」

「……は?」



 予想だにしなかった彼らの発言に、ガブリは大きく目を見開いた。



「我々は七星天使に忠誠を誓う者として、七星天使の為なら命を捧げる覚悟もございます」

「しかし我々は以前より、貴方の野蛮な振る舞いは七星天使に相応しくないと思っていました」

「要するに貴方は忠誠を誓うに値しないということです」



 これまでの鬱憤を晴らすかのように下級天使達が捲し立てる。ガブリは衝撃のあまり言葉を失っていた。



「何があったのかは知りませんが、その酷く衰弱したご様子では、そう長くは保たないでしょう」

「無駄な足掻きはやめて、このまま安らかに眠ってください」

「それでは失礼します」



 下級天使達は恭しく一礼すると、ガブリを放置してその場から去っていった。

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